第23話

硬いパンを食い、地べたで睡眠をとることにも慣れてきた。

地べたでもよく眠れるのは、もしかしたら『精神強化』の効果もあるかもしれない。

前回の野営のときよりも、明らかに熟睡できているのだ。


そして今日は朝からいつもより慌ただしい。

「おい、シドル村だろ?」

「無事に帰還できるか……」

マジかよ。

兵士たちの様子や会話でかなりやばいところだということが理解できる。


□□□


「急げ!! 急いで拾ってこい!!」

俺たちは走って弓矢を集める。

明らかに魔物の数が増えているのだ。

しかし、ゲートはひとつもない。

ただただ、魔物の数が増えている。

そのため弓矢の回収も急がなければならない。


「はぁ……はぁ……」

「このウスノロが!!」

ピシィッ!!


鞭だ。

鞭の音が響き渡る。

俺ではなく、他の奴隷だ。


とにかく弓矢の回収をせかされる。

そして、今日はなぜかヘンサッチの魔法が出てこない。

これだけ魔物の数がいるなら、奴の魔法で吹っ飛ばした方が早いだろうに。

回数制限があるのか?


「大物だ!!」

「エイハン!! 行け!!」

「はい!!」

エイハンは大型の猪の魔物に突っ込む。

そして、命令している兵士は明らかにエイハンより弱いだろう。


ガギン!!

エイハンが盾で受け止めると、そこに弓矢部隊が一斉に攻撃をする。


ドス!!

ドドドス!!


「はぁ……はぁ……」

エイハンも弓部隊も、そして弓矢回収の奴隷も疲労がたまってきている。

少し休んだ方が良くないか?


ちなみだが俺はそれほど疲れていない。

肉体強化レベル20の俺は、疲れたふりこそしているものの実際に息切れするほどの疲れはない。

戦わずに弓矢を回収しているだけだからな。


「村だ!! シドル村が見えてきたぞ!!」

「ゆけ!! 村のゲートさえ破壊すれば、戦いが終わるぞ!!」

村にゲートが?


魔物の群れがどかどかと流れ込んでくる。

バキン!!

重戦士が盾で防御し、弓部隊が矢を放つ。


ダメだ。

魔物の数が多く、弓矢で対処しきれなくなっている。

弓部隊は、弓を投げ捨て、剣を構える。

しかしヘンサッチは後ろでふんぞり帰っているだけだ。

魔法はないのか?


響き渡る金属音と魔物の押し寄せる音。

混戦だ。

この間に逃げ出す奴隷はいないのだろうか。


「グオォゥッ!!」

何だ!?

ビリビリと空気が振動するほどの雄叫び。

嫌な予感しかしない。


「出ました!! ミノタウロスです!!」

ドガドガドガ!!

大きな地響きとともに、巨体の魔物が現れる。


無数の矢が放たれるが、それを大きな斧で薙ぎ払っていく。


「うおぉぉ!!」

剣兵たちがミノタウロスへと向かっていく。


「はあぁぁ!!」

ヘンサッチだ。

魔法の準備をしているようだ。


「グオォゥッ!!」

ミノタウロスが雄叫びとともに大きな斧を振り下ろす。


ドシャ!!

剣兵が斧によって押し切られる。


「!!」

背筋に、全身に鳥肌が立つ。

目の前で人が死んでいるのだ。


「どけぇ!!」


ドガアァァン!!


炎魔法だ。

ヘンサッチがミノタウロスへ向かって炎魔法をぶっ放している。


「グオォゥッ!!」

ミノタウロスが燃え上がり、苦しそうにもがいている。

ブンブンと斧を振り回しながら、炎を振り払おうとしている。


「はあぁぁぁ!!」

その間ヘンサッチが二発目の魔法を準備している。


「おい!! お前はこっちに来い!!」

「え!? は、はい!!」

エイハンだ。

エイハンが俺を呼びつける。

この状況で?


「こっちだ!!」

エイハンは、魔物を薙ぎ払いながら俺を先導する。


「これを使え!!」

「はい!!」

少し大きめの片手剣を渡される。


「おい!! 生き残ってるやつは私に続け!!」

「「「おぉ!!」」」

何人かの兵士がエイハンに続き、魔物の中を進んでいく。


ズバッ!!


魔物の数が多い。

俺も自分の身を守るために剣を振るう。

『精神強化』のおかげだろう、これだけの混戦にかかわらず、恐怖心がない。


ガギン!!

ズシャッ!!

ドドド!!


魔物の攻撃を受け止める音、魔物を切り払う音、魔物の突進する音。

土煙が舞っているが、音と地響きにより、混戦であることは理解できる。


「私の背後から離れるな!!」

「はい!!」

この状況でのエイハンは非常に頼りになる。


「ゲートがあったぞ!!」

マジか!!

廃村の奥に黒紫色の球体が見える。

デカイぞ……

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