第27話 姫の救出

「へっくち」

 帝国兵士に囲まれたスナミは、かわいいくしゃみをした。

「スナミさんの事、誰かが噂してるのかなあ」

 帝国兵士の一人がスナミの気を引こうと適当な事を言っている。

「まさか魔界で私は死んだことになってるんですよ」

「魔族じゃなくて我々兵士の中の誰かですよ。スナミさんは大人気なんですから」

「はあ。そうなんですか?」


 眼の能力以外でスナミに興味を示す魔族はいない。プリシラだけがスナミを見て圧倒的美少女と言って騒いでいたが、スナミはからかわれているだけと思っていつも相手にしてなかった。しかし帝国兵士からの人気は絶大で、スナミの周りはいつも人だかりになっていた。


「姫は元気になったのかな?」

 スナミは、プリシラ姫の事を一日も忘れた事はない。

 姫の誕生日パーティの前日、スナミは魔王から突然学校生活の終わりを告げられ、姫の護衛の任も解かれた。次の任務は西の魔物との戦いの為に魔界を離れ、遺跡のトンネル侵攻をサポートする。スナミは姫との学園生活が楽しかったので突然のことに悲しんだ。なによりスナミが後悔しているのは、突然呼び出されて死んだ魔族扱いにされてしまい、姫に別れの挨拶が出来なかったことだった。



 遡って、姫の誕生日パーティ当日


「私も行きたかったなあ姫の誕生日パーティ」

 城に入れず、姫のパーティにも出られず遠くから城をぼんやり眺めていたスナミは、頭の後ろで両手を組み浮遊したまま周囲一キロ、森の中にいる動物を数えて暇をつぶしていた。城内の姫の様子がとても気になっていたが、千里眼で城内を見る事は魔王に禁止されていたので、パーティの事は何も考えないことにしていた。


 パーティ開始からしばらく時間が経って、ふと城の方を見ると塔の上で何かが動いている。

 魔族が争っているようだが何をしているのだろう?

 ゴブリンが羽目を外してるのか?

「あ、ゴンザレッドもいる」

 そしてガーゴイルが背負っている籠から何かが落ちる。

「え?」

 あれは姫だ。

 スナミは塔の下に全速力で飛んだ。だが魔王でもない限り地面に衝突する前に姫を助けるのは無理だ。姫まで二百メートル程の距離になったところで、すごい衝撃音と共に姫は地面に激突した。スナミは泣きながら姫の元に近づいてゆく。しかし舞った砂埃が晴れた時、姫がまだ生きている事に気づく。

「どうして?」

 地面には衝撃で出来た大きな穴が開いている。姫は体中血だらけで顔は真っ青だ。腹から腸も出ている。それと右肩から姫に不釣り合いな魔族の細い腕が生えている。何があったのか全く分からない。混乱するスナミだったが、塔の中から声が響いてる方を千里眼で見ると、ゴブリンが螺旋階段を降りてきていた。スナミは姫を抱えて城から遠くに離れる。

 一体私はどうすればいいの?

 すると

「スナミ、スナミよ聞こえるか?」

 これはヴァシャール様の声。

 近くから声が聞こえるが、ヴァシャールの姿は周囲を見渡してもどこにもいない。

「姫をここから南にある人間の村に連れて行け。魔界と人間界の間にある隠れ里だが、お前なら直ぐに見つけられる」

「どうして?魔王城で姫の手当てをして下さい。酷い傷なので死んでしまいます」

「魔王は姫を見捨てた。もう姫は魔界に住むことは出来ない」

「魔王様が見捨てた?一体なぜ?」

「姫を助けたければ村に向かえ。それしか姫を助ける方法はない。お前の姿を村人に見られないように注意を払え」

 それを聞いたスナミは直ぐに行動に移した。魔族につけられていないか警戒しながら南に向かう。姫を抱えたままなので、スピードが出ない。辺りはだんだんと暗くなり、夜が更ける。

 森と岩山、崖が厚みを増し、下の様子が全く見えない。しかし、スナミの額の千里眼を使えば、透視図のように全てを見通すことが出来る。

「あった、見つけた」

 すでに夜は明けはじめてきていた。村の大きさ、建物、人間の数、全てを一瞬で把握する。物見櫓が二つ、監視している人間は4人。死角を探して、いや何も入り口から入る必要はない。村の住人は寝静まっている。

 スナミは崖を越え、村の井戸の前に空から降下する。紐を引き水の入った桶を上げる。

「姫様、水を飲んで下さい」

 井戸の上に掛かっていた柄杓を取り桶の水を汲んで少し姫に飲ませる。

 姫は苦しそうだ。

 ああ早く姫を助けて。スナミは姫の手を握る事しかできない。

「姫様死なないで」

 スナミは村の入り口にプリシラを残して去っていった。

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