第38話 カルト勧誘、お断り!!


「忌み子め! 死んでしまえ!」


「汚れた魔族を処刑しろ!」


「魔王なんか、この世からいなくなれ!」



 広場が異様な雰囲気に包まれている。集まった人々がたった一人の人を罵り、否定している。ウチは今までこんなのを見たことがない。人ってこんなに残酷になれるんだ。こんなに醜くなれるんだ。人のおぞましい部分をこれでもかというぐらいに見せつけられてる。



「これも人間の側面じゃ。これが全てではないということを意識しておくのじゃ。決して感情に流されるでないぞ。流されれば、敵の思うつぼとなろう。」



 しばらく見ていると、鎌の紋章のついた服を着た人が磔の前にやってきた。この人が現れると共に周囲の罵声が小さくなっていった。まるで、これから起きる何かを待ち侘びるかのように……。



「これより汚れた悪魔を処刑する。理由はこの町の皆さんもよくご存じだろう。この町で発生したアンデッドの出没事件。その原因はこの悪魔だ。」



 ヒドい。ウチらの友達を悪魔呼ばわりする神経が理解できない。あの子は悪い子じゃないし、何も悪いことなんてしてない。どうして一人の人に罪を背負わせようとするの?



「悪魔、延いてはそれらを統率する魔王。奴等魔族はこの世から根絶せねばならない。奴等はこの世の絶対悪なのだ。」



 人々は鎌の紋章の人の話に聞き入っている。なんだか怪しいカルト宗教の集会みたいに見えてきた。あの人達はこうやって人々を洗脳していってるのかもしれない。



「魔族その物だけではなく、魔族によって闇の力の影響に晒された者達も駆除せねばならない。その者達に罪はないと思う人もいるかもしれない。否! 闇に浸食された時点で即、罪人となる! その者達は存在するだけで周囲の者を感染させてしまう。何としてでも駆除しなければならないのだ!」



 大げさに誇張している上に、嘘も含まれてる。それでもうまく人々を誘導して支持者をふやしていっているのかもしれない。この人達をそういう考えにさせているのは何? どうしてここまで異常なことが出来るの?



「では、罪人の処刑を開始する。聖なる火を持て!」



 演説をしていたオッサンが周りの部下に指示を飛ばしている。火って言ったからエルるんを火あぶりにするつもりらしい。よく見ると磔台の下には薪が大量に用意されている。



「ヤバイよ! 助けないと火あぶりにされちゃう!」



 ウチは半泣きになりながら、お爺ちゃんに協力を求める。ワンちゃんもどうしたらいいかあたふたしているし、エルるんの弟はまだ気を失ったままだ。最悪、ウチとお爺ちゃんだけで助けに行かないといけない!



「気持ちはわかるが、少しは落ち着くんじゃ……うん? ちょっと待て。」



 その時、お爺ちゃんは何かに気付いた。広場の近くにある建物の屋根の上を見ている。ウチもつられて見てみると人が立っているのが確認できた。もしかしてあれは……婚約者の人? 魔術の杖を構えて集中をしている。



「まずいのう! 一旦、この場を離れるんじゃ!」



 お爺ちゃんは急にウチらに逃げるよう促した。この人が言ってるんなら間違いない。何か大変なことが起きるんだろう。原因を考えるよりも前に動き出した。



(ズドォォォォォォォォン!!!!!!!)



 逃げてる最中、背中に爆風と熱を感じた。怪我はしてないと思うけど、さっきの場所に留まっていたらただでは済まなかったと思う。ある程度離れたところで、後ろを振り返る。



「……ウソでしょ!?」


「はうわわわわわ!?」



 ウチとワンちゃんは目の前の光景に唖然とした。広場の人々の大半は消え失せていた。それどころか広場の石畳も大きく抉れていた。エルるんは……無事だった。ギリギリの所で爆発の範囲からは免れている。



「エレオノーラに危害を加えるものは、私が断じて許さない。例えそれが誰であっても!」



 婚約者の人は屋根から転移魔法でエルるんの元へと下りてきた。今の爆発はこの人の仕業だろう。当たらないように手加減したんだろうけど、いくら何でもやり方がヒドい。幻影とはいえ一般人を巻き込んでいる。あの人、綺麗な顔をしているけど、恐ろしいことをする。こんなのを見せつけられたら、信用は出来ない。あんな冷血漢にウチの大事な友達を渡しちゃいけない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る