『✕✕✕の✕』についての記録

椎葉伊作

『ミルナの怪』についての記録

【2023年7月4日】オカルト系Webライター奈落沢タスクが個人ブログにて公開した記事

 【洒落怖スレに投稿された怪談を考察してみるシリーズ第四弾!『ミルナの怪』】




 違法アップロード、ダメ、絶対。


 どうも、自他ともに認める底辺オカルトWebライターの奈落沢タスクです!うらめしや!

 いやあ、すっかり夏ですねえ。五月の記事でも似たようなこと書いた気がしますけど。本当に、日本の春と秋はどこへ行ったのやら

 と、くだらない前置きはここまでにして、今回の記事は、洒落怖スレに投稿された怪談を考察してみるシリーズです!第一弾の八尺様編から、実は各所でそこそこの評価を得ているとかいないとか!なこのシリーズ。今回で、もう第四弾になるんですねえ。

 前回は猿夢を見る方法を実践して大変な目に遭ってしまいましたが、今回も危険な香りがプンプン!その理由は……取り上げるのが、感染する系の怪異だからです。


 その名も、『ミルナの怪』。


 まずは、元の怪談をご覧ください。↓


 ——―――――――――――————————————————————————

 『ミルナの怪』


 お前ら、ミルナっていうヤツを知ってるか?

 もしかしたら、どっかの漫画だの、アニメだのに同じ名前のキャラがいるかもしれねえな。近頃はキラキラネームのガキばっかりだから、同じ名前の人間がいてもおかしくねえか。

 だが、俺が言ってるのは、フィクションのキャラのことじゃねえし、実在する人間のことでもねえ。

 YouTubeに違法アップロードされてる動画に映り込んでるヤツのことだ。




 お前ら、違法アップロードの動画っつったら、どんなのを思い浮かべる?

 見たことねえとは言わせねえよ。見たことあるだろ?正直に言え。アニメやら、ドラマやら、バラエティ番組やら、はたまた芸人のネタ動画やら……。

 ああ、見逃した。配信も期限終わってるわ。でも見てえなあ。あ、どうせYouTubeにどっかの誰かがアップしてるだろ。それ見ようっと。

 そんな風に、軽い気持ちで見てるだろ?確かめたことなんてねえが、100人中99人は見たことがあるはずだ。

 少し前に、どっかの芸人が漫才のネタにもしてたなあ。それと同じだ。大概、画面が半分に分かれてて、森やら海やらの風景が背景になってる。画角の周りに、有名なアニメキャラやら、見たことねえ二次元のイラストが配置されてるのもあるな。延々と謎のCMみてえな映像が繰り返されてたり、動画の半分はわけの分かんねえ外国のミュージックビデオみてえなのが占めてたりもするか。

 なんでそんなに詳しいのかって?

 そりゃ、俺も見てたからさ。違法アップロードされた動画を。

 お笑いが好きだったからな。水曜日の〇ウンタウンやら、〇メトークやら、〇べらない話やら、〇ットタンやら、ネタ番組から切り抜かれた漫才だのコントだの……。

 罪悪感なんて無かったよ。

 違法だ。悪いことだ。そんなことは分かってた。

 だが、そんなの所詮、綺麗事だ。それに、アップした奴は無駄に正義感がある暇人に通報されて警察沙汰かもしれねえが、見ただけじゃあ、まず罪には問われねえ。不可抗力みたいなもんだろ。俺には関係ない。どっかの誰かが痛い目を見るだけさ。

 そういう風に思ってた。

 ミルナから覗き見られてることに気が付くまでは。




 ある日の夜、俺はいつものように酒を飲みながら、テレビのYouTubeで違法アップロードされたお笑い番組を見てた。

 その時は確か、番組の画面は三分の二くらいで、背景は森で、〇ラえもんやらなんやらのアニメキャラが画角の周りに配置されてた気がするが、別に気にも留めなかった。興味があるのは、あくまで番組だからな。そっちの方に集中して、ソファーに寝っ転がってストゼロを飲みながらゲラゲラ笑ってたんだが……。

 不意に、視線を感じたんだ。誰かから、ジロジロ見られてるって感じの。

 薄気味悪くなって、辺りを見渡したが、誰もいねえ。当然のことだ。俺は一人暮らしなんだから。真夜中だから、窓はカーテンを閉め切ってたし、俺が住んでるのはアパートの四階。外から覗くなんてとても無理な話だ。

 気のせいか……。

 俺はまた、番組の方に集中した。だが、どうにも居心地が悪い。他の誰かが、俺を見つめてる気がしてならねえ。

 酒の飲み過ぎか?流石にストゼロのロング缶三本はきつかったか?そう考えてた時、ふと、番組が映ってない、いわゆる余りの画面の方に目をやったら。


 黒い影みたいな女がいた。


 どういう姿なんだって言われても、説明のしようがねえ。他に、表現ができねえんだ。髪が長くて、女なことには間違いない。でも、異様に生白い首と、顔と、手以外は、全部ピントが合ってないみたいにぼやけてる真っ黒い影なんだ。

