ミーソス

スルメイカ

第1話 「目覚め」

乾いた風が吹く暑い日、ある男が朧げに天井を眺めていた。


「やっと目覚めたのね」


一人の女が部屋に入ってきた。


「…ここはどこだ?」


「D州α地区、昔で言うサウス・カロライナ州チャールストンね。」


男はズキズキと痛む頭を撫でながら、遠い昔に学校の授業で習ったものを想起していた。


「なんで私はこんなところにいるんだ?」


女は不思議そうに男の顔を見ながら言った。


「それはこっちのセリフ。なんでヘリなんかに乗ってたの?」


思いもよらない事を聞かれた男は、頭痛ではたらかない頭を必死に動かして思い出そうとしたが、一向に思い出せないままだった。


「あなたは墜落していたヘリに乗っていたの。生き残りはあなただけ」


「…助けてくれてありがとう」


「別に礼なんていらないわ」


そう言いながらもどこか嬉しそうにしていた。


「自分やこの世界について覚えている事はない?」


「私はクリス。苗字は思い出せない。その他のことも」


「まぁ別にいいわ。今日はゆっくりと休んで。明日説明してあげる、この世界のことを」


そう言い終わると、どこか悲しそうな表情をしながら、その女性は部屋を出て行った。クリスは色々と気になりながらも、激しい頭痛には抗えず、大人しく眠りにつくことに決めた。


クリスは夢の中で様々な記憶が交錯していた。どこか分からない学校の様な施設の風景、幼き頃の両親との記憶、赤く燃える夜の空…。詳細は分からない記憶たちが駆け巡る最中で、クリスは目を覚ました。


昨日の彼女が部屋の扉の前に立っており、何か考え事をしているようだったが、クリスが起きた事に気づいて近寄ってきた。


「やっと起きたわね。そこの机に水を置いたから飲んで」


クリスは少し不自然に思いながらも、喉の渇きには抗えずに水を飲み干した。


「起きたばかりで悪いけど、質問させてもらうわね」


「質問?昨日も言ったが何も覚えていないんだ」


「『覚えていない』んじゃなくて『覚えていない"フリ"』をしているんじゃないの?」


そう言いながら彼女は腰の後ろに手を伸ばし、銃を取り出してクリスに突きつけた。


「本当に覚えていないんだ!嘘じゃない!」


クリスは必死にそう訴えた。


「しらばっくれるんじゃないわよ。最初から私が"レジスタンス"だってこと知ってて嘘ついたんでしょ。殺されないために」


「本当だ!自分の名前がクリスであること以外思い出せないんだ!信じてくれ!」


クリスはもの凄い剣幕で女にそう叫んだ。ようやく信じる気になったのか、女は銃をしまった。


「まぁいいわ。そう言えばあなた知りたがってたわよね?自分の身分を」


そう言うと女はポケットから手帳らしきものを取り出してクリスに投げた。


「"新"連邦政府陸軍大尉 クリス・スティルバン」


その手帳にはそう記されていた。


「今は西暦何年か分かる?」


「さぁ、2023年とかか?」


「今は西暦2074年。ちょうど今から30年前ね、"最後の審判"は」


「最後の審判?」


「私たちはそう呼んでる。2044年7月19日、その日に突如ロシアはアメリカにミサイル攻撃を始めた。最初の一発はロサンゼルスの都市に着弾し、犠牲者は少なくとも100万人だったと言われている」


クリスはその話を聞いた瞬間、忘却していた悪しき記憶が呼び起こされた。


「核戦争は瞬く間に全世界に波及し、第三次世界大戦が勃発。この大戦で失われた人命は計り知れないわ。そしてその10年後、地球は侵略を受けた」


「侵略?何にだ?」


「エイリアンよ。"残存"連邦政府の奴らはそれをインベーダー、侵略者と呼んだ。そして人類はインベーダーと核の後遺症に苦しみながら、何とか文明を育んでいるの」


「なんでエイリアンが地球に侵略しにくるんだ?」


「そんなのこっちが知りたいわ」


少し苛立ちを露わにしながら彼女はそう言った。少しの沈黙が続き、ふと思い出した事があるかの様にクリスの方を向いた。


「そうだ、あなたここ一週間ずっと寝たきりだったから、流石にそろそろ外に出ないとね」


そう言って彼女は部屋の扉をノックすると、二人組の男が部屋に入ってきた。一人の男がクリスに向かって低く響くような声で命令した。


「両腕を前に出せ」


クリスは渋々腕を前に差し出した。男は結束バンドでクリスを拘束し、もう一人の男と一緒にクリスを部屋の外に出した。


廊下は窓から差し込んだ光に燦々と照らされていた。


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