ツイントーーク!② お互いの好きな人……?

「——ただいまー」


 光莉が家に帰ると、玄関先にエプロン姿の千影がパタパタとやってきた。


「ちょっとひーちゃん! またゲーセンに行ってたんでしょ⁉︎」


 お玉を片手に仁王立ちした千影が光莉を睨みつける。


「ちょっと気分転換に」

「気分転換って……あれ? ひーちゃん?」

「……なにかな?」

「どうしたの? 元気ないみたいだけど、大丈夫……?」


 千影は心配そうに話しかけるが、今の光莉は笑って誤魔化す元気がない。落ち込んでいるというよりぼーっとした感覚だった。帰ってくるまで、ずっと駅の構内での咲人とのやりとりを思い出していた。


 光莉にとっても初めての感覚で、千影に心配されるまで元気がない様子に見えるのだとわからなかった。


「よくわからないけど、うん……まあ、大丈夫かな……」

「本当に?」

「うん……それよりもちーちゃん、今までごめんね」


 急に謝られ、千影は余計に心配になった。冗談には見受けられない。本当に反省している様子だ。空気が重たくなりそうなのを感じて、千影は慌てて笑顔をつくった。


「え? なにが? 思い当たる節がありすぎてどれかわからないんだけど……」

「なははは……いろいろ。特に、ゲーセンに行っていたことは反省したよ」

「そっか、反省してくれたんだ」

「うん……今日、変な噂が学校で広まってるって聞いて、ほんと反省した」

「変な噂……?」


 二人はリビングに移動し、ソファーに座ってじっくりと話をした。

 光莉からひと通り話を訊いた千影は、そっと微笑を浮かべた。


「——そっか……ひーちゃんがゲーセンに行ってたことが、私の噂として広まってたんだね?」

「うん、ごめん……」

「ううん、けっきょく私の噂じゃないってことだし、気にしてないよ? そもそも、噂話とかそういうのは気にしてないし」


 これほどまで落ち込んでいるのを見るのは久しぶりで、千影は気を使いながら話す。


「そう? じゃあ明日からもゲーセン行っていいかな?」

「……なんだって?」

「ごめんなさい、深く反省しております……」


 光莉は千影の睨みに萎縮する。怒らせたら本気で怖いということを知っているからだ。


「それで、その噂はどこで仕入れたの?」

「それがね、最近仲の良い男子がいるんだー」

「え? そうなの?」

「うん。まだ二回くらいしか会ったことないけど、その人が教えてくれたんだー」


 そう言いながら、光莉の頬は紅潮している。おそらく、その仲の良い男子というのは光莉にとっての大事な人なのだろう。


 自分の恋にはなかなか積極的になれない千影だが、こういう恋バナ的なのは嫌いではない。特に、今まで男子に目もくれなかった光莉がたぶん惚れている相手だ。妹の千影としてはかなり気になる。誰がこの姉をオトしたというのだろうか。


「ねえ、その人ってどんな人なの?」

「うーん……心の痛みを知っている人かな?」

「え?」

「一緒にいると安心できる人」


  心の痛みを知っているから、共感もできるし、安心もできる。だから一緒にいたいし、もっと触れ合いたい。頭で理解し合う関係ではなくて、心で触れ合いたいのだと光莉は思う。


「ちーちゃんのほうはどうなのかな?」

「へ……? 私っ⁉」


 カウンターパンチをくらって、千影はすっかり真っ赤になった。


「塾で知り合った人だったよね? その人のことを追って進路変更したんだから、そろそろなにか進展があっても良さそうな気がするなぁ」

「し、進展なら、あった……あったかも……」

「え⁉ どんなどんな⁉」

「えぇーっと……抱きしめられた?」


 ——アクシデントだが。


「あとはあとは⁉」

「えぇーっと……守ってもらったし、放っておけなかったと言われた?」


 ——ネクタイで首を絞めかけた相手だが。


「さっきからなんで疑問形なのかな?」

「ううっ……事実と真実は異なるからぁ……察して〜……」

「あ、うん……なんか察した。なはははー……」


 なかなか思うようにいっていないらしい。それに、なにか大失敗をやらかしたのだろうと光莉は認識した。


「うちも頑張らないとなぁ……」

「ひーちゃんは可愛いから大丈夫だよ……」

「ちーちゃんのほうが可愛いから大丈夫だって! ほれほれ〜!」


 と、光莉は千影にじゃれついた。


「や、やめてよぉーっ!」


 千影はくすぐったくて逃れようとするが、いつの間にか笑顔になっていた。姉は高校生になってもスキンシップが多めで困るが、千影は嫌いではない。

 すると、急に光莉が手を止めた。


「あ、そっか……!」

「……? どうしたの?」

「うちが今いいなぁって思ってる人、たぶんモテる……」

「それが、なにか……?」

「素敵な人なんだよ! きっとうちみたいに他にも好きになっちゃう子がいるはず⁉ だからもっともっと仲良くならないとっ!」


 慌てふためく光莉を見て、千影は呆れて笑う。


「それは大事だと思うけど、仲良くするためにどうするの?」

「スキンシップ当社比五倍!」

「やめなさい……。ドン引かれちゃうから……」

「そうなのかな? うーん……」


 真面目に悩むのがアホらしいと感じる千影だが、光莉の言い分も一理ある。

 以前咲人に対して、触れていいのはカップルになったらという制限を設けてしまった。あの駆け引きは失敗だったかもしれない。身持ちの固い女はモテない可能性がある。


「ちーちゃんも好きな人は早めにゲットしないと、誰かに取られちゃうんだからね!」

「わ、わかった! 私も当社比二倍くらいでいってみる……!」


 ——と、けっきょくお互いが同じ人を想っていることをまだ知らない双子だった。


(第5話に続く!)


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次回更新は ……10月27日(金)!


学校で……なんと宇佐見千影から2人きりの呼び出しが!?

ドキドキしながら向かうと……これまでずっと距離を取られてきた彼女が、

学校でもドギマギながらも、積極的になっていて……!!

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