 それだけじゃない。その顔は、なんつーか……生きてる人間のものじゃなかった。

 一番しっくりくる表現は……そうだな。AIが描いた人間の顔って感じだ。ほら、最近そういうアプリが流行ってるだろ?あれに、リアルな人間を描かせた感じだよ。不気味の谷ってやつだ。限りなく人間っぽいが、確実に人間じゃないと分かる、薄気味の悪い見た目。

 そんな、二次元にも三次元にも属してないような奴が、余りの画面の中にいて、俺のことをギョロギョロ見てたんだ。画面の右端に手を掛けて、ぬうっと顔を出して、物陰から覗き見るみたいに。

 まるで、画面から出て来れない貞子みたいだった。

 こう書くと笑えるだろうが、俺はめちゃくちゃビビったよ。そいつ、よく見ると動いてたからな。痙攣してるみたいに、小刻みに首を揺らしてて、その度に長い黒髪がぬらぬらっとゆらめいてた。

 俺は、その女の姿を認めた瞬間、ほとんど条件反射みたいにテレビに向かってリモコンをかざしてた。動画を閉じる為に。

 なんでかは分からねえ。でも、あれは本能的な行動だったと思う。

 あ、ヤバい。

 これ以上見られたら、ヤバい。

 これ以上、あの女に見られたら、多分死ぬ。

 なんでか、そういう風に思ったんだ。

 で、リモコンの〝戻る〟ボタンを押し込んだ。瞬間、その女が、


「ミぃ、る、ナッ」


 気持ちの悪い声だったよ。出来の悪い電子音声みたいな、抑揚の無い、それでいて妙に生々しい声だった。

 声がしたと同時に、動画は閉じられた。だから、それは一瞬のことだった。

 でも、しばらく硬直してたよ。いくら一瞬のこととはいえ、めちゃくちゃ怖かったからな。

 ……何だったんだ、今のは?

 見間違いか?酒の飲み過ぎか?寝ぼけて夢でも見たのか?

 沈黙してるテレビを前に、あれこれ考えたが、答えは出なかった。酔ってはいたが、フラフラになるほどじゃなかったし、ウトウトもしてなかったからな。

 で、結局、俺はもう一度その動画を見ることにした。

 なんでかって、安心して寝る為さ。

 俺は、こう結論付けたんだ。

 元から、そういう動画だったのかもしれねえ、って。

 つまり、動画を違法アップロードした奴が、余りの画面の中に人を驚かせる仕掛けを仕込んだんじゃないかって考えたのさ。質の悪いイタズラで。古い言い方をすりゃ、精神的ブラクラをな。

 もしそうだったら、俺は安心して寝られる。俺が経験したのは、怪奇現象じゃなくて、どっかの誰かのくだらないドッキリになるわけだからな。

 それで、恐る恐る動画を再生してみたら……。


 〝この動画は再生できません〟


 の表示が出た。

 珍しいことじゃない。違法アップロードされた動画にはありがちなことだ。二、三日もしたら、権利元から訴えがあったかどうかして、取り消されることが多いからな。

 でも、そのタイミングの悪さに、俺は震えた。

 まるで、あいつからもう一度、


「見るな」


 って言われた気がしてな。

 結局、その日はモヤモヤと恐怖を掻き消す為に、ストゼロを飲み干して寝た。おかげで次の日は酷い二日酔いになったよ、ハハハ。




 ……これで終わりだったら、良かったんだけどなあ。

 それこそ、こういう場所に書き込むか、飲み会なんかで披露する小話で終わってたんだろうが……。

 それからも、俺はミルナに覗かれ続けたんだ。違法アップロードされた動画の中から。

 ふと気が付くと、余りの画面の中から、ミルナがこっちを見てる。物陰から覗くみたいに、ぬうっと顔を出して。

 画面の右端から覗かれることが多かったが、ある時は上から、ある時は下から、ある時は堂々と真ん中から現れた。痙攣してるみたいに首を揺らして、俺のことをギョロギョロ食い入るように見つめてくる。そして、俺がビビッて動画を消す瞬間に必ず、


「ミぃ、る、ナッ」


 そう言い残していく。

 テレビだけじゃない。スマホで見てる時も、パソコンで見てる時も、ミルナは現れた。決まって、違法アップロードされた動画を見てる時に。その度に、俺は悲鳴を上げた。

 始めて見た時と同じように、ブラクラだったんじゃねえかと思って、動画をもう一回見ようとしたこともあったよ。でも、なぜかミルナが現れた動画は再生できなくなって、すぐに消えるんだ。

 怖くなって、画面が余ってる動画は見ないようにした。でも、全画面の動画も油断できなかった。唐突に画面が小さくなって余りの画面が出てくるものもあったし、急に別の映像が流れ始めるものもあったからだ。そして、その度にミルナは現れて、俺のことを覗いてきた。ある時なんか、画面も余ってないし、別の映像も挟まれてないのに、サブリミナルみたいな感じで現れてくることもあった。ショート動画に急に現れたこともあったよ。終いには、勝手に自動再生される動画の中にも現れる始末だ。

 違法アップロードされた動画を見るな?

