第34話ミナの証言
ジュリエットとミナが連行されるのを見届けたゴードンは、その足ですぐリンの元へ急いだ。
「リンはどこへ運ばれたのだ?」
王宮に向かう途中で、側近のカイエンを捕まえたたゴードンは、息を切らしながらリンの居場所を尋ねた。
「青の客間でライオネル様がついておいでです。治療は・・」
皆まで聞かずに、ゴードンは青の客間へ向かった。
自分がすぐ横にいながらリンを守る事が出来なかった・・ジュリエットにはリンを虐めていたという過去があるのに、なぜもっと警戒しなかったのだ! そう自分を責める気持ちと、ジュリエットへの怒りがゴードンをすっかり支配していた。
ゴードンはいつの間にか青の客間に続く渡り廊下に自分が来ている事に気づいた。そうしてやっとドアの前に立つライオネルの姿を認めたのだった。
「ゴードン、リンは治療を終えてやっと休んだ所だ。起こさない方がいい」
部屋に入ろうとするゴードンにライオネルは待ったをかけた。
「無事なのを確認させてくれ、一目だけでも顔を見ないと安心できない」
ゴードンの悲痛な目を見たライオネルは無言でドアを開けた。
長期滞在者用に作られた青の客間はかなりの広さがあった。一部屋で色々な用途に使える様に、書斎と寝室が合体したような造りになっている。
ベッドの手前には応接セットが据えられ、そこにドクターブロナーが控えていた。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「リンの容体は?」
「殿下の処置が適切でした。そのおかげで命に別状はございません。ですが、しばらくは安静が必要でございます」
ゴードンがベッドの横に行くと、サイドテーブルには水差しと、吐血を洗浄した後であろう濁った水が入った洗面器が置いてあった。わずかに甘い匂いが漂っている。
「ああ助かって良かった。君の身に何かあったら私はどうしたらいいんだ」
リンの顔をそっと覗き込んだゴードンは俯いて頭を抱えた。
「殿下、ここは私どもにお任せください。そしてこんな非道な事をした者に厳しい処罰を」
ドクターブロナーに後を任せたゴードンは部屋を出た。ドアの外には先ほどと同じようにライオネルが待っていた。
「まずはミナの聴取をする。お前も来るか?」
「ああ、俺も行くよ」
ミナは王宮の別棟にある騎士団の建物の一部屋に拘束されていた。ゴードンとライオネルが入って行くと椅子から立ち上がったミナは、必死に謝罪の言葉を発した。
「どうか、どうかお許し下さい。私は決してリン様を傷つけるつもりはなかったのです!」
ミナはボロボロと涙を流している。その様子を見てゴードンはまずミナを椅子に座らせた。
「落ち着いて。まずは経緯を話すんだ」
ゴードンは見張りについていた騎士にお茶を持ってこさせ、ミナに飲ませた。暖かいお茶を飲んで落ち着きを取り戻したミナは、少しずつ話を始めた。
「ジュリエット様はリン様からご相談を受けたそうなんです。『最近、多忙で疲れが取れない』と。それで、今日リン様にお出しするお茶に薬を入れて欲しいと、ジュリエット様に頼まれました」
その薬は滋養強壮剤だと聞かされたとミナは言った。
「リン様は王太子殿下とのご婚約が決まってからとてもご多忙でしたから、お疲れの事は皆が存じております。ですから私も何の疑いもなく、薬をリン様のお茶に入れてしまったのです」
ここまで聞いてライオネルは初めて口を挟んだ。
「その滋養強壮剤だと言われた薬は、ジュリエットがお前に渡したのか?」
「はい。お茶会の準備の時に手渡されました」
今度はゴードンが言った。
「ミナ、ジュリエットは貴族裁判にかけられるだろう。お前も証言しなくてはならない。今言った事を法廷で証言できるな?」
「はい、必ず証言致します。あの‥ゴードン様、私はどうなるのでしょうか?」
ミナは恐る恐る顔を上げてすがる様にゴードンを見た。だがその質問にはライオネルが答えた。
「ミナはジュリエットに命令されただけだろう? 薬も毒物だとは知らなかったんだ。罪には問われないと思うぞ」
「ありがとうございます、ライオネル様!」
ゴードンもライオネルに向かって肯定するように頷いた。ライオネルの言葉に安心したミナの顔には笑顔が戻っていた。
この後すぐにジュリエットの聴取も行われた。だがジュリエットは一切の出来事を自分は知らないと話した。
証拠は不十分だったがミナの証言があるため、ジュリエットは貴族裁判にかけられる事になった。
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