第七話

 ゴンゾウは、時折り街を襲いにくる魔物達への対処に、抜かりなく活躍していた。


「そこだー!」

「後ろにもいるぞー!」

「きゃー抱いてー!!」


 一時は一部のファンから違和感を持たれた仮面騎士だったが、今では中身が“別人”だとは誰も疑うことなどない。


 そして戦いを重ねるごとに、レイから授かった鎧の頑丈さにも驚かされていた。

 これまで幾度となく魔物から避けきれない攻撃を受けてきたが、未だ傷一つすら付いていない。素材が何から作られているのかは不明であるが、安心して闘えるのは確かだ。


「さすが仮面騎士!」

「今日もカッコよかったよー!」

「ありがとう!」


 声を出すことも、正体を明かすことも出来ない守護神。


 それでも皆から必要とされる存在でいられるのは、ゴンゾウにとって何よりも変え難い幸福だった。

 その反面、やはり仮面騎士の存在で気が緩んでいる護衛兵達に対して、上手く喝を入れられないのが難点。


 “寡黙な仮面騎士”と“剣士の素性を隠す配達員”。


 二つの顔を持つゴンゾウは、どう護衛兵に介入すればいいのか頭を悩ます日々が続いていた。が、そのうち“結局は俺が魔物を全部倒せば問題ない”と意気込むようになっていった――。


 一方、この世界での人類対魔物の戦争事情は、現在どうなっているのか。


 これが悪いことに――形勢において人類は魔王軍から押され始め、戦況は大陸支配率において4対6という劣勢を強いられている。


 『国連軍』という国同士が連合して各国から凄腕の兵士や冒険者達を募って闘ってきてはいるが、魔王軍を統べる凶悪な魔王『ジェノム』が生み出す魔物は年々強力になっていくばかり。


 国連軍の総司令官であるベネディクト総督も、今の状況に焦りを隠せないでいた。


「このままでは魔王軍に押し切られて、人類はあえなく滅亡してしまう。何か打つ手はないものか」


「……そうですね。やはり女神が召喚する『転生者』に頼るべきなのでしょうか」


 補佐官がばつの悪そうな表情で、悩むベネディクトに投げ掛ける。


 女神。


 各国に一人いる、異世界から死者の魂を呼び寄せて“転生”させる能力を持つ異能者のこと。

 彼女達は類稀な能力で転生者を召喚し、その者に力を与えて魔王討伐の任務を課す役目がある。


 転生者は赤子で産まれることが多く、他にも“現地人の意識を乗っ取るような形”で生まれ変わることもあるが、どちらも前世の記憶を持つ。

 転生者の中には元から強力な特殊能力を有する者も稀におり、魔王軍との戦闘においては重宝される――はずだった。


「いや……最初こそ転生者には期待していたが、所詮は中身が異世界の人間だ。この世界に来ても好き勝手なことばかりしてて、アテにならん――」


 渋い表情のベネディクトが落胆で肩をすくめるのも無理はない。


 転生者達も元は殺生とはなんら無縁の世界から来た魂であり、いざ出陣したところでいきなり魔物相手に剣を振るうなんてのは至極難儀なこと。

 やはり、魔物を目の前に何やかんや言い訳して逃げてしまう者が大多数で、挙げ句には農園や孤児院を営み始めたりする者までいる。


「うわぁ~い、ビシソワーズ!」

「あはははは、スローライフ万歳~! ――」


 もちろん戦時中であるが故にそれが全くの無駄ではないにしろ、全人類の命運を背負うベネディクトからすれば期待ハズレもいいところ。

 今は各国の女神達も転生者の素行には呆れており、せっかくの転生能力も燻っているようだ。


「どこかに……『英雄になりたい』と意気込む熱血な者はいないものか」


 すると突然、補佐官が「あ!」と何かを思い出したように声を上げた。


「そういえばどこかの国で、腕の立つ“仮面を被った黒い騎士”がいるという噂を耳にしたことがありますよ!」


「仮面の騎士? ほう……なかなか興味深いな――」


 そう呟いたベネディクトは、遠い目をして窓の外を眺めていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る