現代最強だった異能士、魔法の異世界に転移するも魔法適性ゼロ。仕方ないので異能を使って世界最強になりました。

蒼アオイ

魔法の世界

第1話 転移


 雨が降る。


 雨が降る。


 雨が降る。



「はっ」


 血塗れ真っ赤で横たわる俺から漏れたのはなんと「笑み」だ。

 だって笑えるだろ? ずっと苦楽を共にしてきた幼馴染の沙也加さやかが実は敵の男に寝取られてた、なんて。


 いつからだ? 俺が今高校二年だから……高一、いや中三か?


 敵の男が言う。


霧神きりがみれい、お前の敗因は…………」


 もう音さえまともに聞こえない。

 視界もぼやけてきた。


 そうか、俺は死ぬんだな……。


 幼馴染に背中を刺されて死ぬんだな……。


 惨めな死に方だ……。


 ずっと仲間だと思っていた幼馴染にも裏切られ、寝取られ……。


 こんな世界……。


 こんな世界……。


 こんな世界……。



 そこで俺の思考、感覚、それら全てが消えた―――。



  ◇



「んん……なんだ? 暗い……?」


 目を覚ました――。意識があるとすればおそらくここは死後の世界。

 ああ、やっぱり俺は死んだんだなと思った。

 惨めにも幼馴染に裏切られ、敵にも負け……。

 俺はお前が好きだったのに……沙也加、君が大好きだったのに……。


「くそおおおおおお!!」


 そう叫んだが、何かがおかしい。

 叫べた? いや別に死後の世界で叫べること自体は不思議ではないが。

 何か違和感を感じる。

 土の匂い……木々が重なり合い鳴る音……そして涙としての水滴の感覚……。

 なんだろう、全てがリアル過ぎる?

 

 言うなれば俺が生きてるかのような……。


「いや待て!!」


 ゴツン――。


「いって……」


 頭を何かにぶつけ、萎縮していると……外から何か声が聞こえる。


「……ろ! ……だ……き…………」


 外から? つまりここは何かの中なのか?

 まあいいや、取りあえず体を動かそう。この暗闇から出よう。


 頭をぶつけてから、かき分けるようにひたすら斜め上に歩いた。

 上へ上へ歩いた。モグラのように掘り進め、ひたすら上へ。

 まるでそれは土の中を泳いでいるような感覚だったが、それは正解だったと地中から這い出た瞬間に分かった。


「な、なんだここ……!」


 体中が土塗れであることよりも、何よりもまず外界の世界観に驚かされる。

 まず目に映るのは森。というかここが森の中。空気も綺麗で、どこか神秘的な世界が広がる。

 とても俺の生きていた2400年――サイバーパンクで腐敗した世界とは異なる。


「森なんてまだあったのか?」


 青い空を見上げた。

 なんと、空も黒ずんでいない。元の世界ではあり得ない光景だった。


「竜?」


 仰いだ蒼天には大きな翼を羽ばたく謎のトカゲが飛行している。それは神話やアニメなどで見る竜としか思えない外観をしていた。

 さらにその辺のジャングル一帯では見たこともない光るへビや角のあるウサギが右往左往……。


「間違いない……ここは異世界だ」


 だが、そんなことあり得るのか?

 割と論理的思考を好むオレだが、ここが夢でない事と、ここが今まで暮らしていた世界とは別物であるという事実だけは理解できた。

 しかしそれでも現実味がない。


 それに、何かがおかしい……。


「そもそも体が乳児じゃない……だと?」


 手や足を動かしてみると筋肉の硬直による違和感こそあったが普通に俺の身体だと理解できた。これは紛れもなく自分の身体であると。

 一瞬でも、死んで異世界に転生したのか?と期待した自分が馬鹿らしくなってきた。


 自身は保ったまま……つまりこれはというやつだな。

 どうせなら前世の事を全て忘れられる転生の方が良かったんだが。


 しかし普通、異世界転移ならば勇者として召喚されるのがベタな展開なのでは?

 周りは聖堂でもなければ王室でもない……。

 さらに言うなら死んだというのに転生ではなく転移……意味不明だな。


「まあいいか。俺の体がそのままなら、とにかく異能が使えるか調べないと」


 俺は脳内にある術式の意識を空間に遷移させ―――

 

「上位蒼雷、来い―――麒麟ギラファ


 瞬間、俺の身体をぐるぐると周回する蒼き電光。激しく明滅しながらその蒼を強調してくる。

 これこそが俺の異能。

 元の世界では「世界最強の異能士」や「電撃異能の申し子」なんて言われてたわけだが……。 


「能力が若干落ちてるな……。異世界に転移した反動か?」


 上手く説明できないが久しぶりに自転車に乗った時の感覚に似ている。発動は出来るし問題ないのだが、しっくりこない。

 仕方ない。「麒麟ギラファ」の使用は控えるか。

 そんなことを考えていた時、突如どこからともなく音が聞こえる。それは人の声だ。


「――――!」


 俺は反射的に身体を低くして茂みに身を隠しつつも、音の方を見る。

 何故か聴覚が甚だしく鈍り、音が聞こえていなかったことにさえ気づかなかった。

 突然音が聞こえてきたのは聴覚が一気に戻り始めたから。

 転移するとこんな症状が出るのか? 初耳なんだが。


「おい、早く乗れ!!」

「っ――」


 声の方を見ると何やら、鎖に繋がれた少女が馬車に乗せられ―――って少女!? 


 いや―――


 とても美しい外見、尖った耳に金髪と碧眼……。


 これは……


 エルフ!?




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