7.愛の裏工作

 近隣では東のバカ高、西の最高などと言われてなにかと比べられる公立の両校だが、実際にはトップの学力にそれほどの差はない。


 しかし東高は間口が相当下に広く、他には行くところの無い生徒が集まりやすいのは事実だ。もちろん学力が低いものが多ければ、人間性に問題のある生徒の数もそれに比例する。


 対する西高は学力の平均が高く、それに伴って生徒の質も上々である。大学進学率も高く、卒業生からは地元の名士や著名人をそこそこ輩出していて名門の名に恥じない高校だ。


 さらに言えば、東高から西高へナンパに出かける生徒はいても逆はあり得ない。と言うよりも、そもそも学校帰りに他の学校へナンパに出かけること自体が異常者の仕業と言ってもいい。


「なあ、わざわざ西高までいかなくても駅で張ってりゃいいじゃねえか。

 どうせ真ん中に駅があるんだから歩く距離も半分だぞ?」


「まあそれでもいいけど暇だったからな。

 それになんか今日は西高へ行かなきゃいけない気がするんだ。

 きっと運命的な出会いが待ってるんだろうな」


「んなことあるかっての。

 お前の運命レーダーは股間についてんのかよ。

 ほら、もうだいぶ西高生とすれ違っちまったぞ?

 桃子だってもう帰ってるって」


「でもあいつって中学の時テニス部だっただろ。

 きっと今も続けてるんじゃね?」


「だからあの後輩がテニス部の後輩なんだっつーの!

 マジでカンベン、俺が悪かった、モックおごるから戻ろうぜ」


「いやマジで西高まで行きたいんだよ。

 金ちゃんは戻って駅前のモックで待っててくれてもいいぜ?

 俺は運命を信じて行ってみるからさ」


 高波が盛んに運命運命と言っているのだが、これは天使によるすりこみ、いわゆる暗示のようなものである。そして西高には道川美知子がなぜか下校せずに誰かを待っている。もちろんそれも仕込みだ。


 天使はいい加減偶然に頼った出会いのチャンスを待つことに飽きていた。駅を挟んで東と西に分かれてほぼ同じ距離、そして二人とも同じ駅を似たような時間に利用している。そういった事情から女神に選ばれたと思われるのだが、偶然出会うのを待っていたら卒業してしまうかもしれない。


 神や天使の時間は永遠だが、人間なんて一瞬で命が尽きてしまうと言うことを女神が理解していたか怪しい。今やすっかり疑い深くなっている天使は、自分なりの計画を立てて実行する気満々である。


「ちなみにその運命には俺の運命の人はいないわけ?

 それなら俺も一緒に行くんだけどなぁ」


「金ちゃんの運命の人は桃子だからいるに決まってんじゃん。

 マジで行ってみた方がいいよ、俺の勘が当たるのはわかってんだろ?」


「じゃあメガッチがうまくいってたら俺も信じるわ。

 そんで桃子とうまくいったらこれからお前のことナミタカ神って崇めてやらぁ。

 でも悲惨な結果だったら毎日焼きそばパンな!」


「うちの高校に購買ねえじゃんか、クッソワロ。

 んじゃいちご牛乳奢ってやんよ」


 金子は交渉成立と言ってからメガッチこと大内へとメッセージを送った。しかし一向に返事は来ないし、なんなら既読すらつかない。いつもスマホをいじっている依存症のような大内は、返信が無いのはともかく既読が付くのはいつも早いのだ。


「今頃ホテルでも行って楽しくヤってんじゃね?

 どうしてもって言うなら谷前に送ってみるけど邪魔しちゃ悪いだろ。

 そのせいで中折れでもしたらそれこそ新たなトラウマになるぞ?」


 高波は自信満々だし、大内にトラウマを増やすわけにはいかないし、と考えすぎた金子は結局いつの間にか高波の話術に丸め込まれていた。

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