妻が育てていたもの…

記録的な酷暑が続いた今年の夏


二十四時間稼働していた年代物の扇風機が、先日逝った


涼しくなるのはまだまだ先なのに私を置いていくとは…


唯一の涼をとる手段でもあり、コイツがないと色々困る


蒸し風呂よりも暑い家の中で団扇を扇ぎながら、ふと気づく


今日は妻が亡くなってから初七日だった


最近は喧嘩する事も多かった


お互いに心を閉じていたのかもしれない


今は申しわけないと思っている


生前とくに何もしてやれなかったが


亡くなる前、妻が鉢植えで何かを育てていた事を思い出した


ベランダに出していた鉢植えを覗き込む


枯れている


当然だ、妻と同じように水もくれていなかったのだから


よく見ると枯れた植物の根元が膨らんでいる


不思議な植物だ


確か名前は…セロームといったか


居間の棚に無理やり押し込んだ育て方が書かれた本を引っ張り出して調べる


「愛の木…」


そうか


私と喧嘩をしてもこの植物には


まごころを込めて妻が向き合っていた記憶が蘇る


私との愛は育たず


代わりに育て始めた植物さえも育たなかったのか


棚に戻そうとした本から紙が落ちた


「いつか、貴方とまた愛を育めたらいいな」


手が震えた


涙が自然と零れる


私は


妻が育てていた「愛」に気づかない馬鹿な男だ


私は、充電が切れそうなスマートフォンを手に取り電話をかける


ガチャッ 電話の相手は機械的に問いかけてきた


「すいません、妻を殺しました」


私の横には崩れた妻が散らばっていた

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