第51話 【過去】大河SIDE オズの魔法使い


「ハァハァ、なんで俺がこんな苦労しなくちゃならないんだ」


俺はつい平城を見てしまった。


「……」


剣聖の剣技の一つ『斬鉄』が使えない。


『斬鉄』なんていうが、ただ鉄を斬るという技ではなく、正確には『硬い物』を斬る技、スキルだ。


このスキルは剣聖にとっては重要なスキルで、他のジョブの奴は絶対に手に入らない究極のスキルだ。


それが、平城の馬鹿が、理人を殺した事でスキルが奪われた。


この件で理人は責められない。


自分を殺そうとしているんだ。


誰だって抵抗位はするだろう。


それに彼奴は……結局、騎士たちによって殺された。


人一人殺した結果、スキルが無くなった。


そう考えたら、仕方が無い。


無実の者を殺した罪がこれなら、殺した相手に文句なんて言えるわけがない。


だが、殺すきっかけになったのは『平城の嘘』だ。


彼奴が理人が俺達からスキルを奪おうとしている悪人だ。


そう言いださなければ、こんな事に成らなかった。


俺は剣聖。


仲間の為に前衛をこなし守る存在。


そして、なんでもかんでも斬れる。剣の申し子の筈だった。


それなのに、ゴブリンですら簡単に真二つに出来ない。


「グルゥゥゥゥ」


「おりゃぁぁぁぁーーっ」


「グワルゥーーぐふっ」


一応は斬れている。


ゴブリンのお腹は斬れて内臓が飛び出て死んでいる。


だが、こんな事は騎士でも冒険者でも出来るらしい。


本来の剣聖なら。


最初から、バターを斬るように魔物を真二つに切断でき、レベルが上がればドラゴンですら斬れるそうなのだが……『斬鉄』を使えない俺には無縁の話だ。


もう既に俺は解ってしまっている。


今の俺が幾らレベルをあげてもきっとドラゴンはおろか、大きな魔物すら斬れない気がする。


だが、五職(勇者 聖女 剣聖 賢者 大魔道)である以上この戦いから逃げられない。


人一人殺した罪は魔王討伐に参加する事で許されているのだから。


それに、平城は兎も角、後の三人は幼馴染だ。


見捨てる事は出来ない。


今は、ただ現状を受け入れ戦うだけだ。


◆◆◆


いつか、こんな日が来ると思っていた。


「ぐわぁぁぁぁぁーー」


「大樹逃げろーーっ」


「馬鹿、お前を置いて逃げられるかよ!」


とうとう、俺の限界が来たようだ。


オーガの亜種と戦っていた時だ。


俺の剣が全く役にたたなかった。


オーガの腕を斬り落とせず、腕の途中で止まって抜けなくなってしまった。


そして俺は……


ドガッ


オーガに殴られ、すっ飛んだ。


「聖人ファイヤーボールだ! ファイヤーボール」


「今、やっているよ。ファイヤーボール!」


ドガがガン


「うがうあーーっ」


駄目だ……逃げた方がよい。


大樹、お前は聖剣が使えないんだ。


俺と大差ないはずだ。


「塔子、早く、早く大河の所にいけーー! 早くポーションを!」


駄目だよ……大樹。


塔子は『聖魔法』が使えない。


だから回復の魔法も使えないからポーションしか頼りにならない。


恐らく、俺はあばらの数本を折り、多分、ポーションで治しても動けない。


「大丈夫! 今行くから!」


塔子が走って来て俺にポーションを掛けてくれた。


だが……逃げろ!


「逃げろ……危ない」


塔子の方にオーガが向かってきた。


平城は……意味がない。


彼奴は必殺の闇魔法が使えない。


大樹が守りに入ったが、駄目だ止まらない。


「うおぉぉぉぉーー」


俺は起き上がり、塔子を庇った。


ドガッ


多分、これで俺は……死ぬのか……


◆◆◆


此処は何処だ。


テントなのか?


「気がついたか大河」


「大樹ここは?」


「あのあと近くで駐留していた自警団が合流してくれてオーガを追い払ってくれたんだ」


「そうか……それで他の皆は?」


「怪我をしているが大丈夫だ! 俺達が一番重傷だ」


「そうか……痛たたたたたたっ」


「骨が幾つか折れているそうだ。今は寝て置け」


「そうだな……」


まだ、この旅も序盤。


こんな所で怪我している状態で本当に大丈夫なのか?


『聖剣が使えない勇者』


『聖魔法が使えない聖女』


『闇魔法が使えない大魔道』


『斬鉄が使えない剣聖』


まともなのは賢者の聖人だけ。


まるでこれじゃ、オズの魔法使いみたいじゃないか?


あの時、馬鹿をしなければ……駄目だ考えるのはやめよう。


平城を殴りたくなる。


あいつだって……一応は仲間だ。



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