第三話 『どっちも真面目に裁判をしろ』と思いながらキレた曇り顔の従者
「と、言うわけで裁判になるから。ハヒルは既に俺に不利な証言をした事にしてある。お前はソーデスネだけ言ってれば良い。裁判終わってどうして良いか分からなくなったら、家の戸棚に手紙が入ってるから参考にしてくれ。頼んだぞ!俺はデスアイズで見てるから!」
「ちょ、待って下さい!一方的過ぎます!戸棚見てきます!」
「おい!馬鹿やめろ!何で一ミリも言う事を聞かないんだ!動くな!」
「くぁ!?身体が!卑怯者!御主人様は卑怯者だ!この意気地なし!イ◯ポ!じゃないけど!」
控室のような所で無益な言い合いをする私とイブキ様…イブキ様は木製の手枷のような物を付けられてる…この人が本気を出せば一瞬で外せる程度の手枷が…
タイムリミットが近い感じがする…それに「デスアイズで見てる」という事は死ぬ気だ…何とかしなければいけないのに話が進まない…そんな事を思っていると憲兵がやってきた。
「おい、外道!時間だぞ!さぁこっちに来い!流石に手枷をされたら大人しくなるようだなぁ」
「い、一体何が起きるんですか?私は本当に何も…姫は何と言ってるんですか?」
その雑な演技にいちいち腹をたててしまう…
「さぁな…それは自分の胸に聞いて見るんだな…そうですよね?聖女様…」
「ソーデスネ」
【おい!七英雄だぞ!?魔王直下の幹部を殺し、魔界ウロウロしてた人だぞ!?そんな手枷で大人しくしてる事がおかしいって気付けよ!】
私の訴えは届かない…
「ハヒル…貴女…まさか何か知ってるんですか?」
「知ってるも何も…貴様の罪は許されるものではない」
「ソーデスネ」
【白々しい!イブキ様しか知らんじゃないか!憲兵!お前は間に挟まるな!お前と会話が成立したみたいになるだろうが!】
「良いから来い!この極悪人!」
ドゴォ!
「グァッ!?分かりました…自分で行きますよ…」
普段なら一般人が、同じ事しようなら即殺の勢いだが、今どう考えても腹を蹴ろと言わんばかりの体勢で止まってた…それに一般人の攻撃が効くわけ無いし…
本当に何がしたいのかさっぱり分からない。
こうして私達は王宮裁判に出廷した。
―――――――――――――――――――――――
そしてこの茶番である。
「被告イブキ!見たまえ!この手紙の束を!各国の姫、女官、あまつさえ他国の英雄の従者でさえ手を出して!申し開きはあるか!?」
裁判官が宣う、そして泣く肥溜め…
「私は…信じていたのに…貴方の様な外道を信じた私が馬鹿でした!この、裏切り者!」
「違う!それは…それは何かの…クソゥッ!」
いや、何かなんですか?色々知ってるんだから何か言って下さいよ…裏切り者はお前だろうがとか…
万歳のポーズで土下座したイブキ様、心なしか嬉しそうに見える…
「これは最早、各国の総意と言えます」
「ソーデスネ」
【ふざけるな!イブキ様は遠征時、魔導器を使い欠損患者のサポートアイテムを提供したり各国の貴族や王族にも惜しみなく技術提供したんだぞ!その手紙は嘘だ!イブキ様の面上げろ!笑ってるぞ!肥溜め女は今すぐ死ね!】
肥溜めリリーが泣いている…この肥溜めは即死すべきだと思った、というか言った。
「判決を言い渡す…死刑!」
ザワワ…ザワザワ…
英雄の死刑…どれだけ愚かな事か、ちょっと考えればすぐ分かる事…
失われる技術、魔王軍の残党だっている…
ただ…何かが…おかしいとは思った。
七人の英雄達…皆が皆、名前を聞かなくなっていた。
まるで示し合わせた様に名前を聞かなくなり、そして国によっては従者が台頭していた。
隠遁した者、消息不明な者、死んだ者…
この英雄達は何のために戦って来たんだ…国の為ではないのか?
