悲しみの英雄…絶頂編

クマとシオマネキ

第一話 かの英雄の従者…彼女は曇らせ続ける、顔を…

「御主人様、お茶にしませんか?」


「あぁ、ハヒルか…ご苦労さん。そうだな。話したい事もある。君も座り給え」


「はい、御主人様。本日も御主人様の素晴らしさ!イブキ様の伝説を皆様に伝えてきましたよ」


 私は今、メイド姿で慣れない家事している。

 本来は秘書であり弟子であるが、御主人様の近くにいたいからこそのメイドだ。

 細かい家事などは流石に家の者が行うが…


 ちなみにメイドは私の本業ではない。

 本来は語るべき職業ではないが、御主人様を語り…御主人様を誇るのであれば、私の職業の説明は必要となるだろう。


 私の御主人様は伝説の7勇者の1人・魔導器使いのイブキ様。

 私は勇者イブキが魔王討伐の際、その従者をしていた…元々奴隷出身の名前の無い私が、御主人様から与えられた名はハヒル。

 名前等無い私に名を与え、技術を伝授してくれた。

 その技術は暗殺術、闇夜や、影に潜み殺す。

 私の職業はアサシンをだった。


 魔王討伐の後、世間が名しか知らぬ魔導器使いの勇者イブキ…御主人様の名声を伝える役割が出来た。


 一刻も早く名声を拡めねばと日々活動をしている。


 御主人様の名は討伐の間、殆ど名が出る事は無かった。

 そして私は魔王討伐の遠征の際、御主人様が生命をかけた戦いをしている間、名声を得ていた…

 勇者の従者が何故、勇者より名声を得るのか。

 

 魔王の住む場所は、ある程度の実力がないと入れないのだ。

 そして勇者達の戦いを見れるものは殆どいない。


 何故なら彼らは誰も見る事すら許されない戦場、何故ならそこは強者しか入れない最前線で…

 異様な強さを持つ一個体の化け物から、魔物の軍団まで常に戦いながら進み続ける。


 私達、勇者の従者は…王や組織、それを見つめる民と、勇者達との箸渡し的な位置にあった。


 勇者達、そして私達も陰ながら助力し、各地域を支配している幹部を倒し城を落とす。

 そこへ各国が進軍し村を作る、国を作る、その際に地ならしと残党の露払いをするのが従者の役目だった。


 すると各国の勇者の従者が軍の前で、魔物を倒し勇者の活躍を伝える事になる。

 それが各国の勇者の評価に直結した。

 そして民は我々の活躍しか見る事は無い。


 私の場合、例えば御主人様の作った着る魔導器、【天衣兎萠テンイウホウ

 そこから変形する【絶死月ゼッシゲツ】という魔導器から繰り出す高速の一撃必殺に皆が羨望の眼差しを向ける…らしい。


 単純に御主人様の創造した、その装衣の美しさから本来の私以上の評価を得てるだけだと思われるが…。 


 御主人様は魔導器使い、適性を見つけ、その適正に沿って武具を作る。

 勇者たちの装備をカスタマイズして強化したのは御主人様だ。

 その技術を…私如き…元奴隷の為に貴重な時間を使い用意してくれた。

 実際、装衣【天衣兎萠テンイウホウ】を装衣すると…まるで御主人様に守られている様で安心するのだ。


 軽く早くて、そして死なぬよう、窮地を脱する力を、あらゆる苦難に立ち向かえる様に…


 私の自慢の御主人様であり私の全て。

 露払いとは言え残党、追い詰められる事もあった。

 その都度、御主人様の顔や優しい手の温もりを感じた。

 すると底から湧き出る様に身体が熱くなり、力が出る。


 その都度、私の命は常に貴方と共にあった。

 何か失う時は常に先に、何か得る時は常に後に、と御主人様を眼の前にする度に決意する。




「それで御主人様、お話とは?」


「そうだな…そろそろ隷属契約を行使しようと思う…」


「分かりました…よろしくお願いします」


 隷属契約とは制限だ。元々、私は奴隷として御主人様に買われた。

 幼い私を奴隷商人から買った時に御主人様は言った。


――今は…契約で縛らない。逃げたければ逃げれば良い。殺したければ挑むといい。頼るのであれば報いよう――


 戦争中、奴隷というものは溢れ返る。

 だから幼い奴隷は人気が無い、力がないから。

 幼い奴隷、私のような女は特に、例えば性の捌け口であれ、玩具であっても飼われていた方が良いのだ。


 私は元々ダークエルフというエルフの中でも禁忌な種族だった。

 エルフと他種族の間から生まれた忌み子。


 エルフ族は純血をのぞむ。

 つまり、私は捨てられたのだ。

 顔も知らぬエルフの父親と種族も知らぬ母に。


 その私を…御主人様は20歳頃だろうか…その私を拾い、厳しい師として、慈悲深い父として、親しい友人として接してくれた。


 隷属契約で何を縛るのか?

 私の鍛えた肉体や技術を1から鍛え直すというか?

