2-7 作戦、其の6
11月24日 月曜日
午前10時、私は佐野さんの面会に来ていた。
親御さんはいないようだった。
「おはようございます、佐野さん!」
私は氷上茉莉啞として接する事に徹した。
「お、おはよう。今日も来てくれたんだね」
「もちろんですよ、佐野さんの事、心配だから」
「ねえ、俺たちってどれくらいの仲だったの?」
私はここで直接、探る事にした。
「もう佐野さん、彼女いるかどうか覚えていないの?」
「ごめんね。覚えてないんだ」
「仕方ないですよ。私たち付き合う手前っていうか、もうそういう関係だったのよ」
私は、バレた時のことを考え、濁すように返答をする。
「そうだったんだ。何だか初対面の人にそう言われるのは変な感じがする。初対面ではないのだろうけど。思い出せないから」
「仕方ないですよ。こればっかりは」
私は憎くて今でも殺してやりたいが、もっといい方法を考えていたが、しばらく退院するまでは献身的な彼女を演じる事に徹しようと思った。
今までのことを嘘を交え教えて納得させた。何分、覚えていないのだからこいつは信じざるを得なかった。
私の話を信じ、好意を持ってくれているのであればその状況を貫くしかない。
私の話を一通り聞いた佐野さんは、記憶喪失で不安に
これで私の計画は成功したと言えるのかは、甚だ疑問だが。
なるべく会いに来ると言って仕事もあるためこの日は2時間ほどで切り上げた。
ー午前11時、都内某所、幸振信仰会の教団支部ー
俺、勝己昴は信者として教団のセミナーに参加していた。
眼鏡をかけ、髪も染めて潜入していた。
本心ではヒヤヒヤしていたが顔はもはや別人であったためここまでは潜入できていた。
ここでは金の稼ぎ方と称して怪しいグッズの販売方法などを説明していた。
そこでエナジードリンクの試飲を勧められたが、勝己は得意ではないとごまかし飲まずにやり過ごしていた。と言うのも奥井雅道から麻薬成分が含んでいると聞いていたからだ。
わかりやすい手口だ。ここで麻薬成分を含んだドリンクを飲ませ、あたかも神の啓示だとか効果がありますと本当に信じ込ませる手口をこの教団は行なっているのだ。勝己は眼鏡に仕込んだ小型カメラで一部始終を撮影していた。
帰り際にドリンクが配られていたが、先ほど断った手前、貰いにくいがこっそり一本くすんで持ち帰る事に成功する。
午前12時、カフェ“テリア“へと来店し、店長こと奥井雅道に先ほど入手したドリンクを手渡した。
雅道はそれを受け取ると知人に分析してもらうといい預かった。
「やはり、幻覚や高揚感を薬で演出して信じ込ませる典型的な手口を使っていましたよ。茉莉花ちゃんもこの手口で引っかかってしまったのだね」
「ああ、だと思う。よくある手口だが堂々とよくやるな。勝己、セミナーに行くくらいならそこまでの危険はないと思うが気をつけろ」
「承知いたしました。それを解析をお願いします」
「ああ、数日はかかると思う。コーヒー飲んでいけ。奢るから」
「助かります。金欠なもので」
「まあお前、稼ぎないからな」
「そんな事無いですよ。こうして動けるおかげで少しは依頼ありますよ。少しは」
勝己はテリアでコーヒーを飲んで帰る事にした。
茉莉花ちゃんがコーヒーを入れて持って来てくれる。
「お待たせいたしました。ブレンドになります」
「ありがとう、茉莉花ちゃんドリンクの入手に成功したよ。あのショップで購入もできるようになった」
「そ、そうですか。何かわかるといいですね」
茉莉花ちゃんは心なしか、少し震えているように見えた。反射的にドリンクのことを聞いたり思い出したりすると、まだ飲みたい衝動に駆られるのだろう。
「茉莉花ちゃん、まだ苦しいとは思うけど乗り切ってくれ。俺にはこれくらいしかできない。君と変わってあげることはできない。すまない」
「大丈夫です、まだ衝動に駆られますが何とか我慢できてます。また依存するのは嫌ですので」
「応援しているよ」
仕事に戻る茉莉花ちゃんの後ろ姿を見て、俺はあの教団へ憎しみを抱いていた。
茉莉花ちゃんは無数にいる被害者の1人に過ぎない。
大勢の人がああやってハマっていきお布施と称して金銭を巻き上げられたり、結果として薬物付のような状況に陥っているんだ。
教団のやり方に戦慄を覚えた。どうしたら壊滅させられるのか考える毎日だ。
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