#信州移住したら関西人の嫁になりました

小絲 さなこ

#1.「血ぃ死んでる」と「青じんできてる」

「お尻『青じんできてる』かもしれへん……」



 ある晩、床に座ろうとしてローテーブルにお尻をぶつけた旦那が発した、何気ない一言。



 それが、とある調査の始まりになるとは、当人も思いもしなかったであろう。




「『青じん』って何?」

 

 あおじん?

 聞いたことのない言葉だと思った私は、旦那にそう問いかけた。


「いやいや、『青じん』じゃなくて『青じんできてる』! 青いのが、じわじわ出来てきてる感じのことやん!」

「青じん?」

「だーかーらー『青じん』じゃなくて……え、もしかして……」


 

──もしかして:関西弁(Google風に)


 

 旦那の発する言葉で、私が頭を傾げる反応をするときは、大抵関西ローカルなのだ。

 

 旦那は大阪府北部の出身で、私は東京の山手線沿線の北側の出身。

 それぞれ個別に信州に移住して出会い、結婚した私たちには、たまに、いや、よく、時々……あることです。


  

「ぶつけたあと、青くなるやん。あれ何て言うの?」

「『青あざ』ですね。青タンも聞くけど、うちでは『青あざ』か単に『痣』って言ってますね」

 新宿生まれの母は、単に『痣』と言っている。

 


 

青染あおじんでてる」


 漢字に当てはめると、こういうことらしい。

「『青じん』出来てる」ではなく『青い染みが出来てきてる』ということなのだろう。



  

「関西だと『青タン』って言ってそうなイメージなんですけど」

「あー『青タン』も言うわ」

 

 なんとなく、青あざを青い染みと表現するのは、京都の雅な香りがするので、京都弁に近い?

 さっそくスマホで「青あざ 方言」で検索する私たち。


 確かに旦那の「あおじんできてる」は京都近郊でみられる表現の模様……


 そして、私は見つけてしまったのです。


 

「『血死んでる』っていう地域があるんですけど……」

「こわい〜」

 震える旦那。


「いや、でも方言って、こういうちょっと怖い表現あるんですよ。例えば『はんごろし』とか」

「なにそれこわい……」


 子供の頃、群馬県片品村出身の父が「田舎では、つぶあんとこしあんの中間のあんこのことを『はんごろし』と言っていた」と母に言ったことがあるのです。

 母は「なんて恐ろしい」とびっくりしていました。



 この『はんごろし』ですが、一部地域では『米をはんごろしにしたもの』つまり『ぼたもち』『おはぎ』のことです。

 それに対して『みなごろし』は餅のことを指します。

 そして、その『はんごろし』は『おはぎ』のこと、という『一部地域』に長野県の一部も含まれている……らしい。



 そんなわけで『はんごろし』と受ける印象はどっこいどっこいな『血死んでる』という方言。


 とても気になるではないか!

 


 

「中部地方って書いてあるけど、広範囲過ぎない?」


 こうなったら県名入れて検索してやる。


「……長野、『血ぃ死んでる』って書いてあるページ見つけた!」

「ここか!」

「こっこー!」

「『血ぃ死んでる』……移住してから一番の衝撃……」




 でも、ちょっとお待ちよ。 

 日本地図をご覧ください。

 長野県がどれだけ広いか!

 しかも県内には高い山々があるため、山ひとつ超えた先は別の国と言ってもいい。県の北と南では文化が違う。

 

※長野県の方々は、県全体を指すとき「長野」とはあまり言いません。県全体のことを言う時には「信州」「長野県」と言う。県北部以外はとくにその傾向が強いです。

(県庁所在地である長野市は県の北部にあります)

 

  

「長野だけじゃなぁ……」

「静岡も『血死んでる』みたいですね」

「じゃあ南信なんしんの方かな」

(南信=長野県の南部)



 この時、私たちはそう思っていたのですが……



 

 

「あぁ、言いますよ。血ぃ死んでるって」

 

 翌日。

 旦那が職場の長野市民の方に訊いてみたところ、そう言われたそうです。

 

 県外出身者たちが驚いていると「えっ? 血ぃ死んでるって言わない?」と逆に驚かれたとのこと。


 旦那の聞き取り調査によると、若い人は使わなくなっているものの、一定の年齢層以上の長野市民は使っている。使わない世代も言われたら意味くらいは分かる、という感じだそう。

「血ぃ死んでる」の他に「ぶんどいろになる」とも言うそうです。

 

 

 まさかの長野市ここ!!

 ここ、「血死んでる」地域だった!


 

 すっかり面白くなってきた私たちは、さらに調査を続けました。

 

「和歌山は『にえる』やって」

「『にえる』……へええ……」

「新潟とか石川は『死んでる』……!」

「『血』はつかないんだ……?」

「そんなら『あたたたたたたた! お前はもう、死んでいる』は……」

 死因、痣……?(そんなわけない)



 旦那が信州移住者仲間に訊いてみたところ、同じ長野県内でも中信ちゅうしん安曇野あづみのでは「くろね」と言うそう。


  

 県内の「血死んでる」地域はどの辺りなのか若干気になるものの、これ以上調査すると研究レベルに行ってしまいかねないので、今回の調査はとりあえずお開き!



【まとめ】


 声に出して読んでみよう!

 

「あおじんできてる」

「血ぃ死んでる」


 どちらも「青あざ」!

 

 日本語は面白い。奥深い。

 やっぱり長野県って広い!



 

「青あざ 方言」

 興味のある方はレッツ検索!

  

 


†*†*†*†*†*†*†*†*†*†*†*†*†*†


 

 そんなわけで、東京生まれ東京育ちの私と関西人の旦那の、愉快な日常を綴っていこうと思います。

 

 信州暮らしでびっくりしたこと、感心したり、興味深いなーと思ったアレコレ、関東と関西の文化の違いなどを「同じ日本なのにそんなに違うなんて、日本って広いね!」と日々楽しんでいる夫婦の、日々の記録です。

 

 異文化交流的な話だけではなく、普通の日常の話もあるかもしれませんが、愚痴的なものはありません。

 

 読む方も深く考えず、気楽にお付き合いいただけると幸いです。




 タイトルについて。

 

 配偶者のことを、外でどう呼ぶかについては色々とご意見があるかと思いますが、私は「旦那」という言葉を「匿名性の高いあだ名」という認識で使っております。


 あくまでも「あだ名」ですので、オフィシャルな場面やフォーマルなシチュエーションでは「夫」を使っていますので、その辺りはご安心ください。


 そして、旦那の対になる言葉となると「妻」よりも「嫁」の方がしっくりくる気がします。

 あくまでも個人的なイメージというか、私個人の印象なのですが。


 そんなわけで「#信州移住したら関西人の嫁になりました」というタイトルにしています。


 

 

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