他の従者は何をやっているんだ?イブキ様の考えている事がわからな
「それでは処刑は…稀代の英雄、月の聖女ハヒル様の断頭になります!」
ワアアアアアアアッ!!ハヒルさまぁああ!!
「ソーデスネ」
【待て…何いってんの?何で私が生涯の忠義を示したイブキ様の首をはねる事に?何だったらお前ら全員の首をハネても良いんだが!?ワアアじゃねーよ…】
そもそも月の聖女って何よ?私はそんなもんになった覚えは無いが…
「皆さんもご存知!月の聖女様は魔王軍の討伐に英雄として参加!何と鮮やかなダンスのような武術で魔王を討ち取りました!」
はい?
「そして、この従者は道具を作るしか脳が無いが、仕方なく月の聖女様の温情で討伐軍に参加。だが、やっていた事はセクハラ道具を作り続けるばかり…そればかりか他国の女と破廉恥騒ぎ、魔王軍との戦いにはそれでも魔王討伐後は従者の名誉回復のために聖女様は奔走しました…」
いや、英雄と従者の立場逆転してるが?
逆に、最初の方は幹部との戦いに無理矢理連いていって怒られたが?
「しかし…敬愛している姫との愛情で少しでも性根が治ると思ったが…各国で権力をかさにやりたい放題。流石に聖女様もお怒りになったのだ!」
お怒りなのはそこにいる肥溜め姫リリーに対してだが?
待って…まさかコレって…
「ソーデスネ」
この人は!まさか無理矢理私に殺させるつもりか!?イカれてる!本当に!
ガチャン…ガチャン…ガチャン
足が勝手に前進する…最早、力で装衣に打ち勝つしか…無い…
「うわぁぉぁ!私が何をやったと言うんだぁ!」
いや、絶対になにかやってるでしょう?実際魔王も倒したでしょう?
それに泣いてる感じにしているが、長年一緒にいた私だから分かる…この感情は喜び…そしてこの匂い…まさか…
「もうおしまいだぁ!ウッ♥ク♥何でこんな事になってしまったんだあ!アッ♥」
白いアレを…出してる!?この人、出してるぞ!?
なんなのですか!?奴隷をかったのだから?捌け口にすべきでしょ!?許さない!何だか分からないけど許しませんから!
この天衣兎萠に後から足された、何やらゴツい拘束パーツに打ち勝つ為に…究極奥義を出すしか無い…
「ソーデスネ!!」
【爆ぜろ!萌えろ!天衣兎萠…発情鬼!】
別に正確に技名を言わなくても発動する究極奥義だ。萌えというのは異世界でドキドキを現すらしい。
イブキ様の付けた枷を外すには…1000倍しか無い!
イブキ様にも見せた事の無い奥義究極、発情鬼。
最後に使ったのは100倍か…相手は魔王軍幹部【力の狂戦士】オイラー、そして軍師のオイ・コニシだった。
奇抜な服を着た首をクイっと動かすのがクセの、蛮勇で有名な巨大なオークだった。
魔王軍の知恵者、オイ・コニシが英雄との戦いを避けさせ、後衛にいた我々従者や軍をを狙ってきたのだ。
次々倒れる同じ従者や各国の軍隊…英雄達も向かっているが間に合わない。
私も一撃で動けなくなった…暗殺術が一切効かないのだ。
同時に、イブキ様や英雄達はいつもこんな化け物を相手にしているのかと驚愕したものだ。
しかし…イブキ様の作った天衣兎萠が負ける訳無い、使い手である私に問題があるのだと考えた。
そこで力を使えば使う程、時間経てば経つほど強くなる天衣兎萠のシステムを、いざ死ぬかも知れない直前で頭が理解した。
その瞬間、通常の時間経過で能力と感度10倍化をひたすら上昇させる魔力操作を取得した。
ただし、感度を犠牲にして…
いざ発動すると50倍を越えたあたりで装衣が肌に触れているだけで絶頂した。
脳がピンク色に染まる…気が狂い全身が敏感な所と同じ状態になり脳が焼ききれる様な感覚になったが、それでも私はイブキ様を信じた。
ただ…一心にひたすらにイブキ様を信じた。
次の瞬間、オイラーは死んでいて、身体中血塗れだった。
従者や軍の者はこちらを驚いた顔で見ていたが、私はそれどころじゃなかった。
