第18話

「ほら、今日の分だ」

ボトッ……

「ありがとうございます」

俺は地面に投げられた硬いパンを拾う。


今日はここで野営だろう。

空腹だが、米を食うことができない。

このクソみたいに硬いパンで我慢するしかないのだ。


そして、俺は野営地の中心で地べたに寝る。

いつもの遺跡、石畳ではあるが藁が敷いてあるところのほうがマシである。

俺を中心で寝かせるのは逃げないためだろう。


大丈夫……安心しろ……

お前らをぶっ殺すんだ。

逃げたりはしない。


結局今日は移動メインでゲートの破壊は二つだけだった。

そして遺跡に戻っていないので、魂を消費することもできない。


フェリスさんも俺と同じような状況だ。

逃げられないように監視されているな。


誰とも会話ができる状況じゃないし、肉体強化をしたといっても結構疲労はたまっている。

大人しく寝ておこう。


□□□


翌朝。

地べたの割には、ある程度眠ることができた。

熟睡とまではいかないが、こっちの世界に来て随分と適応できている。


兵士たちとヘンサッチは、テント内で話し合っているのだろうか。

まぁどんな方針になったところで、俺は従うしかないのだが……


にしても、でかいテントだ。

中は豪華なんだろうな。

一泊野営したのに、ヘンサッチだけはさっぱりしている。

ふざけやがって。

いずれあのテントも全部俺のものにしてやる……


テントから兵士が出てくる。

「予定通り西へ向かう」

「「「はい!!」」」

西ね。

全然しらねぇけど。


□□□


魔物が増えている。

狼型の魔物以外に、猪型の魔物、ゴブリン型の魔物が現れ始めた。

いずれも黒紫色をしているため、一発で魔物だとわかる。


「おい!! お前も戦え!!」

ヘンサッチが剣を渡してくる。

「はい!」

俺は剣を受け取り、兵士たちと魔物の討伐をする。


しかし、全力を出すのは良くないだろう。

下手に戦えると知られれば、さらに利用されるだろうからな。

一般兵と同じくらいの動きを意識しなければ……


ザシュッ!!

「ギュエェ!!」


いや、ダメだ。

同じくらいの動きどころじゃない。


魔物が怖い。

肉体強化しているからだろう、動きはよく見える。

しかし、魔物の勢いが凄まじい。


「ガァッ!!」

ガキンッ!!


俺はゴブリン型の魔物が振り下ろした攻撃を剣で受け止める。

速度的にはかわすことができるであろう攻撃も、腰が引けているため、反応が少し遅れる。


「おい!! 何をしておる!! 下がれ!!」

ヘンサッチに怒鳴られる。

「は、はい!!」


「チッ……さっきのはまぐれか。

 お前に怪我をされるとやっかいだ。

 後ろで見ておけ」

「はい」

クソ……

せっかく肉体強化を上げてもこれじゃダメだな。

もっと実践経験が必要だ。


□□□


それからゲートを4つ破壊した。

昨日と合計で6つだ。


魔物が増えてきているため、逆に俺の疲労は回復している。

兵士たちが魔物の殲滅をしている間、見ているだけだからだ。


遺跡に閉じこもれば、奴らは入って来れないし、魂により食料も生産できる。

しかし、やはり今は奴らにしたがっていた方がいいだろう。

俺だけでは、これだけの魔物を殲滅しつつゲートを破壊することなんてできない。

魂兵も二体だけだし、装備も充実していない。

気に入らないが、奴らにしたがっていた方が効率が良いのだ。


「出ました!! キングボアです!!」

一人の兵士が走ってやってくる。

「どれ、私が出よう」

兵士からの報告を受けたヘンサッチが馬車から出てくる。


マジか。

こいつが出る?

戦えるようには見えなかったのだが。


ドドドドッ!!


兵士が走ってきた先から、大型の猪の魔物が走ってくる。


ヘンサッチが不細工な笑みを浮かべると、奴の周りに魔法陣が現れる。

魔法か!?


「はぁ!!」

ヘンサッチは両腕を前方へ伸ばし、手のひらを開く。

大きな火の玉が手から勢いよく飛び出る。


ドガァン!!


「今だ!! 仕留めろ!!」

兵士たちがキングボアの周囲を囲み、次々に攻撃をしていく。

しばらくすると、キングボアは霧散する。


マジか……

ヘンサッチは魔法が使える。

ただただ偉そうにふんぞり返っているだけではなかったのだ。


まずいな。

単純に肉体強化、剣技のレベルを上げても魔法でやられてしまう可能性がある。


そういえば、フェリスさんも魔法を使えたよな。

遺跡に帰ったら、魔法についてくわしく話を聞くべきだろう。

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