第二話

「お前は……」


 しかし仮面騎士はゴンゾウに構わず、背中に腕を回してあの蒼い剣を抜刀してきた。すかさず「な、何!?」と臨戦対戦に入ったゴンゾウへ襲いかかってくる。


 躊躇なく振り下ろされた一太刀をいなしたゴンゾウが、咄嗟にバック転をして距離を置いた。


「チッ、守護神とか讃えられてる割にはとんだ曲者じゃねぇか……!」


 再び仮面騎士が構え直したのを見て、ゴンゾウが身の潔白を訴えてみる。


「おい、俺は敵なんかじゃないぞ! 何かと間違えてないか!? ――」


 だが――その後も仮面騎士から猛攻を受け続けるゴンゾウは、ひたすら防御に徹することになる。

 日中に観戦したあの剣術が次々と繰り出され、剣の腕に自信のあるゴンゾウですら中々反撃に転じることが出来ないでいたのだ。


 く、何て剣圧だ……防ぐだけで精一杯じゃないか……!


 “一度手合わせしてみたい”とは密かに願っていたものの、まさかこんな形でやり合うとは予想外な展開。


 しばらく防戦一方だったゴンゾウも、仮面騎士が見せた一瞬の隙を突いて攻撃する。


「いい加減にしろッ!!」


 だが、ゴンゾウの振り抜いた横一閃の薙ぎ払いは、瞬時に反応した仮面騎士が背後に仰け反ることで回避されてしまう。その柔軟性はまさに山猫の様にしなやか。

 さらに仮面騎士は後方に反った態勢のまま、ゴンゾウが持つ剣の柄を右脚で蹴り上げた。


「しま……!」


 “カラン……”と落ちた剣を背に、ゴンゾウが悔しそうに顔を歪める。


 畜生、まさかこんなところで俺はやられちまうのか……!


 半ば命を諦めかけた、その時――唐突に一変して、仮面騎士は蒼い剣を緩やかに納刀した。困惑気味に警戒するゴンゾウに向けて仮面騎士が囁く。


「お前に一つ、頼みたいことがある」


 芯に響くような低い地声から発せられた言葉に、ゴンゾウが眉を顰めると。


「……た、頼み!?」


「私の家まで来てくれ。そこで話をしたい――」


 散々な目に遭いながらも仮面騎士の後を素直について行ったゴンゾウは、暗闇に包まれた森の中にポツンと建つログハウスへと辿り着いた――。


 綺麗に整頓された部屋に案内され、仮面騎士からおもむろに茶を淹れられたゴンゾウだったが。


「実はこの街を一時的に離れなければならない。その間、私の代わりに仮面騎士を演じてくれないか?」


「ゴフッ……な、何!?」


 突然の思いもよらぬ要求に、木製コップを持ったゴンゾウが口に含んでいた茶を吹きこぼす。


 なんと、仮面騎士はゴンゾウの腕を見込んで“明日から街を守って欲しい”と頼んできたのだ。しかも、いつ戻れるかの予測はつかないという。


 ん~、無茶振り過ぎてまいったな……。


 と、しばらく腕を組んで考えていたゴンゾウだったが、いうて仮面騎士の代役は満更でもなかったため、真剣な面持ちで「分かった!」と了承した。


「感謝する。むしろ、腕を試す様な真似をしてすまなかった」


「細かいこと気にすんな。それで装備はどうすればいい? 今君が着てるやつを使えばいいのか?」


「予備があるからそれを使ってくれ。このログハウスもゴンゾウの好きにして構わない」


 仮面騎士が部屋の奥から取り出してきた装備一式を受け取ると、余りのカッコよさに胸がワクワクする気持ちになった。


 その後、仮面騎士は最後に「私の名は『レイ』だ。後は頼んだぞ……ゴンゾウ」と言い残し、まだ深夜にも関わらずログハウスを後腐れなく去って行った。


 結局、仮面騎士の素顔も分からぬままである――。

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