第12話 遅すぎた再会

「旦那様! 行き倒れた子供達が来ております!」

「なんじゃと!」


まさかとは思うが浩二の子供達じゃないのか?

ワシは心臓の事も忘れて使用人に着いて走った。


「何処だ!」

「玄関前です!」


玄関前にボロボロで痩せ細った少年が倒れており、側に泣きじゃくる少女もいる。

この顔は、まさか! あの時、ワシの命を助けてくれた少年!


「君は! あの公園でワシを助けてくれた少年じゃないか! しっかりするんだ! おい! 早く救急車を呼べ!」

「は、はい!」


ワシは倒れている少年を抱え上げて、せめて楽な姿勢にさせてあげた。

少年が消え入りそうな声で話すのでワシは耳を近付ける。


「ぼ、僕たちの……お父さんの名前は……一条浩二、と言います……こ、この家にお父さんの家族はいますか?……」


そう言って少年は震える手でポケットから免許証を取り出した。

ワシはそれを見て驚愕した! これは間違いなく浩二の免許証だ!

この子達は浩二の子で、浩人と真由子に間違い無い!


「これは浩二! 一条浩二はワシの息子じゃ!! ワシは君達の祖父だ! ずっと、ずっと君達を探していたんじゃよ!」


「よ、よかったぁ……真由子……これからは……ここで幸せに……なれるよ……」


そう言うと浩人は真由子の方に手を伸ばした。


「おにいちゃん! 死んじゃやだぁ!」

「浩人! しっかりするんじゃ! もうすぐ救急車も来る!」


「おにいちゃん! おにいちゃん! 私とずっといっしょでしょ? 死なないで! おにいちゃーん!」


もう弱って凄く痩せ細った浩人の心臓は動いていなかった。


ワシも懸命に心臓マッサージを施し、救急隊員にもやらせたが浩人が息を吹き返す事は無かった。



ーーーーー



浩人が死んでしまい、泣きじゃくる真由子が落ち着いた頃、真由子に妻から事情を聞いてもらう事が出来た。


それによると、何と既に浩二とその妻は交通事故で無くなっており、二人は伯父に寄って引き取られ、物置小屋の様なところで度々食事を抜かれながら生活していたという事だった。


そして兄の浩人が自分を守りながらここまで連れて来てくれたと。

ワシと妻は泣きながら真由子を抱き締めて、もうそんな伯父のところへは返さないと決め、グループのお抱えである腕利きの弁護士に手続きを任せた。


ワシがあの時、直ぐに浩人を探していれば救えたかも知れない。

遅すぎたんじゃ。



ーーーーー



そして10年が過ぎた。


17歳になった真由子が一人の青年を連れて来た。

戸田晴臣という青年だ。


聞けば死んだ浩人の小学校の親友だったという。

青年は真由子と正式に結婚を前提に付き合う許可を得るのと、それとは別に一つの真実を明らかにしたいとの事だった。


人払いをしてもらい、ワシと妻、既に当主となっている息子の一浩、孫の真由子と青年の五人だけにしてもらう。


まず付き合いについては一応調査はさせてもらうが、犯罪歴などが無ければ一条家としては問題ない事を伝えた。

そして落ち着いたら婚約してもらうと。

家柄で縛ったりはしないと言うと真由子が幸せそうに青年に微笑むのだった。


しかし次に出た話は驚くべき事だった。


「まずは僕が浩人君から聞いたこの話を秘匿していた事を謝罪します。この話は、特に真由子さんにはしないでと彼から言われていたものです。その為、ずっと黙っていましたが、僕は真由子さんと正式に付き合うにあたって、真由子さん、そしてご家族も知るべきだと考えました。何故ならば、それこそが浩人君が自分の死をも厭わず真由子さんを守りながら旅立った理由だからです」


重々しい雰囲気になったが、続きを促す。

「続けてくれ」


「はい。僕が浩人君から聞いたのは、彼が伯父の中華店の前で隠れ聞いた内容です。彼は伯父と伯母が共謀して、浩人君と真由子さんのご両親を車で轢いて殺害したという内緒話を聞いてしまったそうです」


「お父さんとお母さんを!」

「弟を!」

「なんて事なの!」


ワシも頭に血が上ってくる感じがある。

もし本当なら許し難い話しだ!


「それを聞いてしまった浩人君は真由子さんの為にも、伯父から逃げる事を決めました。彼が恐れたのは、それを自分が知った事が知られたら、口封じに殺されてしまう事でした」


「しかし11年も経ってしまったんだ。証拠はあるのかい?」

一浩が問う。


「あります。というかあるはずです。浩人君から聞いたのは、殺すのに使用した車を敷地内に埋めたと言う事と、そこを埋め立てて物置小屋を建てたという事でした。つまり、それを掘り返せば証拠が出てくるという事です」


ワシらはあまりもの怒りで全員が言葉を無くしていた。

じゃが全員の瞳を見ると、浩二、その妻の由香さん、浩人の仇を討とういう決意がありありと見て取れる。


よろしい!

ならば一条グループの総力を持って事に当たろうではないか!

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