1-18 葛藤
7月19日 土曜日
今日も12時から20時までアルバイトだ。私はいつも通り7時前後に起きて朝食を食べながらニュースを見ていた。あれから勝己さんの件は全く取り上げられていない。芸能人のスキャンダルなどばかりだ。
ネットで調べてみても、そんなに興味のひく記事はない。そういえば勝己さんは今どこで何をしているのだろう。心配だが安全な場所にいると言っていた、おそらく自宅とかではなく誰か匿っているのだろうと思うが、それだとその人の身も危なくなってしまう。恐怖を感じてしまう。
私は不安を消し去りたくドリンクを飲む。もう中毒症状のように定期的に飲んでいないと落ち着かなくなっていた。
ー午後3時ー
テリアで店番をしていると店長さんに呼び出された。
絵里さんが変わってくれると言うので、事務所へと向かう。
「店長、何かありましたか?」
「ああ、ちょっと座ってくれ」
「は、はい」
「2点、君に伝えたいことがある」
私は覚悟しながら聞くことにする。
「まず、勝己のことなんだが、実は……」
歯切れが悪い感じで店長さんは切り出す。
「俺が匿っている」
え、大丈夫なんだろうか。衝撃的な発言だ。
「安心して欲しい。彼は無実だ。今はその証拠を集めてはいるが、警察内部にも教団員が潜伏していると考えられる。その為、今は策を練っている」
店長さんは少し俯き気味にそう言った。
「もう一つは、君が言っていたエアローショップだったか、あれについても少しわかったことがある」
店長さんがじっとこっちをみてきた。ちょっと威圧感がある。
「あのショップは教団の資金集めのために作られた典型的なマルチ商法の手口の店だ。あそこで扱っている商品もいくつかネットで仕入れたが怪しいな、非常に」
そこまでしてくれていることに驚きを隠せない。優しいというか怖さすら感じる。一体この人は何もなのだろうか。
「エナジードリンクやサプリがあるだろう。あれには麻薬成分が含まれており、成分的に合法なものもあるがそれが含まれている」
そこまで分かるのか、ていうか麻薬って言った?私が飲んでいて効き目があったのはそう言うことだったのか。急に冷や汗が出てきた、どうしよう。
「どうした、大丈夫か?」
「は、はい」
私は悟られないように精一杯、店長の話に耳を傾け耐えた。
「まあネットでの商品については合法だが実際の店舗はどうだろうな。もしかしたら本当に麻薬などのドラッグを流通させている可能性もある」
そんなにヤバい組織だったなんて、迂闊に関わったことを後悔している。
「茉莉花ちゃん、君はなぜここの商品に手を出したんだ」
私は佐野さんにお勧めされた経緯などを説明した。店長の中で納得がいったみたいだった。
「なるほどね、その先輩の手口はマルチの勧誘のお手本といったところだな」
「そ、そうなんですか」
「今からでも遅くない、もう飲んでしまったものは遅いが、今からでも服用しなければ離脱症状がキツイかもしれないがまだ引き返せる」
「わ、わかりました」
ここまでしてくれた店長さんの為にも辞めようと思った。
店長さんから話を聞いてそのまま休憩に入った。
一つ一つ、自分の中で整理しようと試みるが衝撃的なことが多すぎて気持ちが追いつかない。
賄いもいつもならすぐに平らげてしまうのに、今日はあまり食が進まない。
午後8時、お店の閉店作業して今日も花さんに送ってもらった。店長さんは夕方に1人で帰ってしまった。
「今日も頑張ったわね。ちょっと色々あって大変よね」
「う、大丈夫です」
「何かあったら私たちを頼っていいのよ」
「あ、ありがとうございます」
花さんはお母さんみたいな安心感がある。母よりも優しい。
家の前まで送ってもらった。
家へ着くとドリンクを無意識に飲んでいた。どうしよう。やめなきゃいけないのに。あのショップに行くと佐野さんにバレてしまう。そう感じた私は店長さんがいっていたことを思い出した。私も前に見たがネットでも売っている。
私は少し割高になるがネットショップで2本、購入してみた。
やめなきゃいけないと頭ではわかっている。お金もかかるし体にも負担になっている。もし麻薬の成分が入っているなら捕まる可能性だってある。こんなことで親に迷惑をかけたくない。でも心の衝動が抑えられない。非力な私には我慢ということが出来ない状況だった。
7月21日 月曜日
19時ごろ、荷物が届いた。ネットで買ったあのドリンクだ。店舗の商品と違うのか気になり飲んでみた。
味は正直にいって同じフレーバーなため一緒に感じる。少し物足りなさを感じる。普通のコンビニなどで売っているエナジードリンクと大差ない感じがする。
手元に残しておいた店舗の商品を飲んでみる。しばらく経つと高揚感が出てくる。何もかもどうでも良くなるように不安感を消し去ってくれる。
私はもしかしてと思った。本当に麻薬なの??
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