第2話 タマネギはNGでヤンスよ!
「ん~? 何か違和感を感じる。」
サウス・ダウンの町を出る少し前から感じていた。何か妙な気配がずっとしていた。視線を感じるというか。
「どうしたの?」
エルが心配そうに尋ねてきた。視線? まあ……エルからの視線は前よりも感じるようにはなったが、それ以外の誰かからだ。でも、悪意は感じない。狙われてるとかそういうのではなさそうなので今まで放置していた。
「クンクン! あっしもずっとヘンな匂いがしていて気になってたでヤンス。タマネギっぽい匂いがするヤンス!」
そういえばタマネギの匂いが漂っているような? 今は目的地途中の宿場町にいる。宿屋ばっかりじゃなくて、飲食店、酒場等も多く、宿が兼業しているケースもある。こんな場所だから、おいしそうな料理の匂いも漂ってきているのだ。……あれ? 話が脱線してきた。まあいいや。
「ヘンなって何だよ。おいしそうな匂いだろ?」
「違うでヤンス! あっしらコボルトにとってはタマネギは天敵! 猛毒でヤンス! 食べたら死ぬヤンス!」
「そうなのか。知らんかった。」
そういえば、犬にタマネギを食わすな、というのはよく聞く話だ。ということは、
「この辺りはタマネギが特産品なの。タマネギを使った料理も名物だから、食べに行きましょうよ。」
「そうだな。ちょうど腹も減ってたし、何か食べるか?」
目の前にタマネギ料理専門店がある。タマに行くならこんな店……。よし、キマリだ。この店にしよう!
「この店でヤンスかぁ! あっしには拷問みたいなモンでヤンス!」
「まあまあ。タマネギ嫌いな人のためのメニューもあるだろ。大丈夫だ。大丈夫だぁ!」
なんかヘンなテンションになってしまったが、とりあえず入ることにした。そして、タニシはしょんぼりしながら渋々ついてきた。
「ちょいと、邪魔すんでぇ!」
「あっしのとこの社長みたいでヤンス。」
ちょっとゲンコツのおっちゃんの真似をしてみた。おっちゃん、元気かなあ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありゃりゃ?タマネギメニューばっかりだな。」
席についてメニューを見てみたら……見渡す限りタマネギメニューばっかりだった。新タマネギサラダ、オニオングラタンスープ、タマネギステーキ、タマネギ丸焼き、生たま丸かじり。全部タマネギやないかい!
「おうあ! あっしが食べれるモノがないヤンス! 確実にあっしを殺す気満々でヤンスぅ!」
「タマネギじゃなくて、オニオンなら大丈夫なんじゃないの?」
「んなわけないヤンスぅ! 呼び方が違うだけヤンス! どっちもタマネギでヤンス!」
ダメかぁ。タニシが食べられる物はなさそうだ。残念だが仕方ない。
「ねえ、ワンちゃん。これとかどう?」
ミヤコがなにか見つけたようだ。メニュー表の一番最後になにか書いてある。なになに……タマネギ一切不使用……おお! これなら大丈夫じゃないか!
「タニシ、これ!」
タニシもメニュー表を確認する。しかし、なんかガッカリしている。何よ?
「タマネギ不使用……これは同伴ペット用(犬)メニューでヤンス! ワンちゃんもご一緒にいかが?って、あっしはペットではないでヤンスぅ!」
「でも、ワンちゃん用って書いてあるよ?」
「違うでヤンス! それはミャーコちゃんがあっしを呼ぶときの名前でヤンス! 意味が違うでヤンス!」
タニシはテーブルに突っ伏して嘘泣きを始めた。でもなあ、俺はここのメニューがどうしても食べたい。俺の勘が告げている。ここのは絶対にうまいと。
「もういいでヤンス! あっしは別の何かを探しに行くでヤンス! わひーん!」
タニシはスタコラと店を出て行こうとする。まあ、しょうがない。昼過ぎだが急いでないので、ここではゆっくりするつもりだ。別行動を取ることにしよう。
「夕方までには戻ってこいよ! この店が集合場所な!」
店を出る直前で、タニシは片手を上げた。一応伝わったようだ。
「ちょっと二人ともいじめすぎなんじゃない?」
エルが俺達を咎める。まあ、ちょっとそう見えるかもしれない。でも、店を出がかりのところで俺の言葉には反応していたので問題ないと思うが。
「別にいいじゃん! こういうやりとり久し振りなんだし! それにサヨちんがいたらもっと面白いことになってたと思うよ。加えてワンちゃんはドMだから大丈夫♪」
サヨちゃんが俺ら勇者パーティーを去って以降、ツッコミ・イジりのポジションはミヤコが引き継いでいる。強気なところは似ているので違和感はない。しかも、以外と面倒見がいいので、ダラダラしがちな俺やタニシはよくケツを叩かれる。サヨちゃんはちゃんとミヤコを後継者にして出ていったようだ。色々、教えていたようだし。
「ああ、そういえば、まだ頼んでなかった! すんません、オーダー頼みます!」
しみじみとサヨちゃんのことを思い出しつつ、心置きなくタマネギ料理を楽しむことにした。
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