第5話 温泉回…しかし…

 ART OUT!  第5話


 舞台は変わり湯、煙る温泉。


 ルル、アスカ、トールの3人は気持ち良さそうに湯に浸かっている。


「いや〜…。やっぱりマスターは流石だぁ…。

 あのエリちゃんを説得するなんて…。」


 トールはふにゃりと呟いた。

 先程のマドカの姿を思い出しているようだ。



「エリさん…。その…、無理を承知で言うのですが…。トールも連れて行ってはダメでしょうか…?」


「難しいですよ…。トールさんは今からライブの打ち合わせやリハもあるし…。」


 マドカの言葉にエリさんはムズかしい顔をする。


「ですよね…。ですがそこをなんとか…。それまでには絶対に間に合わせます。ですから少しだけでもお借り出来ないでしょうか…?」


 マドカの長きに渡る説得の末、遂にエリさんからOKを貰い、トールは無事に今に至るというわけである。


「マスターはすごいんだよぉ…。」


 トールの言葉を聞きルルも誇らしげに答える。


「ねえ、ルルはずっとマスターと一緒に居たの?」


「そうだよ。私はマスターのところに直接来れたから、ずーっと一緒にいたんだっ。」


 ルルの返答にトールは俯く。


「いいなあ…。ボクは全然知らないトコに出ちゃって…。急に知らない場所と知らない人達に囲まれちゃって…。すごい怖かったんだ…。」


「そうだったんだ…。トール、よく頑張ったね…。」


 ルルはトールの側に寄り頭を撫でる。



 アスカは2人の話に全くついていけていなかったが、そんな事よりも気になっていたのは…。

 ルルとトールの身体である。


(すごい白くて綺麗な肌…。ムチっとしてるのに細っそくて、くびれてる腰…。そしてなにより…!胸!おっきい胸!)


 アスカは自分の胸を見下ろしてため息をついた。

 2人にはあるものが自分には小さく主張するぐらいしかないのだ…。


 ルルとトールの身体をジーっと見ながら考え事をしていると隣から声がする。


「……。大きいですね…。」


 アスカはハッとして隣を見るとそこに居たのは、綺麗な銀髪の少女。

 アスカと同じように胸に手を置き自分の胸を見下ろしている。


「き、キミはあの時の…!えっとエイちゃん…?」


「どうも。」


 アスカはこの前の一件でエイを見たのと、マドカとルルの話でエイの事を聞いていたのでなんとなく分かった。


 アスカはエイの身体を見る。

 そして顔が緩んだ。

 彼女の胸はアスカよりもなく、正に''幼女''と言う言葉がピッタリだったのである。


「……。なんですか…?」


 視線に気付いたのかエイがジロリと見てくる。


「な、なんでもないよッ!!」


 アスカは目を逸らし慌てて言った。



「わっ!!エイちゃんじゃん!いつの間にいたの?」


「お久しぶりです。招待して頂きましたし、温泉に興味がありましたので…。えっと…この前は…失礼しました…。」


 ルルがエイに気付き声をかける。

 エイは少し申し訳なさそうに先日の謝罪をした。


「良いんだよっ!エイちゃんももう友達だからね!」


「友…達…。」


 エイの顔に少し笑みが浮かんだ。


「え、エイってあの…?」


 ルルが心配そうにエイの顔を見る。


「多分そのエイちゃんだと思うけど、大丈夫だよ!ほんとはすごーい良い人なんだっ。」


「あなたはお人好しですね。」


 ルルが自信満々に言うのでエイは思わず少しだけ笑ってしまった。



 しばらくの会話を楽しんでいると、



「そう言えばアスカ〜?なんでマスターって1人なの?お父さんとお母さんは?」


 ルルがふと疑問に思いアスカに問う。

 するとアスカの顔が少し曇った。


「…。マドカの親は、なんて言うか…。すごいぐらいの放任主義なんだ。昔からずっと居なくて、たまあに家に戻ってくるぐらいなんだけど…。その時もマドカには何にも話さないで出ていっちゃうんだ。そのせいでマドカはずっと1人でいるんだよ…。

 アイツ、私がご飯作ってあげないと何も食べようともしないから…。大変だよ全く…。」


 とアスカが静かに語る。

 1同は驚愕する。


「1人…ですか…。」


 エイも考え込むように頭を落とす。

 彼女の頭の中には先日、マドカに言い放った1言の言葉がこだましていた。


「あなたに…1人の辛さが分かりますか…!?」


(マスター…。あなたも1人だったなんて…。私は…。)



「うそ…。マスターにそんな事情があったなんて…。」


 ルルでさえもショックを受けている。



 トールは立ち上がった。


(マスターにそんな辛い事があったなんて…。それなのにボク……!)


「トール?急にどうしたの?」


 突然立ち上がったトールに驚いたルルが聞いた。

 他の一行もトールを見ている。


「ボク…。行ってくるよ…!」


 トールが決意した顔で、温泉を1人後にした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る