第22話
ハルハーンがスフェールに滞在している間に宿泊している宿の部屋に戻ると、側近である男が殺気を纏いながら彼を睨み付けた。
「おいおい、主人が帰ってきたというのに無愛想だなぁお前は」
ハルハーンは軽い口調で話しかけた。彼の態度がより神経を逆撫でしたのだろう、側近は顔を真っ赤にして強い口調で話す。
「陛下、何度もお伝えしていますでしょう! 私に黙って出ていかないでください、と。御身に何かあったらどうするんですか!」
「カリカリするなよ、スィフィル」
スィフィルと呼ばれた側近の男はため息をつく。美丈夫のハルハーンと並んでも負けないくらいスィフィルも端正な顔立ちをしているのだが、心労のせいかやつれていた。
「そりゃ怒りたくもなりますよ! 突然姿を消したと思えば数日帰ってこないんですから! こちらがどれだけハルハーン様を探したか……」
「お前もいい加減に俺の性格を理解しろ。何年護衛をやってんだ」
スィフィルはハルハーンの幼馴染みでもあり、護衛兼側近である。小さい頃から振り回されているが、ハルハーンはサビア王でありいい加減に立場を弁えて欲しいというのがスィフィルの本音であった。
「それよりスフェールの狸爺はどう動くと思う?」
「……スフェールの性格上、争いは必ず避けようとするはずです。我が国を敵に回さず、上手くやり過ごす方法を考えているでしょう」
「だろうな。まぁ、こちらの思惑通り事が進んでくれそうだ。それとな、スフェールとシュトルヴァ領の国境付近で面白い奴が居た」
スィフィルは怪訝そうにハルハーンを見た。彼の視線を受け、ハルハーンは面白そうに眉を上げる。
「フォルトゥス族の男でな。引き抜きたかったんだが、断られてしまった」
「陛下は何故、彼らフォルトゥス族に執着を?」
「俺は強い奴が好きなんだ。フォルトゥス族は大陸最強の戦闘民族と呼ばれる程、戦いに特化してるから好きだ。強さで言えばシュトルツ族も負けてないな」
ハルハーンは椅子に座ると、窓から見える夜景に目を移した。高級宿の最高級宿泊部屋からは夜でも庭が見えるよう明かりが灯されている。
「スフェールの末娘にも会ってみたかったが……あの狸爺、俺が末娘を欲しがっていると勘づいたのだろうな。シュトルツ族へ嫁がせてしまった」
彼は残念そうに大きく息を吐いた。
「陛下はフォルトゥス族やシュトルツ族のような少数民族を傘下に入れるおつもりですか?」
スィフィルの言葉にハルハーンは口角を上げる。
「サビアは少数民族を嫌う傾向がある。国王の俺が表立って奴らを使えば、突っついてくる輩がいるだろうよ」
「確かにそうですが……」
「俺直轄の非公式の軍を作る」
スィフィルはなるほどと頷く。非公式であれば、公式で戦闘民族を傘下にするより指摘を受けにくいだろう。
「強い奴等を集めた俺の軍隊……。最強の軍を率いて俺は大陸全土の王になる」
ハルハーンは呟く。好戦的に笑いながら鋭い視線をシュトルヴァ領のある方角へ向けていた。
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