第81話
side:秋津ひより
時計に目をやるとアポまでまだ時間がある。事務課にでも顔を出してから外回りに行こうかしら。
今頃有くんは部長に呼び出されていることだろう。私の仕掛けたいたずらで慌ててくれたらいいんだけど。
半期決算の営業成績トップだった特権で部長にご褒美をねだったら、企画なり休暇なりなんでも、とのことだったので、早速権利を使っちゃった。
泊まりじゃないと行けない家具展覧会の視察出張に、事務ではなく企画部門の人間として有くんをねじ込んだのだ。
彼は表舞台に立ちたがらないけど、引っ張れば嫌な顔をしつつもしっかり仕事をしてくれる。
丁度去年コンペの時に相澤課長達が面白がって引きずり出したみたいに。
これで多分来年度は私と仕事することになる…はず。この前は加古君に取られちゃったし。
……とまぁ色々言い訳はしてみたけれど、結局のところ一緒に旅行したいだけなのよね〜。気持ちを言葉にすることのなんと恥ずかしいことか。
営業先に持っていく資料を準備していると、タブレットにポコンと通知が来る。
入社してもうすぐ6年目になろうとしてるのに、未だにアイコンが初期設定のままなのは彼くらいじゃないだろうか。
ちなみに私は実家(になる予定)のねこ様にしている。
『お前またやりやがったな…』
『どうしたの、有くん。何のことだかわかんないにゃ〜』
一応とぼけておく、きっと部長が漏らしてるだろうけど。
『後で覚えてろよ、いつから仕組んでたんだよ』
心底面倒そうな顔をしながらも、いつも私のわがままに付き合ってくれる。それは学生の時から変わらない。
そんなところも私は……っとそろそろ行かないとだ。
『それじゃ、私は今日取引先行って直帰だから〜』
『くそ、都合良く外回り入れやがって…文句を言う機会すら与えられないのか俺は』
ふふん、私の先読み力に勝てるわけないじゃない、何年見てると思ってるの。
それでも飴と鞭は使いよう、だから私は。
『たぶんあんたより先に帰れるからご飯作って待ってるわ』
『俺どっかの誰かさんのせいで残業確定してるから遅くなるぞ?』
『それでも待ってる』
それだけ返信して荷物を鞄に入れる。
まだまだ寒い外の空気は上気した頬を冷ましてくれる。
スマホの画面に映ったにやけ顔を何とか元に戻して、私は地下鉄の階段を降りた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
今年もどうぞよろしくお願いします……!
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