第11話 処刑部隊
「あのようなクルセイダーズの汚れ物、無慈悲な処刑部隊を用いるとは、私は賛同できかねます。」
クルセイダーズにそんなヤツらがいるのか? 今まで聞いたことがない。そもそも、そこまで非道な部隊があの組織に存在しているとは思わなかった。
「貴方がわたくしの指示に従えばいいのですよ。彼らの手を煩わせずとも“忌み子”を処分すれば良いのです。……そもそも彼らは以前、この女を始末し損ねました。わたくしとて彼らに絶対の信頼を置いているわけではありませんわよ。」
エルを殺害しようとした連中の正体が、例の処刑隊ということか。いずれ相対することになってしまうんだろうか? できることなら避けたいが……。
「貴方に猶予を与えましょう。期限は本日より三日間。それまでにこの女を処断なさい。その間、この女はこの場で拘束しておきます。処断する決意が出来たら、わたくしの元へおいでなさい。もし、期限を過ぎれば……わかっていますね?」
「さすが、お母様。名案ですわ!」
「ムウウッ!?」
今まで平静を保っていたラヴァンも苦悩の表情を浮かべている。自分でエルを殺すか、他人に自分ごと殺されるかという、地獄のような二択を迫られているんだ。誰だってそうなるだろう。
「ラヴァンさん、私を殺して下さい! そうすれば少なくともあなたは助かります!」
「いけない! 貴女自身がそのようなことを言ってはダメだ!」
悲痛な声でエルは自分を殺せと訴えかける。会ったばかりの人でさえ助けようとするとは、彼女らしい。俺が口出しできれば何とか言ってやれるのに、声が出てこない。
「あなたに発言権があるとお思い?」
扇子をエルに向けると、ミヤコの時のように姿がかき消えた。再び為す術なく、囚われる結果となってしまった。命を取られたというわけじゃないだろうが、人質に取られたようなものだ。
「では貴方方も別の場所で頭を十分冷やしてらっしゃい!」
オバサンは俺たちにも扇子を向けた。すると急に体が軽くなり宙に浮いたような錯覚を感じた。そして、一瞬のうちに目の前の景色が変わる。一瞬にして屋敷の風景が殺風景な場所に切り替わった。
「お、おうわああ! ヘンなところにワープさせられたでヤンスぅ!」
俺とラヴァン、タニシは一緒の場所に転移させられたようだ。俺らもまとめて捕らえられたようなもんだ。……これは大変なことになってきたぞ!
「も、もがっ!?」
声を出そうとしてなんとか踏ん張ってみたが、これくらいのうめき声が限界のようだ。くやしい。俺は完全に発言権を奪われてしまった。
「君はナドラ様にギアスをかけられてしまったのだ。これは一種の呪いだ。彼女が解除しない限りは自らしゃべることは出来ない。」
「も!? もがぁぁぁ!?」
「とはいえ、声その物は出せないはず。ありえない! 君は一体何者なんだ?」
「アニキは勇者でヤンスよ!」
「ああ……そういえばそうだったな。」
そうだったな、ってオイ! 俺が勇者な事を忘れやがるとは! ……とはいえ、この町に来てからは何かおかしい。俺が勇者と認識されていないような気がする。その条件は一つ。ある程度の実力や魔法に耐性があることで額冠の効果が及ばなくなる、ってものがあったはず。この町の人々はある程度、強いということだろう。魔術師の町なのかもしれない。エルの実家があるぐらいだし。
「そういえば、ゲイリーがいないでヤンスね? 別のとこに飛ばされたでヤンスかね?」
「おかしい。そんなことはありえない。一度の転移の魔術発動で二カ所に送ること等、理論上ありえない。例え実力のあるナドラ様でもだ。あの大男は転移の対照から外れていたのでは? いや、それもおかしい。近くにいれば巻き込まれたはず……?」
ラヴァンはブツブツ言いながら考え込んでしまった。現にタマネギ野郎はいない。転送されなかった? 空気の読めなさがこんなところにまで影響するなんて。ヤツは色々不可解なところが多すぎる。何者なんだろうか?
「ああ~っ!? あんなのはどうでもいいヤンス! エルしゃんとミャーコちゃんを助ける事の方が大事でヤンスぅ!」
「確かに。君の言うことに一理ある。合わせて脱出方法も考えなくては。」
途方もなく殺風景でまわりには建物の残骸がある。しかも、なにか薄暗くどんよりしている。不気味な場所だ。早く脱出しないと、エルの命が危ない。何か手はないのか?
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