第012話 予定

 教室でマギーとだべっていると、如月さん達の会話が聞こえてきた。


「美遊、ゴールデンウィークはどうするの?」

「私? 私は特に予定はないかな」

「それじゃあ、どっか遊びに行かない?」

「うん、いいよ」

「莉那と紗季は?」

「私もいいよ」

「私は家の都合で出かけなければならないので申し訳ないのですが……」


 どうやらゴールデンウィークの予定の相談らしい。


 ぐぬぬ、如月さんと遊ぶとか、くっそ羨ましい。


「紗季んち、マジ名家だもんねぇ。仕方ないか。それじゃあ、三人で出かけよっか」

「そうだね、夏物の服も欲しかったし、買い物いこ」

「いいね、インスタで人気のお店にも行こうよ」

「私ここに行ってみたい」


 如月さんがウキウキしながら吉川さんたちにスマホの画面を見せる。


 楽しそうに女友達と話す如月さん、尊い……。


 仲良し四人組の彼女たちだが、川村さんが行けないので、如月さんは、吉川さんと田代さんと一緒にお出かけするらしい。




 帰り道。僕と如月さんは今日も一緒に帰っていた。


「眞白君ゴールデンウィークの予定は?」

「僕は母の実家に帰省します」


 普段超多忙でかなり忙しくて休みが取れない母が、今年のゴールデンウィークは珍しく長期休暇が取れた。


 婆ちゃんに長いこと顔を見せに行っていないので、今年のゴールデンウィークは婆ちゃんの家に行くことになっていた。


「そうなんだ。それじゃあ、ゴールデンウィーク中は会えないね?」


 会えないね……会えないね……会えないね……。


 僕の頭の中で如月さんの言葉が繰り返される。


 え、え、えぇえええええ!? ど、ど、どういうこと!?


 ま、ま、まさか、如月さんが僕と会えなくて寂しいってことなのか?


 い、いやいや、待て待て。勘違いするな。


 如月さんはただ純然たる事実を言ったに過ぎない。彼女には別に寂しいとかそういう感情は何もない。


 僕は思考が変な方向に進んでいくのを押さえて頭を振る。


「そ、そうですね」

「ちょっと寂しいな」


 寂しいな……寂しいな……寂しいな……。


 悲し気に呟く如月さんの言葉が再び僕の頭の中に木霊した。


 やっぱり、如月さんは僕に会えないことが寂しいのか?


 いやいや、そんなわけがない。


 如月さんはクラスメイト皆と仲が良い。だから、僕だけでなく、皆と会えないことが寂しいということに違いない。


 そうだ。きっとそうだ。そうに違いない。


 ふぅ……危うく勘違いしそうになった。


 如月さん、恐ろしい子。


「あ、そうだ!! お互いに写真を撮って送り合おうよ」

「へ?」


 僕は全く想像もしない提案に目が点になる。


「眞白君のおばあちゃんち、気になるしさ」

「僕は構いませんが……」


 婆ちゃんと爺ちゃんの家は物凄い田舎だ。


 周りにはあるのは山か田んぼか森みたいな場所ばかり。正直そんなに面白い物だとは思わないけど、如月さんが見たいと言うのであれば、写真を送らせてもらう。


「私は真奈美と莉那と一緒に買い物に行って、その後、真奈美のウチでパジャマパーティする予定なんだぁ。写真……見たくない?」


 僕の顔を覗き込んでニヤリと口端を吊り上げる如月さんが小悪魔に見えた。


 如月さんのパジャマ姿……そ、そんなの見たいに決まっている。


 でも、見たいと言った日には僕の人生は終わる。如月さんにキモい目で見られたら生きていけない。


 しかし、見たくないというのも失礼だ。


「……」


 僕はどう答えればいいのか分からなくて沈黙してしまう。


「えぇええ? 美味しそうな料理とか映えスポットの写真とか見たくないの?」


 まさか沈黙されるとは思っていなかったのか、如月さんが困惑気味に尋ねた。


 な、なんだ、そういうことだったのか……。


 僕の勘違いだったらしい。


「み、見たいです……」

「それじゃあ、さっきはどうして答えてくれなかったの?」

「そ、それは……」


 如月さんのパジャマ姿を想像してました、なんて言えない。


「眞白君の……エッチ」


 僕の耳元でポツリと囁く如月さん。


 エッチ……エッチ……エッチ……。


 うわぁああああっ!! 如月さんに僕がパジャマ姿を思い浮かべてたのバレてるぅうううっ!!


 顔が物凄く熱くなった。


「うふふっ、冗談だよ。それじゃあ、写真待ってるからね!!」


 僕が狼狽えている内に如月さんの家の前に着いていて、彼女はカラカラと笑いながら家の中に姿を消した。


「はぁ……どんな顔をして如月さんに会えばいいんだ……」


 僕は悶々とした気持ちを抱えながら歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る