3-言葉足らずな帰り道(由比視点)

 家に帰っても礼嗣はいない。そんな風にどこか寂しさを感じ、由比は夜空を見上げた。今すぐ雨が降りそうだけれど、傘を持っていないし、借りる相手もいない。そんな自分の立ち位置に肺がチクッと痛んだ。

 スマートフォンの受信音が鳴った。コートのポケットから取り出し、画面を見た。


【もう家なの?】


 幼なじみの明日香からだった。今日は恋人とデートだと聞いていたが、こんな時間に由比の心配をしている場合ではないだろうに。


【帰宅中、どうしたの】


 直ぐに既読がつき、新しいメッセージが表示された。


【××駅で江口くんに会った、早く帰ってあげなよ、いい顔して待ってると思うよ】


 礼嗣と同じ大学の明日香には、礼嗣の件で相談をしていた。それも「自分で解決しなよ」と冷たくあしらわれた。その通りだと打開策を練っていたところにこれだ。


【どういうこと、なにか喋ったの】


 由比の問いに答える代わりに、うさぎが万歳しているスタンプを送ってきた。


「なんだよ、それ」


 もたもた歩いている場合ではない、と早足で帰り道を過ぎて夜の九時に帰った。

 玄関を開けると、廊下に礼嗣が立っていた。


「おかえり」


 礼嗣の声が重く聞こえたのは、気のせいだろうか。


「ただいま、遅くなってごめんね」


 まさか礼嗣より遅れて帰ることになるとは思わず、つい謝ってしまった。


「お風呂に入った?」


 靴を脱いで洗面台に向かうと、後ろから礼嗣も付いてくる。


「まだ」


 風呂に入っていないようで、彼から酒の匂いが漂ってくる。


「そうなんだ、先に入っても良かったのに、どうしたの」


 コートを脱いだら、彼が受け取りハンガーに掛けてくれた。


「あ、ありがとう」


 普段から礼嗣は冷静で口数が少ない。由比の行動に干渉するくせに、自分は好き放題している。それなのに玄関で待っているなんて、どうしたのだろう。

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