ダンジョン魔改造!このチートスキルでガトリング美少女とともにダンジョン配信し、人生ハードモードを抜け出せ!

逢巳花堂

第1話 ダンジョンを改造できる、それが俺の能力

 激しい銃声が渓谷にこだまする。


 ガトリングガンが火を噴き、放たれた大量の銃弾が、押し寄せるモンスター達を次々と粉砕していく。


(おー、すごいすごい。ありゃ、相当強いな)


 岩の陰から様子を見つつ、俺は彼女を助けようかどうしようか、迷っていた。


 ぶっちゃけ、あれだけ戦えるなら、救援とか必要なくね?


 襲いかかっているモンスター群は、低レベル帯の「泥田坊」。体が泥で出来ているから、非常に脆い。


 ガトリングガンを自在に使いこなしている女の子は、あれだけの重火器を軽々と扱っている時点で、並大抵のダンジョンライバーではない。アニメタッチのセクシーなレオタードアーマーを着用しているが、たぶん、パワードスーツの類だろう。


 女の子は、透き通るように白い肌と、長い金髪が印象的だ。あの顔には見覚えがある。名前はど忘れしたけど、たしか、かなりの人気ライバーだ。


 彼女の背後には、ボールのようなものが三個ほど浮かんでいる。おそらく、配信用の機材だ。あんな高性能な物を、俺と同い年くらいの女の子が、普通は持てない。べらぼうに高いからだ。大企業のバックアップでもないと、無理だ。


(ま、自分でなんとかできるっしょ)


 とりあえず、俺は俺で、この「等々力渓谷ダンジョン」をもうちょっと探索したい。


 それに……あまり、他のライバーと関わり合いになりたくない。


《キリク:え、助けないの?》


 ふと、スマホの画面を見ると、そんなコメントが流れてきた。俺の配信を見てくれている、唯一の熱心な視聴者。


 面倒くさいなあ、と思いつつ、俺はスマホに向かって語りかける。


「必要ないよ。あの子、俺より遙かに強いから」


《キリク:ダメだなあ》


《キリク:そんなんだからファンが増えないんだよ》


 随分な言われようだ。でも、視聴者キリク氏の言うことは正しい。俺のDライブチャンネルの視聴者数は、いまだに5人。その内4人は、クラスメイト。純粋な視聴者はこのキリク氏のみである。


(あんまり関与したくないんだけどな)


 過去、俺はとあるダンジョン探索チームに所属していた。ダンジョン配信をしていない集団だったので、誰一人知らないのだけど、そこでひと悶着あった。もうあのような目には遭いたくない。


 俺の持つスキルは、少々、いや、かなり厄介で誤解を生みやすいものなのである。


 できれば使いたくない。けれども、使わなければ、ダンジョン内で活躍することも出来ない。すごく難しい。


《キリク:なんか、様子がおかしくない?》


 唐突に、スマホの画面を走る、不穏なコメント。


 俺は神経を研ぎ澄ませて、周囲を警戒する。渓谷の上空をカラスの大群がギャアギャア喚きながら飛び回っている。キリク氏は、俺のスマホカメラを通して、あのカラスの群れを見たのに違いない。


 突然、大地が揺れた。


「な、なんだ⁉」


《キリク:やばい! きっと、世田谷系のダンジョンに、たまに出没するダイダラボッチだ!》


「ダイダラボッチ⁉」


《キリク:巨人だよ! ほら、そこに!》


 俺は、スマホのカメラが向いている方向へと、顔を向けた。


 天をも貫かんばかりの超巨大な、漆黒の影の如き巨人が、ゴゴゴゴと重々しい音を鳴らしながら、渓谷の中を進んでくる。


 幸い、俺が隠れている岩陰は、ダイダラボッチの移動ルートではない。


 しかし、ガトリングガンの女の子は、もろに進撃ルート上で戦っている。


「あああ、もう!」


 俺は頭を掻きむしり、しばし、どうすべきか悩んだ。


 彼女を見捨てる、という選択肢もあった。


 でも、そんな選択肢は選びたくなかった。


「わかったよ! 行くよ! 行けばいいんだろ!」


《キリク:さすがカンナ氏! マイヒーロー!》


 キリク氏のコメントをチラッと見てから、俺はスマホをポケットにしまった。きっと、今ごろ、キリク氏は文句のコメントを乱打していることだろう。だけど、ここから先は見せられない。


 自分のスキルは、人に知られてはいけないものだ。


 岩陰から飛び出した俺は、ガトリングガンの女の子が戦っているエリアへと入っていく。そこから、まっすぐ彼女のそばへ――行かない。


 渓谷の岩壁に近寄ると、ダイダラボッチの現在位置を確認しながら、岩肌へと手を重ねる。


 ガトリングガンの彼女は、ダイダラボッチの接近に気が付いているけど、迫り来る泥田坊軍団の相手に追われていて、迎撃態勢を整えることが出来ない。


 遠目に見ていても、彼女の表情が引きつるのが見える。


 ダイダラボッチが拳を振り上げた。まだ距離はあるものの、そのリーチからして、余裕で彼女を叩き潰せることだろう。


(落ち着け、俺! 一発勝負だ! しっかり狙いを定めろ!)


 イメージを働かせる。


 岩壁が変形するイメージを。


(伸びろ!)


 心の中で叫んだ瞬間――


 岩壁の一部分がグンッ! と伸び、ダイダラボッチの脳天目がけて、突っ込んでいく。


 一瞬にして超長距離を伸びていった岩柱が、巨人の頭部にズガンッと叩きつけられた。ダイダラボッチは、よろめきつつ、大きな丸い目をギョロリと俺のほうに向けてきた。


 ターゲットが、ガトリングガンの女の子から、俺へと移ったようだ。


 よっしゃああ! これであの子は助かる! ははは、見ろ、あの女の子、何が起きたのかって感じでキョトンとしてるぜ! 痛快、痛快!


 でも、ちょっと待て! 俺が今度はピンチじゃんかよ! 早く逃げないと!


「キリク氏! 今回はもう、ダンジョンを脱出するよ!」


 ポケットからスマホを取り出すと、案の定、配信チャット欄にはキリク氏の文句のコメントがズラッと並んでいる。


 俺の言葉を聞いて、さらにキリク氏は不満のコメントを書き連ねた。


《キリク:またか! また、肝心なところを見せてくれない!》


《キリク:何がどうして、ダイダラボッチはタゲチェンしたんだ!》


《キリク:何があったんだ!》


 すまん、キリク氏! それだけは言えない!


 なぜなら、俺の持つスキルは、その名も「ダンジョンクリエイト」。


 ダンジョンを構造そのものから自在に作り変えてしまう、驚異的なチート能力。


 そして、そんな芸当が出来るのは――この世界にダンジョンを作り出したと言われている「ダンジョンマスター」、すなわち人類の敵ぐらいだ。


 だから、俺は誰にも見せられない。自分の能力を。見せたら誤解される。きっとそうなる。


 ゆえに今日も俺はよくわからない配信をネット上に流す。アーカイブとして記録に残っても、まったく意味の無い動画。本当は、こんなことしている場合じゃないのに。人気Dライバーになって、お金を稼がないといけないのに。


 およそ、人気を取ることとは程遠い動画しか、今回も取ることは出来なかった。

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