俺が推しで推しが俺で
檸檬
第1話「推し」
「……ただいま、」
彼女の
「はーやっばい、ちょーかっこいい、
雪也=俺、
「環〜?」
環の隣へしゃがみ込み声を掛けてみるが、一向にキラキラした視線はテレビへ向けられたまま。
さすがにイライラして、環の両頬を手で挟み無理矢理こっちを向かせると、俺よりもイライラした様子の環とようやく目が合った。
「………なに」
「なに、じゃねぇよ。ただいま」
「あーうん…」
「は、反応それだけ?」
「…それ以外ないよ」
環は俺の手を払うと、プイッと顔を逸らし再び視線は画面へ戻っていった。
部屋には雪也のグッズなどが雪崩れのように散乱しており、所々にどこで買ったか分からないようなグッズまである。
「環、これお前どこで買った?」
その見たことないグッズをつまみ上げ環に聞くと「非公式」とテレビの画面に掻き消されそうな小さな声が返ってきた。
「…はぁ、非公式って……」
やっぱりな回答に落胆すると、テレビを消した環は立ち上がり俺の元へやってきた。
「仕方ないじゃん、可愛かったんだもん…!!」
「いやダメだろ。これ買ったってお前の推しは1円も儲ってないんだよ?」
「………それは、謝る…」
妙に素直な環が可愛くて、環に触れようと伸ばした手は環によって阻止された。
「……謝るのは雪也にだから…。由紀にじゃないよ」
「………」
……あぁ、もう本当に…。
元を辿れば、俺が環と出会った頃からこうなることはなんとなく予想がついていた———。
環が国民的アイドルの
環は天狗になっている俺を見るなり「は…こんなの雪也じゃない」と言い放ち、まるでゴミを見るような目で俺を睨んだ。
当時の俺はチヤホヤされるのが当たり前だったのもあり、環のその態度にガツンと鈍器で殴られたような衝撃を受け、気付けば一瞬で環にハマっていった。
だから告白したのも俺、環の高校卒業と同時に同棲しようと誘ったのも俺。
だから、想定の範囲内だと思えばなんてことない…
「雪也、ごめんねぇぇ!!!!」
「…はぁ、」
だけど、さすがにこれはキツイな。
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