俺は前世で、俺の恋人である幼馴染を同学年生に寝取られて、心も体も壊れてしまう。でもその後、幼馴染と同学年生の心も体も壊れていった。今世でも幼馴染はいる。しかし、俺だけを愛する素敵な女性と結婚したい。

のんびりとゆっくり

第1話 俺は幼馴染を寝取られようとしている

 俺は夏井陸定(なついりくさだ)。高校二年生。


 俺には、幼馴染にして恋人の春里蒼乃(はるさとあおの)ちゃんがいる。


 ゴールデンウィークも間近に迫ったある日。


 同じクラスで、いつも登校は一緒。


 下校は、蒼乃ちゃんの部活がない日は一緒で、ある日は別々だった。


 しかし、昨日と今日は蒼乃ちゃんの部活がないのにも関わらず、一人で帰っている。


 彼女からは、


「用事があるので、今日は先に帰る」


 と言われたのだが、昨日もそう言われていた。


 今日も、蒼乃ちゃんと一緒に帰れる日のはずなのに、昨日に続いて一人で帰るので、少し寂しい気分になっている。


 俺は、蒼乃ちゃんと一緒に帰らない時は、少し遠回りになるが、公園を通って帰ることが多かった。


 公園の緑の美しさを一人で味わいながら歩くのが、意外と好きだったからだ。


 今日もその美しさを味わった。


 そして、俺の住んでいる家に帰ってくると、なんと玄関の前には……。


 蒼乃ちゃんと、俺たちと同学年生の池好冬一郎(いけよしふゆいちろう)がそこにはいた。


 蒼乃ちゃんが俺に用事があるといったのは、まさか、放課後池好と過ごす為?


 そんなはずはない。


 蒼乃ちゃんは俺の恋人。


 付き合いだしてからは、まだ一か月ほどだが、お互いラブラブだったはずだ。


 でも今日は俺と一緒には帰らず、池好と一緒にいる。


 これは浮気ではないだろうか?


 いや、これはたまたま一緒になっただけだ。


 そう思っていると、蒼乃ちゃんは、


「陸定ちゃん、わたし、あなたに話があってここで待っていたの」


 と言った。


「話って?」


 俺は急激に緊張してきた。


 蒼乃ちゃんとは幼い頃からの付き合いだが、彼女を前にして、今までは緊張をしたことはなかったといっていい。


 それだけ気安く話のできる間柄だったのだが。


 ここで俺にあらかじめ話をせずに、池好と二人で待っていたということは……。


 しかし、俺にはその先のことを想像する時間は与えられていなかった。


「単刀直入に言うわ。わたし、陸定ちゃんと別れて、冬一郎くんと付き合うことにしたの」


 蒼乃ちゃんは、いつもの明るくてやさしい言い方とは違い、冷たく言い放った。


 俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。


 俺と別れると言ったような。


 しかも、海好のことを名前で呼び、付き合うと言っている。


 いや、俺の聞き間違いかもしれない。


「ごめん。なんて言われたのかわからなかった。もう一度言ってほしい」


 俺がそう言うと、蒼乃ちゃんは、


「陸定ちゃん、急に耳が聞こえにくくなったの?」


 とあきれたように言う。


「そうかもしれない。もう一度言ってもらえるとありがたい」


 俺はわずかな望みを持っていた。


 先程、


「俺と別れたい」


 と言ったのは、俺の聞き違い、もしくは蒼乃ちゃんの冗談であるということを。


 しかし……。


「じゃあ、もう一度言うわ。わたしは、陸定ちゃんと別れる。これからは、冬一郎くんの恋人になる」


 先程より少し大きな声だ。


 ここまで言われたら、彼女が俺と別れて、池好の恋人になったという話は認識せざるをえないだろう。


 しかし、認識はするものの、信じることはまだできない。


「それは本気で言っているの?」


「もちろん本気よ。ねえ、冬一郎くん」


 蒼乃ちゃんが微笑みながら池好の方を向く。


 すると池好は、


「蒼乃さんはもう既に俺の恋人になっている。幼馴染だろうがなんだろうが、蒼乃さんはお前のことを振ったのだ」


 と勝ち誇ったように言う。


「お前が蒼乃ちゃんの恋人……」


「そうだ。俺はお前よりはるかに容姿が優れている。イケメンだ。この時点でお前の勝ち目はないと思っているが、それだけではもちろんない。おしゃれのセンスもお前と違って抜群だし、お前よりはるかに女の子に対して思いやりがあり、気づかいができる。そして、俺はバスケットボール部の主力で、帰宅部のお前と違い、大活躍をしている男だ。蒼乃さんのハートをがっちりつかむことができたのも当たり前だと思う。なあ、蒼乃さん」


 池好はそう言いながら、蒼乃ちゃんの方を向く。


 悔しいが、池好の言う通りだ。


 俺は勉強以外のあらゆる点で池好に負けている。


 総合的な魅力という点で劣っていることは、残念ながら認めざるをえない。


 でも俺には蒼乃ちゃんの幼馴染という優位点があったはず。


 その優位点をも池好の持っている魅力は乗り越えてしまったのだろうか?


 そんなはずはない。


 昨日まで蒼乃ちゃんは、俺のことを「好き」だと言ってくれていたし、「愛している」と言ってくれていたのだ。

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