最終局面で現れたのは
いきなり巨大な船を囲い始めた海水。
陽の光は遮られ、彩られた証明が異様に目立ち始める。
魔物の仕業ではないことはなんとなく分かるからこそ、周囲の人間は「演出だろうか?」と、不思議そうに眺めるだけであった。
そもそも、魔物ですら破ることのできない防護結界に守られているからこそ、呑気な感想を抱けるのであろう。
だが、それもつかの間。
海水の一部が極端に補足密集し—――防護結界を突き破って、甲板のど真ん中に刺さった。
そして、刺さった海水から姿を見せたのは—――
「危機感の欠如。派手な演出が突然現れたら、警戒しておくのが常識だろう?」
七色の髪を携えた、エルフの女性であった。
『『『『『……………』』』』』
突然現れた女性。
天には薄いガラスに穴が開いたかのようなヒビが入っており、そこから少しずつ甲板へ海水が降っている。
―――それが不思議なのか。
はたまた、異質的な七色の髪と、纏うように渦巻く海水、もう隠そうともしない特徴的な長い耳に視線を吸い寄せられていたからか。
甲板の上にいた、正装に身を包んだ客の動きが固まる。
しかし、それもすぐに現実へと引き戻され、一斉に船の中へと戻ろうと走り始めた。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
『な、なんなんだよ一体!? この旅行はどうなっている!?』
『どけっ! 俺が先だ!』
突然の猛威。自身が狙われるかもしれないという恐怖。
それらが、甲板にパニックを引き寄せる。
「……さて」
カサンドラは周囲を見渡し、レイラの姿を探す。
「タイミングを間違えただろうか? まったく……今の時間なら確実にいるだろうと踏んでこのタイミングにはしたが、私としたことがパーティーには他の客がいっぱいという常識を忘れていた」
そして―――
「こら、人騒がせがすぎるでしょ」
ピシッ、と。
自身の真横にある空間が突如ひび割れ、一つの拳が纏っていた海水ごとカサンドラの肩を殴った。
「~~~ッ!」
急所にも当たっていないのにもかかわらず訪れる、歯を食いしばってしまいそうな痛み。
あまりにも重たすぎる一撃に、カサンドラの体はパニックになっている甲板の端まで吹き飛ばされた。
「……そうだな、こういう復讐には
直前で纏っていた海水をクッションにし、埋もれていたカサンドラが頬を引き攣らせて体を起こす。
視線の先には、いつの間にか姿を見せていた―――幼いながらに拳を握る少年がいた。
「構ってほしいなら始めからそう言いなよ。ちゃんと誰もいないトコ探して呼んであげるからさ」
「……どちらかというと、遊んでやるのは私の方だと思うがな」
起き上がったカサンドラは、真っ直ぐに少年を見つめる。
「あとで遊んでやるから、今は邪魔をするな少年。安心しろ、別に私は君にもここにいる客にも手を出すつもりはな―――」
「でも、レイラは殺そうとするんでしょ?」
「まぁ、な。それが私の目的だから」
退くつもりはない。そんなの、カサンドラの落ち着いているようでどこか冷え切った声音でよく分かる。
しかし、ハルカは。
周囲がパニックで逃げ回る中で素直に、率直に思った疑問をカサンドラへ向けた。
「……どうして、君はレイラのことを殺そうとするの?」
すると、カサンドラは肩を竦め、
「身内が殺されたら復讐をする。世間一般の憎悪な常識だと思うがね」
キッパリと、悪びれる様子もなく口にした。
「あの女は、私の姉と仲がよかった。素直に森にいた時は羨ましかった……私の姉はね、私の憧れなんだ。この口調も、姉に憧れて真似ているんだ」
「…………」
「立派な人だったよ。いつも冷静で、強くて、心が広くて、誰も見捨てられない優しさがあって、親しい人はとことん大事にして―――それこそ、あの女も姉の口から『大事な人』と定義されるぐらいには大事にしていた」
徐々に、カサンドラの握っていた拳が震え始める。
「それが羨ましかったし、妬ましかった。けれど、姉が認めて姉が自ら大事にしている友人ならって、私も我慢してた……あの女と一緒に森を出るという話を聞いた時も、「仕方ない」と思ったさ」
やがて、震えていた拳が防波堤だったのかと錯覚するほど、カサンドラの感情が一気に決壊していく。
「けどッ! あの女は姉を殺しただけじゃない……お姉ちゃんの記憶すら自分で消したんだッ!」
「…………」
「分かるか、私の気持ちが!? 姉が死体として戻ってきて、あの女が記憶をなくし、姉を想って記憶を戻せるよう何百年も外の世界で方法を探し、結局自分可愛さに記憶を消したのだと知った私の気持ちッッッ!!!」
感情だけでなく、カサンドラの瞳から涙が零れ始める。
「許せるわけないじゃん! 我慢できるわけないじゃん! 仕方ないで終われるわけないじゃん! 私は、私の姉のためにも……絶対にあいつを殺す! 天国で姉に土下座してもう一度殺してもらうんだッッッ!!!」
きっと、パニックになった会場では、カサンドラの言葉をしっかり聞いた者はいないだろう。
しかし、問いかけた優しい英雄だけは。
口調の変わったカサンドラの言葉を聞いて―――
「……今の君の行動を見て、天国のお姉さんはどう思ってるだろうね」
「あ゛!?」
「本当に、レイラは罪の意識から逃げたくて忘れたのかな? 君のお姉さんはレイラのことを大事にするぐらい優しかったんでしょ? レイラが罪悪感に苛まれないように、自分から忘れろって言った可能性はないの?」
「ッ!?」
ゆっくりと、ハルカは一歩を踏み出す。
「真実がどうかは分からないよ。でも、僕にはそうは思えないから……二人でさ、しっかりと話し合おうよ」
カサンドラは大きく息を吸い、
「ふぅ……私としたことが、取り乱したな。私の姉だったら、こういう時も落ち着いてた―――クソ女の味方の言葉に心が揺れることはなかった」
カサンドラもまた、一歩を踏み出す。
「話すことはない、殺すさ……それが復讐の常識なのだから」
「なら、僕は君を止めるよ。頭を冷やせるまで、僕が君の我儘に付き合ってやる」
そして、旅行を締めくくるパーティーの中で。
一人のエルフを巡るすべてを締めくくるための最後の戦いが、甲板の上で始まった。
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