第七十四討 朝日色ニ灯ル輝キ
少女の身を、蝋燭
まばゆいそれは青白の異界に在って、昇る朝日の如く赤々と輝いた。
家紋が刻まれたケープは足元丈の
その手に在るは銅の
可憐なる少女の姿でありながら、その姿は陸軍軍人と言えよう。
「わっ、わぁっ!?なんか、凄いっ!」
突然光に包まれ、目を開けたら色々と変化していた。それに驚いてアカリは自身の姿を見回す。身体の動きに応じて、彼女のマントがひらひらとはためく。
纏装は物理法則を無視した超常現象、彼女が驚くのも当然と言えよう。
だがしかし、アカリはすぐさま落ち着きを取り戻す。
「これなら……」
いつの間にか手にしていた武器。今まさに直面する状況にあって、最良の力をもっていると確信できる代物だ。
ボルトアクションレバーを握り、ガキンと音を鳴らして引く。弾を装填する弾倉が露となり、そこに一発も弾丸が存在しない事を確認した。
アカリは無意識に、右手を自らの腰に
差し入れた手が掴むのは、五発の弾丸が留められた装填
「ぅんしょっ!」
ガチン
今度はレバーを押し、弾薬を砲身に送り込む。発射準備が完了した事を確認し、彼女は腰を落として立膝をついた。砲口を向ける先は当然、ヨーコ達に攻撃を加え続ける悪しき妖精。脇を締め、狙いを付ける。
チキキ……
「これなら……っ!」
右手の人差し指を引き金に掛ける。定めた狙いを外さぬように呼吸を止めた。それによって、揺らいでいた砲口がピタリと静止する。
アカリの指がクッと動いた。
ダァンッ!
発せられた砲声は、重圧球によって生じる破砕音の中でも強く響く。雪か雨かの様に降る黒球の隙間を通り抜け、一直線に目標へと飛んでいく。
バズンッ!
ギギャッ!?
「あっ!?」
赤金は正確に幻魔を撃った。
だがしかし、弾丸が通り抜けたのは
ギギギ……ッ!
「くっ」
一撃で仕留められなかった代償は大きい。
完全にアカリの事を認識し、警戒を強めた重圧妖精。脅威となり得る相手の攻撃手段が分かるなら、それが自身を捉えないようにすればいい。それまで滞空するだけだった幻魔は、不規則に飛び回り始める。
狙う砲口はそれに合わせて動くが射撃するには至らない。ボルトアクションライフルである以上、一発撃った後にはレバーを動かす装填動作が必要。邪悪な妖精はその隙を逃さずに攻撃してくるだろう。
だが、幻魔も同じく攻撃を放てない。一瞬とはいえ動きを止める必要がある以上、そこを射貫かれれば今度こそ額に風穴が開くと理解しているのだ。
手に有るタマをいつでも射出できるようにしながら、互いに相手を睨み続ける。しかし、持久勝負ではどちらに
(……ッ、息が…………)
狙撃する以上は照準を合わせなければならない。そのためには集中が必要であり、ブレは許されない。呼吸による身体の動き、僅かな手の震えがそれを引き起こしてしまう。だからこそアカリは息を止めているのだが、それを永久に続ける事など不可能なのだ。
ギィィ……
段々と顔が赤くなって脂汗を垂らし始める彼女の様子を見て、重圧妖精はニヤリと笑った。このまま動き続ければ相手は自滅する、自身の勝ちは揺るがない。そう理解したのだ。
アカリの顔に焦りの色が出る。
だがしかし幻魔は忘れていた。いや、気にもしていなかったというのが正しい。
自身を脅かす事は無くとも他に二人、この場にいる事を。
「いくよっ!」
「とうっ」
思い切りの回し蹴り。それを飛び上がった相手の靴底に打ち当てる。威力は推進力に変わり、蹴られた者は上空へと射出された。重圧球の隙間を一瞬で抜け、幻魔よりも更に上へと飛び出す。
「こっちこっち!」
ギギッ!?
空中でくるりと一回転し、サラは眼下の妖精に声を掛けた。突然の事に、幻魔はそれに応じて振り返る。
(……!今!)
掛けていた指に力を込める。カチンと部品が動く音が鳴り、次いで轟音が筒から発された。吐き出されたヱレキテルの弾丸は、幻魔に向かって一直線に飛んでいく。
ギッ!
発砲音によって意識をアカリに引き戻された重圧妖精。その目に映ったのは、眼前にある
パァンッ
ただ貫くのみならず、突き刺さった後にヱレキテルが爆ぜる。それは頭蓋を内側から砕き飛ばして、無数の欠片となって散らばらせた。
幻魔は一瞬で首無しと成り果てる。
完全に力を失ったそれは羽ばたく事無く、大地に向かって一直線に落ちていく。一切の減速無しに堕ちた首無しはグチャッという気持ち悪い音と共に、紫の大きな染みへと変わった。形を無くした幻魔は紫色の炎を生じさせて、あっという間に消え去る。
数秒の後、そこには何一つ残ってはいなかった。
「すたっ」
「よっし!」
綺麗な着地を決めたサラ、勝利に拳を握るヨーコ。二人の討滅士は、パチンと手を打ち合わせた。
「はぁ、はぁ……」
自身が思っている以上に限界だった身体は、酸素を寄こせとばかりに強く呼吸を求める。手にしていた小銃は横に転がり、両手を地面につけて大地を見る。脳に酸素が供給されると同時に、視界がぐわんぐわんと揺らいでしまう。
少しの間そうしているとようやく落ち着き、アカリはゆっくり顔を上げた。
「アカリちゃん、お見事!」
「アカリ、すごいすごい」
いつの間にか目の前には二人の
「お姉さま、ヨーコさん、わたし……」
張っていた気が緩む。肩に入っていた力はすっかり抜け、彼女は後ろに倒れるようにぺたんと地面に座った。長いマントの裾がふぁさりと大地に広がる。
「私、ちゃんと出来ました?」
「もち」
「バッチリ!」
二人の返答でようやくアカリに笑顔が生じた。
「あっ、トモヨちゃん!」
自身に余裕が出来た事で、心配するべき相手へと意識が向く。座った姿勢のまま振り返った彼女は、親友の頬に手を当てた。
「う、あ、アカリ、ちゃん……?」
「もう大丈夫だよ、トモヨちゃん。帰ろ!」
朦朧とする意識の中で疑問を口に出す彼女に、アカリは笑顔で返す。
かくて危機一髪の出来事は終わりを告げ、皆は元界へと戻ったのだった。
「……あ!どうやって寮に帰ろう!?」
そしてアカリとトモヨには、まったく別の問題が生じた。
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