第52話 騎士団からの依頼
騎士団専属の治癒魔法師として、俺が候補にあげられている。
ヴィクターの情報に、俺は驚きつつも少しホッとしていた。
かつて俺が勤めていたレイナード聖院――現在、ノエイル王立騎士団が専属契約を結んでいるのだが、院長の交代によって不穏な動きが目立ち始めているのを感じ取っていたようだ。
それに伴い、騎士団ではこれまでの契約を破棄しようとする流れが広まっているそうなのだが、どうも一筋縄ではいきそうにない事情があった。
「騎士団幹部の中では、聖院と裏でつながっている者がいるようです」
「っ! そ、それは確かな情報なのか?」
「詳細は現在調査中ですが、少なくともグラシム分団長は確信を持っているようです」
グラシムさんが……まだ知り合って間もないが、会話をしてみた印象として「とにかく真面目」というのがまず思い浮かぶ。そんな人が疑うくらいだから、騎士団内部にいたらそれとなく分かってしまうものなのかな。
「先ほど、幹部が契約の打ち切りを検討していると言いましたが、それはあくまでも一部の意見で、半数近くは慎重または反対派なのです」
「……先代院長からの長い付き合いもあって、騎士団の内情には詳しいからなぁ」
世話になった先代へ義理立てをしている面もあるのだろうが、正直、その判断は危うい。今のドレンツ院長は、先代が築き上げた信頼を一瞬で粉々にしかねない動きが見られる。元職員だからこそ、あまりオススメはできないな。
「グラシム分団長をはじめ、一部の騎士はあなたとの専属契約を望んでいます――が、スペイディア家の件についても承知しておりますので、こちらの依頼に応じていただくという形で契約をしようと――って、すいません。話過ぎました……」
途中で言いすぎたことに気づいたヴィクターは慌てて口を手でふさぐ。
だが、残念ながら話のほとんどはバッチリ耳に入っていた。
とりあえず、ここは聞かなかったってことにしておくか。今後の動きの参考にさせてもらうとしよう。
「他に何か用件は?」
「あっ! そうでした! 実は今回はそちらが本命でして……」
危うく本命の話題をスルーするところだったな。
まあ、思い出してくれてよかったよ。
「実は、ある方からの依頼である花を探しに行くことになったのですが……あなたにも同行していただきたいと思いまして」
「同行?」
鼻を探しに行くというのに魔草薬師の俺が必要というのも変な話だ。大体、騎士団が花探しって時点で普通じゃない。
……何やら、普通じゃない気配を感じるぞ?
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