14.愛の人生相談先

 時は少しだけ戻り昨日の夜のこと。高波と金子、そして美知子は西高近くのショッピングモールで桃子と待ち合わせをしてから合流しゲーセンで少し遊んでから二人ずつに別れた。


 金子はゴキゲンで調子に乗り桃子の自転車を漕ぎ走り出したが、出発間もなくへばり、情けないと言われながら彼女の後ろに乗って自分たちの街まで帰った。この日は連絡先を交換するだけで終わったが、それでもこれは金子にとってささやかな幸せ体験だったのは間違いない。


 そして珍しく問題を抱えて頭を悩ませていたのは高波だった。運命の相手だと確信している美知子とこれからどうすべきなのか。あのチンピラ親父がいる自宅へ連れ帰ると言う選択肢はなく、かといってホテルへ泊まると夕飯が食えなくなる程度には懐は心もとない。


「タカシ? どうしたの?

 お腹すいたなら何か食べいこっか、ウチが出すからなんでもいいよ?」


「それじゃ今までと同じなんだよ。

 オレはミチと会えたことを運命だと思ってるし思いたいんだ。

 だけどさ、オレは女を口説く以外の取り柄がねえのさ」


「取り柄があるだけスゴイよ。

 ウチなんて肉体からだ売ることしかできないんだもん。

 でももうやめるんだぁ、これからはタカシにだけ抱いて欲しいから。

 今からキレイにはなれないけど、これ以上汚れないようにするくらいできるよね?」


「なに言ってんだよ、体にキレイも汚いもねえよ。

 オレだって数えきれないくらい相手にしてきてるから同類さ。

 とりあえず今日泊めてもらえるとこ探すわ。

 ミチは普段どうしてんの?」


「うーん、ホテルとか朝まで時間潰してからガッコで寝るとか?

 一応どうにもならない時は保護施設へ帰るんだけど、センセの相手しないといけないからあんま帰りたくないの」


「そっか、結構面倒抱えてる感じなんかな?

 ちょっと電話するからすわろっか」


 高波は今までないほどに困っていた。さすがに日々渡り歩いている女性宅には行かれない、それくらいの良識は持っている。しかし彼女たちに寝食だけでなく小遣いも貰って暮らしている高波はそれ以外の生活手段を知らない。


 あえて言うなら、実父のように誰かの代わりに借金を取り立てる仕事なら出来るかもしれないと感じる程度で、結局まともではない。今からバイトしても今日すぐ金になるわけでもないし、一体どうすればいいのか。


 ここで思いついた手段は一つだけだった。まずは自分の面倒を見てくれている女性たちへ相談してみること。一般常識で考えるとイカレタ思いつきだったが、それでも高波は彼女たちを信頼していた。


「あーもしもし美咲ちゃん? うんうん、バンワー

 今日は爽んとこだったんだけどちょっと相談があってさ。

 ―― 違うって、オレそんなことしねえもん。

 マジで悪いことなんてしてないから心配いらないよ」


 大学生の横井美咲は心配性なので、高波がなにかしでかしてしまって今晩の当番である鈴本爽の家へ行かれなくなったのかと心配したのだった。


 高波が当番の女性宅へ行かない時は直接連絡することになっているし、そんなことは良くある話である。ただそれ以外の日に美咲へ連絡が来ることはほぼ無い。それがわかっているからただ事ではないのだと考えていた。


「あ、うん、そうだね、ホテル代も無いんだけどさ。

 なんつーか、相手の子に出させるわけにもいかないっツーの?

 ―― えっ? そりゃ珍しいかもしれないけどなくはない?

 そんで話聞いて欲しいんだけど今から美咲ちゃんとこ行っていい?

 ―― あ、ああ、そう、うん、怒ってる?―― ホントに? 良かったぁ。

 そそ、飯もまだだよ、なんか買ってく?

 ―― マジで作ってくれんの? いつもありがとね、感謝してるよ」


 高波は長々と相談して話がついたためホッとしていた。あとは美知子が納得すればそれで解決だ。


「ミチ、そんじゃいこっか。

 美咲ちゃんって言うのはオレの保護者みたいなもんかな。

 彼女じゃないけどなんつーんだろこういうの……」


「パトロン? タカシってヒモなの?

 まあそれも納得だけどね、カッコいいしいい匂いするもん。

 早く食べたいよ……」


「オレもだよ、なんか匂ってくる気がしちゃうわ。

 でも多目的トイレでするのは誰にとってもマナー違反だからな。

 ちゃんと話せば美咲ちゃんがホテル代出してくれるからそれまでガマンな?」


「お金ならウチ持ってるし、タカシが望むならこれからも稼いでくるよ?

 汚くないって言ってるれるならなんだってするからぁ。

 だからウチのこと愛してほしいの、棄てないでほしいの」


「バカヤロウ、そんな心配するなってば。

 金ならオレがちゃんと稼いでヤっからミチはもう肉体からだ売らねえでいいって。

 そりゃ相手のことが好きで欲しくなっちゃうなら仕方ねえけど。

 そうじゃねえ奴を金のためだけに相手すんなって、な?」


「うん、じゃあウチが金ちゃんとシてもいい?」


「ちょっと待って、それは何か微妙……

 なに? 金ちゃんみたいなのがタイプなの?」


「ちょっとだけね。

 あのガリガリ加減が良くない? 叩いたら折れそうでぞくぞくしちゃう」


「あー、ミチってそっち系? オレはあんま得意じゃねえんだよなぁ。

 でもオレはぜってー優しく愛を込めてお前に注ぐぜ? 約束する―― ぐはっ」


 どこかのマンション前の植え込みに座っていた二人だったが、あまりに気分が盛り上がり過ぎた美知子が高波を植え込みへと押し倒してキスをした。そこへちょうど住人らしき女性が通りかかり声を上げたので、二人は大笑いしながら慌てて逃げ出した。

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