30.般若

「ご、ごめんなさい! その人、私の彼氏なんですっ! 何でもしますから、太郎は許してあげてくださいっ」

「フー子……」


 フー子は足を震わせながら、刺青男に頭を下げている。

 俺の隣にいる刺青男が、俺の背中をどんどんと叩いた。


「ええのうええのう、若いモンが青春しとるんか! おい坊主、気いつけや! 彼女泣かしたらあかんで!」

「あ……はい、すんませんっした!」


 イカツイ刺青男は、ガハハと笑いながら去っていった。

 意外に良い人だった?

 人間、見た目で決めつけちゃいけねーな。


「良かった! 太郎、良かったよぉぉお!」


 ガバッと俺の胸に飛び込んでくるフー子。


「サンキュー、フー子。助かったぜ……」


 フー子の頭を撫でようとした瞬間、ずもももももーっと押し寄せてくる怒気。

 ゾゾゾッ


「おいフー子、離れろ。血の雨が降りそうだ」

「え?」


 般若だ……そこに、般若がいるよ!!

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