【本編完結】復讐という名の友情~冷めたカフェオレと薔薇のトゲ~

三愛紫月

第1話 家族 (数字を修正しました)

「家族とは、そういう事はしないよね」


娘の絵茉えまが二歳になり。

そろそろ絵茉に妹か弟をって考えていた私に夫の陽人はるとはそう言った。


「どういう意味?家族には、なったよ。だけど、私達……」

「家族とキスやエッチはしないだろ?しほりは、お義父さんとするの?」

「何で、お父さんが出てくるのよ」

「そういう事だから……」

「どういう事よ」

「もう、明日早いから寝るわ。じゃ、おやすみ」


陽人の言葉に私はボロボロと泣く。

「家族にはできない」その言葉が頭の中を流れていた。

それと同時に別の誰かが出来たのではないかという言葉も流れる。


「まさか。そんなはずないわよね」


口に出して言ってみるとますます現実味を帯びた気がした。

この二年。

キスはもちろん、その先にすら進んでいない。

最初は、絵茉が産まれた私を気遣ってくれているのだと思っていた。

しかし、絵茉が一歳になり卒乳し、私は仕事に復帰した。

その時にも、そろそろ二人目をって話しになったのだ。

その時、私は陽人に「今は、忙しくてそれどころじゃないんだ」と断られた。

忙しいなら仕方ないと思ってはいたけれど……。

【忙しい】は、もう落ち着いたのではないか?


私は、寝室に入り陽人のスマホを取る。

まだ、絵茉えまの夜泣きが度々起こるから私達は別々で寝ていた。

暗証番号は、【0304】

絵茉の誕生日だ。

解除されたロックを開き。

私は、スマホのメッセージアプリを開く。

メッセージを確認しながら、怪しいものを見つけた。


栄野田えのだコウキ】

男なのか女なのか名前だけではわからない相手。

私は、メッセージを確認する。


【家族とは、もうそういうの出来ないだろ?】

【わかる、わかる。俺も、もう無理だわ】

【ってかさ、朝活しない?明日、朝六時に【バンビ】って喫茶店。タマゴサンドがうまいのよ】

【いいね。俺も、食べたいわ。タマゴサンド】

【じゃあ、明日六時に……】


男だったのかと少し安心しながらスマホを置いた。

お互い家族とは出来ないと思っているようだから、仲間が出来て嬉しいのだろうか?

私は、陽人のスマホをサイドテーブルに置いた。

寝室から出て、子供部屋に入る。

私は今、絵茉と二人で寝ている。


明日の朝の六時……。

絵茉を置いてはいけない。

でも、この機会を逃したら……。

男同士だからって浮気はないと言えるの?

私は、必ず朝の五時に起きている母に連絡する。


「明日。別にいいけど、何時?」

「朝の六時なんだけど……」

「えっ?!六時。明日、しほりは、休みじゃないの?」

「休みだよ。どうしても行きたい所があるのよ」

「朝の六時に?まぁーー。わかったわ」

「ごめんね、お母さん」


母の家は、私達の家から五分程歩いた先にある。

朝の六時に娘が孫を預けに行くと言えば驚くのは当たり前だ。

でも、明日を逃せば……。

次は、いつかわからない。

だからこそ、私は確認しに行かなくちゃいけないのだ。


翌日、私は朝の五時には目が覚めていた。


「今日は、絵茉は大人しいね」


いつの間にか目覚めていた絵茉は、ベビーベッドの中でちょこんと座っていた。

私は、絵茉を抱いてリビングにいく。


「ママ、ママ」

「おはよう」

「おーよ」


最近は、言葉を少しずつ覚えてくれている。

それが、堪らなく嬉しい。


「おはよう」

「おはよう、朝御飯は?」

「今日は、いいわ。五時半には出るし」

「そう。わかった」


私は、冷凍している絵茉の離乳食を解凍する。

いつも、陽人は七時までに出社をする。

だから私達は、五時半に朝御飯を済ませる。

それは、結婚した時からの陽人の要望だった。

【朝御飯は、早く済ませて暫くゆっくりしてから仕事に行きたい】と……。

最初は、五時に起きるのは眠くて堪らなかったけど……。

十年目を迎えた今は余裕だ。

二十三歳で結婚して、三十三歳でママになった。

思い描いていた理想とは少し違うけれど……。

幸せな日々に感謝してる。

だからこそ、私は今日【バンビ】に夫を見に行かないといけない。


「じゃあ、行くよ」

「いってらっしゃい。今日は、早い?」

「いつも通りだよ。絵茉、また後でな」

「バーバーイ」

「行ってきます」


私は、夫を見送り。

絵茉に朝御飯を食べさせる。


「じゃあ、絵茉。ばぁばとじぃじに会いに行こうね」


私は、スティックのパンを一本かじりながら洗い物を済ませる。

荷物を用意して、絵茉を着替えさせて、私も服を着替えて家を出た。


「おはよう。お母さん、よろしくね」

「あんた、何よ。その格好」

「えっ?別に何もないわよ」

「全身真っ黒じゃない。それに何、こんなキャップまで被って。どこ行くつもり?」

「友達と朝御飯食べるだけよ」

「朝御飯って、朝の6時に夫と小さな子供がいる相手を誘うなんて非常識な友達じゃない」

「お説教は、帰ってから聞くから。じゃあ、絵茉をよろしくね」

「待って、しほり」


私は、母の言葉を聞かずに出て行く。

確かに母の言う通り、そんな友達がいたら非常識だ。

でも、私は今友達に会いに行くわけではない。

証拠がいなくなってしまわないように私は走る。

駅前にある【バンビ】は、タマゴサンドが有名だ。

私が、【バンビ】についたのは6時5分だった。


「いらっしゃいませ。店内で召し上がりますか?」

「持ち帰りで……」


朝の五時半に開店するバンビは、開店と同時に列が出来ている。

私の順番が回ってきたのは、六時十五分だった。

陽人と栄野田コウキは、二つ前の順番にいる。

【栄野田コウキ】は、男だった。

私は、少しガッカリしていた。

タマゴサンドとカフェオレを受け取った私は店を出る。


陽人と【栄野田コウキ】は、一緒に並んで歩いている。

ほどよい距離感が保たれているせいで、二人の会話は全く聞こえてこない。

暫く歩いて、二人は公園に入る。

私もあとをつけていく。


「あそこに座るか」

「ああ」


二人は、ベンチを指差した。

私は、そのベンチの近くに行く。

会話が聞きたかった私は、バレたら、バレた時だと開き直ってベンチの後ろに近づいたのだ。

二人は、後ろにいる私を気にする事なく朝食を食べ始める。


「コウキの奥さんはどう?」

「子供が欲しいって迫ってくるんだけど無理なんだよな」

「わかる、わかる。もう、家族になってるもんな」

「そうなんだよ。だから、嫁を抱こうとしても萎えるんだよなーー。うまくいかない」

「それ、俺もだわ」


私は、朝から下らない話を聞きにきただけなのかとガッカリしていた。もう、帰ろうかと立ち上がった時だった。


「陽人……今日はどうする?」






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