レベル10!!!最高最大の変態的奇書ここに有り。

立花 優

第1話 プロローグ

 私は、ある事件をきっけに、自分が死ぬ事に対して全く恐怖感を感じていない事に気が付いた。



 こう言う書き出しで始まると、この私とは、何と自殺願望の強い気弱な人間だと思われるかもしれない。あるいは、自暴自棄の極みの、最低な、ゲスのような人間だと思われるかもしれない。



 ……しかし、私が、この言葉を発せざるをえない事態に遭遇したのには、実に、筆舌に尽くせない程の、深い深い理由があったのであって、決して、この私自身が単なる自殺願望が強いだけだの人間だとか、あるいは自暴自棄だけの人間だと誤解されるような、非人間的人物であるのだと、誤解してもらっては困るのだ!



 何と馬鹿げた事を言う人間なのか、と思われるかもしれないが、今ほども述べたように、私は中学生時代に、既に死ぬ事を全く怖がらなくなっている自分に漠然と気付いていたのである。



それは、私の両親が学校の先生をしていた時の、私が中学2年生の時に、父の受け持っていたクラスがイジメの暴露から急激に問題化し、完全に学級崩壊し、市の教育委員会はもとより、PTA等々から、やいのやいのとせかされた父は、自宅の庭で首を吊って死んだのだ。

 最初にその死体を発見したのは、正に、この私であって、その時は異常な程の心理的ショックを受けたのだが、実に、この時から、何故だか分からぬが、私は死への恐怖感が全く無い自分の精神状態に徐々に気が付いていったのである。



 例えば、次の話は、その良い例であろうが、決して、ホラ話や作り話ではない。



 私が、地元(石川県金沢市)では有名な公立の進学校へ進学した時、国立大学最難関とされるZ大学を目指して、級友達の誰とも付き合わずコツコツ受験勉強していた私に嫉妬したと言えば言いのだろうが、私の勉強の邪魔をしようとした同級生らのグループ5人が、半分は冗談のつもりで、私に例のガリ強をやめるよう、カッターナイフで脅しに来た事があったのだ。



 そのグループらの思いでは、そのカッターナイフで脅せば、私が、多分、小便でもチビって泣いて謝るであろうとでも考えていたのだろうが、事実は全く逆に推移した。

 実に平然と顔色も変えずに、学生服をゆっくりと脱いで、白いワイシャツ姿のまま、



「やったら、刺せ、ここが心臓や!」



 と、この私が言い放った事である。



 その級友達も、一応は、私と同じ国立のZ大学や、その他の旧帝大、私立の超一流大学を目指している頭の良い学生達ばかりである。皆、本物の殺人犯になれば人生を棒に振る事は、百も承知の事なのだ。つまりは、皆、誰もが本気では無かったのである。



 その時、グループ内の誰かが、



「こ、こ、こいつだけは本気や。目が完全に座っている。く、く、狂っている。相手にするのは止めようや」と、一人抜け、二人抜けして行ったのだった。



 最後に一人だけ残ってしまったのは、最初にカッターナイフを私に向けたグループのリーダーただ一人であった。そのリーダー格の湯川弘は、土下座してこの事を口外しないように泣くように頼んだ。



 ……勿論、私が、その頼みを飲んだのは当然である。私には、その時には既に、もうどうでもいい事だったからだ。ともかく、これは、紛れもない事実であって、数少ない私の高校生時代の、武勇伝の一つでもあるのだ。



 この事件以降は、私は、誰にも邪魔されず勉強に没頭でき、念願の日本最難関のZ大学に進学できた。文学部、心理学専攻である。



 なお、他の浪人生達は別として、現役で国立大学最難関とされるZ大学に合格したのは、その年度では、地元では進学校と噂されるこの私の高校でも、私と、先ほどのリーダー格の湯川弘のみの2人だけであった。



 ちなみに、湯川弘は、あの日本人初のノーベル賞受賞者の湯川秀樹博士の遠縁に当たると言う噂であった。勿論、単なる噂話だから根拠は全く無いのだが(一説には、法螺吹きの癖のある湯川の造り話だと言う級友もいた程だったから、尚の事、信憑性は非常に乏しかったのだが……)。



 その後、父と同じように教師をしていた母が、交通事故で亡くなったのは、私が大学3年生の時だった。



 その後も私は、自ら自殺する事もなく生きていたが、それは単に「死ぬべき、これといった理由が無かったから」只単に、生きていただけの事だったのだ。



 死ぬのは全く怖くはない!



