第26話 サイバーパンクで子供を訓練しよう
「俺はここを出る」
「あ。そうなの」
興味が全くない様子のイクシーを、バイセンは睨む。その視線に負けたイクシーは顔を向けた。
「お前もついてきてくれ」
「嫌だけど」
「もともと俺は、ここに来る予定じゃなかったんだよ! あのクソどもに捕まって牢にぶちこまれたせいでな。幸い荷物は無事だったから、それを運ぶ。だが、護衛がいねえ」
バイセンが運んでいた荷物は馬車ごとこの村にあった。戦闘時にオーフの魔法で燃えなかったのは幸運なことだった。
「ひとりで行けばいいよね」
「魔物に襲われるかもしれねえ。ブレスホークみたいな盗賊にもな。だからお前に頼みたいんだよ」
「ええー?」
「ここでずっと暮らす気か? だったら必要なものがあるだろ。俺ならロックリザードのボスに顔がきくから、色々手に入るぜ」
イクシーとしては、この村にずっといる気はなかった。しかし表情は乗り気ではない。
「子供たちがね」
ここにいる二十人ほどの子供たちは、ガレが最年長だった。この村に集められた子供たちは、強制的に魔物狩りをやらせられる。ろくな訓練も武器もないため、次々に死んでしまう。あまりに幼い者は食事の用意や荷物運びなどをやらされるが、ある程度成長すれば魔物狩りに行く。
大人がひとりもいない状況で置いていくのは、さすがに罪悪感がある。なので悩む。
「よし。子供たちを強くしよう」
村の広場に子供たちが集まっている。彼らの前にはイクシーが立っていた。
「兄ちゃん。訓練ってなにするんだ?」
ガレはいつの間にかイクシーを兄ちゃんと呼ぶようになった。
「みんなは子供です。ガレとオーフは強いけど、二人だけです。なので怖い大人や魔物が来ると危ないよね? だから戦えるように訓練します」
最初は子供たちにサイバネ手術を施そうとしたのだが、ほとんどが拒否してしまった。ガレだけが「こんなに強くなれるぞ」と右腕から剣を飛び出させたが、怖がられただけに終わる。オーフのように魔法が使える子供はいなかった。
「使う武器はこれ」
イクシーが持つ武器は子供たちが見たことがない形をしていた。
「それは弩か?」
バイセンは見たことがある。片手で使えるので、馬に乗った護衛や騎士が装備することがある。
「これはボウガン。子供でも使える武器だよ」
全体が黒光りする強化カーボン素材だ。装填機構にはモーターが装備されていて、発射したあと自動で弦が引かれるので、自分でやる必要がない。力の弱い子供でもこれで使える。
「まず俺がやってみるね。ここに矢をセットして、狙いをつけて、撃つ!」
的はところどころ凹んだ古い鎧を丸太に着せたものだ。この鎧はシャロが埋まっていた場所から掘り出した物のひとつ。
鋭い音をたてて飛んだ矢は鎧を貫通し、深く突き刺さった。子供たちが小さく声をあげた。
「ひとりずつ順番にやってみよう。その後は自由練習だ」
もちろん最初からうまく当てれるはずもない。しかし何回かやれば慣れてくる。ボウガンは全部で五個あるので、それぞれ並んで順番に発射する。矢は大量にあった。イクシーでも呆れる量の数だった。
「この量はさすがにおかしいからなー。たぶん、クラン全員分のインベントリが共有されてるっぽい。嬉しいけど」
しばらくボウガンの練習を続けていると、イクシーが手を叩いていったん止めさせた。
「ハイハーイ。次はこの武器を練習だ」
それはライフル銃だった。この世界には存在しない武器なので、子供だけでなくバイセンも知らない。
「これはスタンガン。使い方はボウガンと同じで、狙いをつけて撃つ」
火薬ではなく電磁力によって発射されるので音は小さい。発射された弾丸には細いワイヤーが銃口へと繋がっている。
弾丸は鎧を貫くのではなく表面へ貼り付くと、その瞬間にワイヤーから高電圧が流れ、大きな音を発生させて子供たちが驚く。
この武器はイクシーの腕に内蔵されたものと同じ原理だが、威力は低い。それでも人間なら簡単に昏倒させ、大型の動物でも行動不能にできる威力だ。
「さ、やってみよう」
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