第38話

「廃村? どうする気だ?」

「そこに住んでもらいます」


「住む?」

「はい。これから廃村に向かいます。

 廃村までのゲートはできるだけ残しておくんです」


「そうか……なるほど」

エイハンは理解したようだ。

「周辺にゲートがあれば、人間が近づくことができません。

 周辺ゲートを残したまま廃村のゲートを破壊し、そこを拠点とするのです」


「待ってくれ、俺はメージスに家族がいるんだ」

兵士が言う。

「連れてくるしかないでしょう……」


「どうやって?」

「わかりません……俺ができるのはそこまでです」


「「「……………………」」」

一同は静かになる。

あとは本人の意思に任せるしかない。


「お、俺たちも行っていいのか?」

奴隷だ。

奴隷が初めて口を開く。

スイセンたちが逃げて行ったときにも残っていたのだ。


「ご自由にどうぞ」

「「「…………………」」」


「俺は行く。生き残る手立てがあるのであれば、それにすがるしかない」

エイハンだ。

「俺も行くぞ」

「俺も……」

他の兵士や奴隷たちも決断していく。


「待ってくれ……俺は、家族を連れてくる。

 ここに家族を連れてくるまで待っていてくれないか?」

「時間がないぞ、それにゲートがある中を家族を連れて移動できるのか?」


「…………………」

「厳しいだろうな」

「時間はできるだけ稼ぎましょう。

 まず、兵士たちの死体を処理しましょう」

俺は死体処理を提案する。

俺たちはしばらくメージスに戻らない。

メージスの奴らは俺たちがゲートを破壊して回っていると認識しているはずだ。


それから確認のためにシドル村に兵士を派遣する。

それからすぐに兵士の死体が見つかってしまわなければ、多少は時間が稼げるだろうか。

「最低でも……10日は猶予がありそうですね。

 ご家族を連れてくるまでに何日かかります?」

「最短でも4日はかかる。

 天候によってはそれ以上……」


「わかりました。

 みなさんここで4日待機しましょう」

「「「………………」」」

まぁ全員が納得したわけではないだろうな。


「その間、俺は遺跡に戻ります」

「「「!!」」」

エイハン、フェリスさん、トヨワさんが驚きの表情をする。


「危険ではありませんか!?」

「俺だけならなんとかなると思います」

フェリスさんが心配してくれる。

しかし、拠点に戻らないことには魂が使えない。

そして、今の俺なら遺跡周りの兵士よりも強い。


「し、しかし……」

「大丈夫です」

俺は笑顔で答える。

こんなときに頭を撫でたり、肩を抱いたりするのだろうが、触ると死ぬからな。


ことを荒立てないようにするには、隠れて行動するほうがいいが、最悪見つかっても問題なく倒せるだろう。


「では急ぎます」

俺は上民の兵士たちから装備をいただく。

「待て、血くらい落としていけ」

エイハンが血を洗い流してくれる。


「あの、俺は装備をもらったらすぐに出ます。

 あなたは今すぐご家族を迎えに行ってください」

「あぁ、ありがたい」


「トヨワさん、フェリスさんを頼みます」

「お任せください」


よし、行くぞ!!


□□□


俺は全速力で遺跡を目指す。

マップを開放しておいたのが大きい。

一度俯瞰した地図を見ているからな。

方向は間違っていないはずだ。


肉体強化のおかげで身体が非常に軽い。

それに、夜だと言うのに良く見える。

来る時には2日かかっているが、このまま体力が続けば夜明け前には到着するな。


ゲートは破壊済みだから、魔物もいない。

とにかく全速力だな。


□□□


「はぁ……はぁ……」

さすがに疲れた。

もう遺跡周辺まで来ている。

これ以上は呼吸を整えてから向かおう。


遺跡周辺には兵士たちのテントがある。

今は夜明け前。

そして、俺が遠征に行っていると思っているので、遺跡の前には誰もいない。


こいつらはやはりバカだ。

俺や身分の低いものを、完全に軽視しているのだ。

だから警戒することもない。


俺は周囲を警戒しながら遺跡に入る。

簡単に入れてしまった。


残念だ。

いざとなったら殺す覚悟はできていたというのに……






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