第40話 やりすぎ! 公開処刑!!


「誰だ、こんな大それた事をする不心得者は!我らの聖なる行いを邪魔するとは何者だ?」



 自称婚約者がやらかした出来事に、マジキチ処刑人が噛み付いてきた。大それた事って言ってるけど、ウチから見たらどっちも大差ないよ?



「黙れ。私は私の信じる正義を下したまでだ。あなた方の様な者にとやかく言われる筋合いはない。」


「我らの前で正義を語るとは! 身の程を知れ!」



 処刑人は手にした大鎌で婚約者に斬りかかっていく。それでも、婚約者は避けようともしない。大鎌が振るわれた瞬間、婚約者は姿を消した。



「私が無防備に斬られるとでも思ったか? スター・バースト!」



 婚約者はいつの間にか、処刑人の後ろにいた。杖を構えて、魔力の光が先端に凝縮されている!



「なっ……!?」


(ズドォォォォォン!!!!)



 凄い光と音が処刑人に炸裂した。光の束が処刑人の直線上にある全ての物を消し飛ばした。さっき広場を爆発させたのはこの魔法か!



「……無駄に力を使いすぎとるのう。自身の妖力が余程有り余っておるんじゃろうな。」


「どういうこと?」



 お爺ちゃんは不思議なことを言う。強い魔術師ほど、超常的な力を使うんじゃないの? それこそ、多人数を相手にしたり、それどころか軍隊とか建物を丸ごと消し飛ばしたり出来る様な感じで。



「これでいい。ようやく邪魔者は排除できた。」


「……うう……。」



 ウチがお爺ちゃんに気をとられている間に、婚約者はエルるんの拘束を解いているところだった。その最中にどこかに隠れていた。他の時代のエルるん、というより記憶の断片達が姿を現した。つまりエルるんが三人も同じ場所に集結している。



「……助けるんですか、私を? 誰かは存じませんが、あなたも罪人になってしまいますよ。それに必要以上に私に近寄ればあなたも感染してしまいます。」


「問題ない。対策はしているし、君を助ける使命があるから、私はどんなことでもする。例えそれが世界を敵に回すような真似でもね。」



 婚約者は懐から護符を取り出し、感染対策していることをアピールしている。どんなことでもか。そりゃそうだよね。幻影とはいえ、一般人も巻き込んでたもん。目的のためなら手段を選ばない。そういう冷血さは一貫してるね。嫌いだけど。



「君は悪くない。例え闇の力に浸食されていようと、君の正当性は私が証明してみせる。だからこそ助けるのだよ。」



 婚約者はエルるんの拘束を完全に解き、地面へと降り立たせた。そして、他のエルるんを並ばせた。当然、彼女は過去の自分が二人もいることに戸惑っている。



「これは一体どういうことですか? 私が何故何人もいるんです?」


「この二人、いや君自身も君の本体の記憶の断片だ。これから君たちを元の体へ戻す必要がある。その前に記憶の統合を行っておきたい。自分が複数人いるのは良い気分ではないだろう? さあ、それぞれみんなの手を取り合ってくれ。」



 婚約者が他の空間から連れてきた二人は素直に従っているが、処刑されそうになっていたこの空間のエルるんはまだ戸惑っている。だけど、その手を優しく取り、他の二人と触れ合わせた。その瞬間、エルるん達は眩しい光に包まれた。光が収まると、一人の姿になっている! その手を取り、婚約者は彼女の前に跪く。



「私は君を裏切らない事をここに誓おう。必ず守り抜いてみせる。」


「ああ、ラヴァン様。私の王子様。」



 エルるんは嬉しそうに、うっとりとした顔になっている。ダメだ。あいつにすっかり洗脳されちゃってる! ここに来るまでの間に色々吹き込んでいたのかもしれない。



「エルるん、しっかりして! 騙されてるよ! この人は婚約者なんかじゃない! エルるんには勇者がいるでしょ!」


「フッ、なんだ、君たちもここにいたのか。でも無駄だ。彼女はすでに私の事を信用しきっている。何を言おうと覆ることはない。加えて、この時代の彼女は君たちの事は何も知らない。彼女にとっては君たちは赤の他人なのだよ。」


「くうっ!?」



 悔しい。なんでこんな冷血漢に友達を足られなきゃなんないの! これじゃ手の出しようがないじゃない!



「オイ、その薄汚い手を姉さんから離せ!」



 突然だった。ついさっきまで気を失っていたはずの弟君が目を覚まして、エルるんと婚約者の前へ向かって行っていた。



「なんだ君は? 姉さん、だと? 彼女には弟などいないはずだが?」


「うるさい! その前に姉さんに婚約者なんかいない! いたとしても、オレが彼女に近づく事を許しはしない! オレと彼女の絆を壊すようなヤツは……殺す!」



 弟君は婚約者と戦うため背中の大きな剣を抜いた。その姿を見て、婚約者も彼に向き直り、エルるんを守るかのように立ちはだかった。



「……なるほど。君は精神体でこの空間に侵入しているな? 道理でおかしいと思ったんだ。招かれなかった者は生身でこの空間に侵入することは出来ない。しかし例外はある。空間に招かれた者と何らかの精神的繋がりがあれば、記憶を通じて精神体に限り侵入は可能だ。そうなのだろう?」


「理屈をごちゃごちゃと、魔術師はいつもこれだから嫌いなんだ。当然だ姉さんとの絆があったからここに来ることが出来た。救えるのはオレだけなんだ!」



 弟君は斬りかかっていく。エルるんを巡る戦いが始まった。本来のパートナーがいないところで。早く来い、ゆーしゃ! このままだと、あんたの、ウチらのエルるんが取られちゃうよ!

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