 その精神状態は、その後もずっと変わら無かったのだ。



 このような精神状態の私を診察して、Z大学時代の私の恩師でもある北野誉名誉教授は、首をひねって神経症の一種の離人症、しかも全く新しい型の離人症では無かろうか?と推論はしたものの、結局、私が死を恐れなくなった理由を、心理学的にはどうしても解明できなかったのである。



 何故なら、私は死に対する恐怖心が全く無いだけなのであって、離人症の最大の特徴でもある「自分が自分でない感じ」など微塵も感じず、正常人と同じような感情の起伏や発露は十分にあったからである。



 さて、前置きはここまでとして、いよいよ本論に入って行こう。



「ひええっ!」と私は大声を上げて、体を急激にそらした。



「ワハハハハ…、そりゃ、単なる水だよ。汚くも何ともないよ、ワッハハハハ…」



 胴体は明らかなマネキン様の形状ながら、あそこの部分だけは本物と見間違うぐらいに見事にそっくりに作られた男性自身が、急にムクムクと大きくなったかと思うと、その堅く大きく天をついている「亀の頭」の先っぽから、数滴の液体が私をめがけて勢いよく飛び出してきたからだ。



 ともかく、私が驚くのも無理はなかろう。それは正に、異様な光景にほかならなかったからだ。

 薄暗い書斎の中、透明なアクリル製の円筒中に、明らかに「人工」と分かる男性器が1本づつ入れられ、それが何本も何本も展示されていたからだ。



 その円筒には、P-1号~P-8号まで、8本の「人工」の男性器が納められている。

 しかも、特筆すべき事に、1号から2号、2号から3号へと、番号が大きくなるにつれて、その内部構造が複雑化し高度化しているのが、かような事に門外漢の私にすらも、十分に理解できる程の進化を遂げていた事だった。



 それは初期のそれの構造の単純さに比し、番号が大きくなっていくにつれて、「人工男根」から出ている極細い配線やチューブの数が急激に多くなっているいる事から、それらが、徐々に複雑化し改良されていった推移が手に取るように分かるのだった。



 今ほど、私の体に液体をぶっかけたのは、透明なアクリル製の円筒の中に入っていたモデルではない。これだけは例外的に外に置かれていたマネキンの、丁度、臍の上の部分に「P-9号」と書いた白いテープが貼ってあった物だ。



 ……多分、これが今の段階での最新式の人工男根なのだろうか?

 しかも、このマネキンは何と前半分しか作られてなく、つまり後ろ半分は空洞であり、後側に回ってよく見ると、その人工男根の、異様に高度で複雑な構造が手に取るように分かるのだ。



 無論、それがどのような構造になっているのかは、私のような現役の小学校の教師には、知る由も無かったのだが……。



「そいつも、今となっては、もう随分前の古い型の人工男根での。



 つまりそいつは、精液の代わりに水を下腹部の人工精嚢の袋に注射針で注入する事によって、まあ、疑似性行為を可能とするのだが、現在、地元のK大学医学部とアメリカの関連会社と共同開発の新型の「P-X型」は、もっともっと、科学的にも医学的に進んでおってな……。



 つまりじゃな、人間の血液やリンパ液等から、特殊な透過フィルムを使用する事によって、早い話が浸透圧等を利用してじゃな、自動的に、人工精液、その中身もほとんど本物の精液に近いもんじゃが……、を造り出す事が可能なのじゃよ。



 無論、本物の精子は存在しないから子供を産む事は不可能だ。



 そこで、本物の睾丸は一個だけは残して置く。これによって、どんなに性的能力が衰えた老人であってもほぼ2日間で、人工精嚢内に人工精液が十分に溜まってくる。



 つまりこうする事によって、何歳になっても性行為が可能となるのじゃよ。

 無論、あの何十本もの細いコードを大脳神経系と、最終的に神経縫合する事によって、射精感覚の絶頂感までも、確実に得る事ができるのじゃ。



 ……とは言ってもじゃな。射精感覚やその時の絶頂感は、数々の細いリード線を猿の大脳に繋いだだけの実験結果からの、雄猿の狂喜の表情からの推測からの推断であって、まだ、人体実験はしとらんのが、じゃがなあ。ワッハハハハ……」



 大神博士からの嫌に長ったらしい説明であった。一体、こんな医学的説明を「患者」としてこの医院を訪れている筈の私に、何故、説明する必要があるのだろう?



「と、まあ、こんな変わった研究をしている関係で、世間ではワシの事を、「男根博士」とか「陰茎博士」とか揶揄しているらしいがねえ……。



 最近も、当医院の白ペンキ塗りの塀に、男性器の落書きをされたところじゃ。

 まあ、ワシ自体はもう慣れっこになっているがねえ。



 しかし、この人工男性器、つまり「人工男根」の実験が成功さえすれば、例えば、背随損傷の患者さんで全く性行為が不可能な患者さんにも、例のED治療薬が引き起こした、あの世界的な大事件にも、あるいは、もう相当な年齢のご老人の男性諸氏からも、つまり全世界の全ての男性から喜ばれる事になるんじゃよ。



何といっても持続時間は手元のリモコンからの命令により自由にコントロールが可能やしのう。

 これを逆に女性の立場に立ってみてば、また、別のもの凄い御利益があるんじゃしのう……。何しろ、リモコンの操作一つで早漏患者が一人もいなくなるんじゃからのう。ワッハハハハ……」



 大神博士、いや男根博士は、自らの発明に良い知れているかのように、異常に多弁であった。



 しかし、その目付きは、何度も言うように何処かが異様なように感じた。



「「男根博士」か、こりゃまた、とんでもない所に来てしまったもんだな」

 私は、口には出さなかったが、今後の展開に、漠然とした不安を感じたのである。



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