とにかくイブキ様に会いたい。多分、会わなければ死ぬ。このままでは気が触れて死ぬ。
まるでオートマータの様に、イブキ様の事だけを考える化け物になった。
気付けば寝ていた、隣にイブキ様がいた。
『もうこんな事をしては駄目だよ、使い方が違うし、目的も違う、全部違う』
優しく頬を撫でられ諭されて…私は…この人に拾われて本当に幸せと…
「ソ!ソソ!ソソソソッ!ソ―デデデスススス…」
【キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!】
パァァァァン…ガシャッ
「せ、聖女様が本気を出してイブキを処刑するぞ!」
『キエッ!♥キエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!♥!♥!』
【する訳無いだろうがぁぁあ!!死ぬのはイブキ様以外全員だよぉオオオオ!そしてイブキ様には責任を取って貰う!!このムラムラのおおお!】
イブキ様への忠信を示す事(イブキの良い所を思い出してムラムラする事)で発情鬼が発動し、私の枷が取れた…
そして脳内にイブキ様をお◯す、其の為に周りは皆殺しと考え力を開放する。
イブキ様が呪印を作り何かしようとしたがもう遅い、王宮にいるクソ雑魚共では私を止められない!
「おま!?何それ!?やり過ぎだよチクショウ!邪魔ばかりしやがってぇ!!!」
イブキ様が巨大な棺型の魔導器を召喚した。
鏡に写る発情鬼状態の私、兎の様な真っ赤な目に赤いオーラが迸る。
今の私に魔導器の発動を避けるのは容易い。
――ほら、上手くわけない…アイツ馬鹿じゃないの?――
――どう考えても馬鹿ですね、英雄も従者も、そして貴女もですが…――
む?聞いた事のある声が、広間のバルコニーから聞こえた。
だが今の私には関係無い!殺す殺す殺す!!
トス!トス!トス!
「キエエエエエエエエエエエエッッ!?…………!?」
私の影に何か打ち込まれて動けない!?これは…知っている、知っている従者で使う奴がいた…影縫とか言う…動きを止める…
「うおおおおお!魔導器【冥府の川流れ《コキュートス》】!!!」
私はこの、棺型の魔導器を知っている…コキュートス…
巨大な棺に閉じ込められ全身を黒い鎖が縛り凄まじい圧の黒い水が上空から延々と襲い来るイブキ様の神器と言われる魔導器の一つ。
ありとあらゆる力を黒い水は吸収し、指定した人員に分配、もしくはイブキ様が受け止める。
四天王の一人に不意を突かれ、絶対絶命のピンチに追い込まれた時に使われたある意味伝説の一つ。
四天王の一人は身動き取れぬままありとあらゆるものを吸われ、英雄達にその力は分配された。
まるで傷や魔力の枯渇はなかった事になり、代わりに干からびた四天王の亡骸が棺から出てきたそうだ。
今、いつもの薄手の天衣兎萠の装衣の上から黒い鎖が巻かれ…突如巨大な滝の中にいるような圧力が襲う。
そうかぁ…私は使うなと言われた奥義を使った。
だからイブキ様が私を止める為に、自らの最高峰の魔導具で愚かな弟子である私を…
正直、悪くないと思った。
鎖自体もまるでイブキ様に拘束されているみたいで嬉しい。
もしかしたら、イブキ様の魔道器で死ねば、吸収されれば…魂も連れて行ってくれるかもしれない。
私達は、死んだらこの世界の魂は、この世界の新たな命に宿るという。
私は…嫌だった…何故なら転生者は元の世界の命に魂が戻ってしまうという。
【死が二人を分かつまで】
そんなの嫌だった…愛して欲しいとは言わない…ただ…死を持って尚…お側に…
ビュルるるるるるるるるるるる
「うおおおおおお!?ハヒル感じ過ぎイイイイイイイイイイイアイイイイイ♥♥止まらないいい♥♥♥」
――元同じ英雄とは言え、こんな奴等、助けんのぉ?…マジ嫌だぁ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます