第36話

戦うしかないのか?


「待ってくれ!! 俺自身がメージスを恨んでるんだ!!

 目的は同じ、仲間だろ?」

「だとしても、お前がメージスで動く以上俺たちにとって危険なんだよ」


ブン!!


「きゃっ!!」


俺はフェリスさんを押し除け、縦切りを再びギリギリでかわす。

こいつ、会話をしながらも平然と攻撃してくる。


「相変わらず素早いな。横のエルフを守っているようだが?」

「く……」


ブン!!

ブン!!

ブン!!


ガコッ!!


俺が斬撃をかわし続けると、スイセンの剣が廃屋の家具にぶち当たる。


今だ!!

俺は斬撃をかわすと横に転がる。


ガッ!!

俺は兵士の死体から剣を取る。


「チッ……」

丸腰ではなくなったことで、防御体勢をとることができる。


スイセンはフェリスさんの方を向く。

「おい!!」

「このエルフがいると、またお前みたいなのが召喚されるかもしれないだろ?」

しまった!!

スイセンが狙いを俺からフェリスさんに変えるつもりだ。


「オイ!!」

俺は思い切り踏み込み、スイセンを攻撃する。


ガキンッ!!


「な!!」

スイセンは俺の斬撃を剣でガードし、驚きの表情を見せる。


「ふざけんなよ……ぶっ殺すぞ……」

自分でも驚くほどに身体がよく動く。

身体が俺の感情に呼応しているかのようだ。


俺は力を込めて剣を押し込む。

「く……お前、まだ力を隠していたのか?」

「知らねぇよ」

スイセンは片膝をつく。

力は俺の方が強いようだ。


!!


バッ!!


俺は背後から気配を感じ、咄嗟に右に飛ぶ。


ズバッ!!


俺はまたもやギリギリで斬撃をかわす。

「な!!」

奴隷だ。

さっきまで腰を抜かしていた奴隷が、兵士から剣をとって俺を攻撃してくる。


「チッ……かわされたか」

「もっと上手くやれよ」

スイセンの仲間!?


「2対1だ。確実に殺しておくぞ」

「はい」

口調から部下のようだな。


スイセンだけでもきついのに、2対1。

しかも、フェリスさんを守りながら戦う必要がある。


「おい、こっちは任せろ。さきにエルフを殺せ」


スイセンの命令。

確実にフェリスさんを殺そうとしている。


ブチッ!!


俺の頭に血が昇る……


ズドン!!

「ぐはっ!!」

俺は前蹴りで、スイセンの部下を吹っ飛ばす。


「な!!(さっきよりもさらに速い……)」


【解放条件が満たされました】

【スキル:激昂】


「おい、言っただろ……ぶっ殺すぞ」


ズシャシャシャ!!


俺は斬撃を連続で繰り出す。

肉体強化レベルを上げていなければ、目で追えないほどの速さだ。


「クソ……(この俺が、ガードで手一杯だと!?)」


俺は譲歩した。

なのに、こいつが俺も、そしてフェリスさんまで殺そうとしている。

「ぶっ殺してやる……」


「何してる!! 早くエルフを殺せ!!」

「きゃっ!!」

しまった。

さっき2対1と言っていたのは、俺を油断させるため?

もう一人部下がいたのか!?


頭に血が上りすぎた。

フェリスさんから距離が離れすぎたのだ。


マズイ!!


ガキンッ!!

金属音とともに、銀髪の美女が現れる。


「話は聞かせてもらいました。私も加勢しましょう」

銀髪の美女はスイセンの部下の攻撃を長剣で受け止める。

ポニーテールが美しくたなびき、蝶の髪飾りがランタンの明かりを反射する。


動きでわかる。

かなり強いな。

「これで3対2だな」

「チッ……ダメだな。帰るぞ」

すごい切り替えの早さだ。

劣勢と分かった瞬間に撤退だ。


「アンタのことは、本国に報告させてもらう」

「何度も言うが、俺は敵じゃない」


「そうだな。また敵にならないことを祈るよ。行くぞ!!」

「「はい」」

スイセンとその部下は颯爽と駆け出していく。


「ふぅ……」

追う必要はないな。

「フェリス!!」

「トヨワ!!」


二人は顔を見合わせている。

「お二人は知り合いなんですね」

「えぇ、エルフはそれほど数がいません。

 勇者様、こちらはトヨワ。私の幼馴染なんですよ」


俺はトヨワさんのほうを向き、挨拶する。

「ニッコマです」


うぉ!!

さっきまでは気づかなかったが、爆乳だ。

爆乳剣士だ……

まつ毛が長い切長な瞳。

右目の下にホクロがある。

妖艶な爆乳剣士だ。


「あら……勇者様? 想像してたよりイケメンね……」

イケメン?

俺が?


「フフフ……」

トヨワさんは上唇をペロリと舐める。


「トヨワです……よろしくお願いします」

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