 それとも…?何であれ受け入れるつもりだ。

 それほどの深い信頼と絆で結ばれていると信じている。

 

 今でも思い出す、御主人様の話を語るなら一晩でも、それこそ幾らでも語れるだろう。

 汚い私を洗い流し、素晴らしき愛情を持って育て鍛え、私は御主人様を心からお慕いもうし…


「その前にハヒル、何で無茶苦茶をした俺を憎まないんだ?何で調子に乗って何かと結託して裏切らないんだ?私の予定と違うが…」


 は?


「な、何を仰せですか?私が御主人様を憎む…裏切るなど…」


「予定と違うな…お姫様ん時は上手く行ったんだけどなぁ…」


 私は困惑する…何を言ってるのか分からない…


「わ、私が何か不興を買う事をしましたでしょうか!?え、あ!いや…暫しお待ちを!」


 御主人であり師の教え…誰かに聞いて鵜呑みにし、判断するのは最も愚かな事。

 暗殺者にとって最も恥ずべき行為であり、命を失う理由になる…目で見て聞いて、考え真実を掴めと。


 考えろ…考えるんだ…今…私は試されている…

 ここにいるのは優しい御主人様ではない…アサシンの師であるイブキ様だ…


「ハヒルよ、ここに【デスアイズ】という魔道具がある。賢者から貰ったんだ。死んでも自分と繋がった人間が死後、どの様な感情を持って生きるか…アンデットとなり感じる事が出来る…その間、魂は縛られるがな」


 懐から禍々しいキューブを出し眺めている師、イブキ様…私をアンデットに?

 しかし師の願いであれば私は…


「私はこれを持ってお前には殺される事で、お前の曇った顔を『天衣兎萠!ハァアアア!絶死げっ!?カッ!?ハッ!?』

 

 一瞬で判断した。壊す!しかし動けない…!?


 何故、師は私に殺されようとしている!?

 何かに操られているかも知れない…だがどんな理由があれ、私がイブキ様を殺すなんてあってはならない!

 

 【デスアイズ】とやらを破壊しようと天衣兎萠を装衣し、素早く破壊しようとしたが身体が…


「お前、説明中に破壊しようとする奴がいるかよ…しかし天衣兎萠か…バニーガールとキャットスーツ、時間が経つとエロくなる…俺の性癖全開の魔道具をよくもまぁ…なぁ…」


 何か訳の分からない事を言って感慨深い顔になってらっしゃる…


「な、何をされましたか!?身体が動きません!」


「それは私が作ったものだ。私が動かせない道理は無い。一に対して百の対策を取る、散々言ってきた事だが?」


 天才とはまさにこの事。極まった策士に私に出来る事は…


「私を信用して下さい!私には貴方しかいないんです!お願いします!私を御側に!ぐあぁぁ!?」


 身体が勝手にブリッジの姿勢になる…

 この装衣は、魔力を手甲と足甲、頭から腰まであるパーツで魔力をコントロールして身体強化をする。

 つまりもし…操られれば私の自由は一切効かない…


 私に出来る事は…信じて下さいと懇願するだけ…


「隷属契約…一つ、決して私の持つデスアイズを壊さない…と」


 何を?、私が過去、御主人様に拾われた時に彫られた小さな下腹部にある隷紋が光る…


「一つ、決して自らを殺傷しない事」


 自決を止められた…つまり…


「一つ、私…イブキが殺すなと命じた相手には力を発揮しない事」


 御主人様は誰かに自分を殺させる?させるか!止めなければ!ならばっ!


「一つ、私がハヒルから離れたら禁止事項以外うぉぉぉぉ!?」


 私は装衣を無理矢理脱いでほぼ全裸で御主人様に掴みかかった。

 止めないと取返しがつかない事になると思ったからだ。


「駄目です!私と貴方は一心同体!どんな所でもご一緒致します!どんな所でも!逃がしません!逃がしませんからっ!!逃さない!にあぁっ!いっしょあっ!」


 感情のままに動く、理性で動くとそこにつけ込まれるからだ。

 御主人様はそういう手管を得意とするのを知っている…だから私は御主人様の頭を掴み口に手を突っ込んだ。


 そして逃げようとする御主人様の口を口で塞ぐ!


 心が昂ってきた…御主人様へのリビドーが溢れ出る、雌奴隷相手なら飼い主らしく私を犬のように扱えば良いのにそれをしない!


 許せない!わかって欲しい!私に跨って道中を散歩すれば良い!私如きを持て囃す馬鹿共に分からせれば良い!この雌奴隷の評判をガタガタにして尊厳を踏み躙り覇権に乗り出せば良い…私は自分でも封印していた感情が剥き出しになり、力づくで御主人様の服を脱がした所で急に身体の自由に襲われた…

 

 もう少しなのに…何かされた…流石、勇者の一人…お慕い…申しております…


「ゴフッゲホッゲホッ!ハァ…御主人様って言いながら襲いかかってくるってどうかしてるだろ…これじゃ元の世界のメンヘラじゃねーか…まいったなぁ…」


 私は力が失われていく中、最後の力を振り絞りイブキ様の股間に手をやる…

 魔王討伐後、我が国の姫と婚姻を結び、近いうちに城に入る。

 その前にと私は抱かれたのだ、望みを言えと言われたから…それなら…と、私から…


 私は貴男の影…一心…同体…

 

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