第40話

目覚めると、廃屋の隙間から光が差し込んでいる。

しまった。

寝過ぎたか?


廃屋を出ると、日が強く照っている。

日の高さから、昼が近いことがわかる。

やはり寝過ぎたな。


ん?

いい匂いがするな。

「勇者様!!」

「おはようございます、フェリスさん」

フェリスさんが俺に気付き走ってくる。


「食事ができていますので、召し上がってください」

「え?」

あたりを見ると、炊き出しをした跡が見える。


「他の皆さんは食事を終えたんですか?」

「はい」

すると、他の兵士、奴隷たちが近づいてくる。


「助かった」

「君にこんな能力があったとはな」

兵士たちは感謝しているようだ。


「「「……………………」」」

奴隷たちは無言だ。

「あの、もう奴隷の立場ではないので話しても良いのでは?」


「「「……………………」」」

しかし奴隷たちは無言だ。

彼らはスイセンが逃げて行ったとき、一緒に逃げずここにとどまった。

何をしたら良いのかわからない、といった様子だ。

きっと長い間奴隷だったのだろう。


「ニッコマ……君は一体何者なんだ? 勇者なのか?」

「はい!! 勇者様です!!」

俺が答える前にフェリスさんが答えてくれる。

実際俺には勇者の自覚はないが……


「勇者とは一体なんなのだ?」

「まぁその辺の話は落ち着いてからしましょう。

 とりあえず今後について考えましょう」

エイハンや兵士たちとは一緒に行動することになる。

しかし、完全に信用はできない。

だから遺跡で俺ができることはあまり教えたくないのだ。


「少なくともあと3日はここで待機ですね?」

「そうなるな」

エイハンの同僚が家族を連れて戻ってくるまでは待機だ。

その間にできることをやっておきたい。


「それで、廃村はありますか?」

「あぁ、シドル村よりも東にいくつもあるさ」

エイハンは林を指さす。

あっちが東ということだ。


「昔は村がもっとあったんだ。

 まだ道が残っているだろう?」

確かに。

獣道のような状態だが、以前は道として使われていた形跡がある。


「ゲートの出現で人が住めなくなってな」

「なるほど」

いくつもあるのか……

だとすると近いよりも遠いほうが安全か?


「このまま逃走するとなると、メージスから追っ手が来る可能性があります」

「だろうな。むしろその可能性の方が高い」


「昨日はここから近い廃村を考えていたんですが、追手を考えた場合遠いほうが安全ですよね」

「まぁそうなるな」


「エイハンさんは、どれくらい遠くの廃村まで行けると思いますか?」

「かなり厳しいな……ゲートを破壊せず、残したまま向かうのだろう?」


「はい。そうです」

ゲートを破壊して進んでしまったら、メージスの追っ手に居場所を教えていくようなものだ。

さらに、ゲートを残しておけば、魔物が発生する。

それを防衛として利用できるのだ。


「東に30kmほど進めば、ナッスという廃村がある。

 平坦な地形だから、何もなければ1日で移動可能だ。

 しかし……」

「道中の魔物ですね」


「そうだ。魔物が大量にいるだろう。

 それに、倒しても倒しても出現する。

 ゲートが破壊できないからな。

 そうなると、体力的な限界が来る。

 不眠不休で戦い続け、進み続けなければならん」

「それは……厳しいですね。

 ですが、そうでなければ意味が無いです」

メージスの追っ手がすぐにやってきてしまう。


「俺と兵士たち、ニッコマとエルフの戦士、いずれも強いのはわかる。

 メージスの兵士に引けを取らないどころか、圧倒できるだろう。

 しかし、それでも戦力不足だ」

「兵士なら、もう少しいますよ」

「ホ!!」

魂兵たちがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「こいつらが?」

「はい」

あれだな。

全く信じていないな。

まぁわかるよ。

超弱そうだし。


あ、そういえば、一般兵のレベル2についてはまだ強さの確認ができていない。

「ちょっといい?」

「ホ!!」


「これ、装備してさ戦う準備してくれよ」

「ホ!! ホホ!!」

俺は上民の兵士が装備していた剣を魂兵に渡す。


「エイハンさん、強さを確かめてみてください」

「おいおい……壊しても知らんぞ」


「あ、いや……壊さない程度に戦ってみてください」

「ホ!! ホホホ!!」

なんだか魂兵が怒っているように見える。

「まぁ、いいが……」


「ほら、行ってこいよ」

「ホー!!」


ビュンッ!!


魂兵が飛び跳ねる。

速いぞ!!


ガキンッ!!


エイハンが剣で受け止める。

「なっ!!」


「ホホホホホホ!!」


ガガガガッ!!


ふざけた掛け声とかけ離れた斬撃が繰り出される。


「この!!」


バキンッ!!


しかし、エイハンもやられっぱなしでは無い。

力強い薙払いで、魂兵を吹っ飛ばす。


「ホ!! ホホー!!」

魂兵が気の抜けた雄叫びを上げる。

「もういい、やめとけ」

しかし、俺が静止する。

魂兵の強さをみたかっただけだからな。

ここで殺し合いをして欲しいわけじゃ無い。


「ホ……」

魂兵がしゅんとする。

この一喜一憂がめんどくせぇな。


「どうでした?」

「おどろいたよ。一般的な兵士2、3人分は働けるだろうな」


「驚くのは早いですよ。

 おい、魔法頼むよ」

「魔法?」

「ホホー!!」

俺は『魔法兵(炎)』に魔法を撃つように命令する。


ゴオォォ……


魔法兵の目の前に炎の渦が現れる。


「な!!」

「バカな!!」

「いけ!!」

「ホー!!」


炎の渦が大木めがけて動き出す。


バゴオォーン!!


大木に大きな窪みができ、ジリジリと焦げ付く。


「さすがだな」

「ホッ!!」

表情にほとんど変化がないのに、ドヤ顔をしていることだけは理解できる。

やっぱりちょっとムカつくんだよな……

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