 もっともな意見だ。

 だが、そんなこと、できるか?

 YouTubeにアップされてる動画の大半は、違法アップロードされたものだ。権利元が訴えてないだけで、何年も前からどっかの誰かがアップしたまま消されずに残ってるものもごまんとある。

 それらを避けて、YouTubeで動画を見るなんてことが、できると思うか?

 できる、なんて断言する奴は、閲覧履歴を確認してみろよ。普段から中毒みたいに見てる動画の、何割が違法アップロードされてるものだった?

 無理だったろ?

 だから、諦めるしかないんだよ。

 今の俺みたいに。

 俺は、あれから、ずっとミルナに覗かれつづけた。

 頻度は段々と上がっていった。最初は、忘れたころに不意に現れることがおおかったのに、ほぼ毎日現れるようになって、やがて一日に何度もあらわれるようになって、目にも、耳にも、ミルナがこびりついて、だんだんと、動画を見てる時以外にも、現実でも、覗かれてるような見られてるような気がしてきて。

 物陰とか、暗やみとか、隙間とか、なんかの穴とか、まぶたの裏とか、

 ああ、ミルナっていうのは俺がつけたあだ名なんだけど、いっつも「見るな」って言ってくるし、女だから女みたいな名前がいいかとおもtってさ、あいちゃくをおぼえるかなって、もえキャラみたいにあつかったらいいかなっtって、ばかにしたらでてこなくなるんzっやないかっておもったけど、かんけいなっくてむしろ気にいらっれてむしろなまえつけったらまづかったみたいいで、

 おかしなはなしだよな見るなtっていうのに見て見てって漢字ででてくるんかだらさあははははっは、まじほんとかまってちゃんかよよよ、

 でもでもそれがあいつのみるなのねらいだとおもうからっごめんんなさいこれをしらsっせたらいいtっていうかああら、

 ミルナのねらいはみんなにみてもらうことあだkら、みんなのことっをもっとっもっと見たいらしいからこれっでこうやって、

 これでみるながsそんざいいをしゅううちさあれれてkみんなのもとにもみるながききてのぞかれてひろがttでんぱっしてでんぱでんぱでんおあみるみるみるみるるみるるるるるる、

 みうrなを、

 みろろ、みみいろみてごごめんんさいkっここうすrるしかうほうほうがなかああたからみないでごめんなみないでみるなをみろやめてもおおおうちがういこんなことしたくでもsyっようがなあいから、いいまもまぶったのうらああんいにいttっておれのこおとを、ゆるしちいいちいえ、あ、あm、、、。。。。。。。・・・




 見ろ




 ——―――――――――――————————————————————————

 引用元:FEARまとめ速報




 いやあ、怖いですねえ~!

 なんというか、こう、誰しもが共感できるであろう後ろめたさを突いてきつつ、同時に恐怖を与えてくる、この悍ましさ!

 奈落沢は特に、最後の「見ろ」の前の部分がリアルで気に入りましたねえ。

 みなさん、パソコンのキーボードを確認してみてください。


 m 、 。 ・


 この順番で、並んでるでしょう?

 つまり、この書き込み主はミルナという怪異に完全に取り憑かれる前に抵抗した末、力尽きて、キーボードの上でずるずると右手の指を滑らせた。その際に、


 あm、、、。。。。。。。・・・


 という意味不明な文言が生成されたということなんですねえ。こういう生々しさが垣間見えるデティールは大変怖くてよろしい。

 おっと!鋭い洞察力を見せつけるのも、怖がるのもこれくらいにして(笑)、本題の考察の方に入りましょう。この記事は、「調べてみました!」で始まり、「いかがでしたか?」で終わる中身の乏しいものではありませんのでね!




 奈落沢はこの『ミルナの怪』を読んだ際、とあるひとつの説が頭に思い浮かびました。

 話自体の真偽はともかくとして、その裏に透けて見えるもの。それは、違法アップロード、ダメ、絶対。という、ある種、注意喚起的なメッセージです。

 これを入り口として紐解いていくと……ひとつの仮説が成り立ちます。

 それは、この『ミルナの怪』を書き込んだのは、テレビ番組を制作している関係者なのではないか、というものです。

 書き込み主は、違法アップロードされた動画を見続けたことによって、ミルナという怪異に憑りつかれ、恐ろしい結末を迎えることになります。そして、その大半は、地上波で放送されているお笑い番組でした。

 考えてみてください。世の中のエンターテイメントやトレンドの傾向として、テレビよりもYouTubeの方が優勢になったこの現代。テレビ番組制作者は、より多くの視聴率を獲得しようと日々苦労していることでしょう。奇抜なアイデアを捻り出し、YouTubeではできないこと、テレビでしかできないことを見つけて、面白い番組を作ろうと努力しているはずです。

 ところが、そんな風に意気込んで制作した番組が、商売敵ともいえるYouTubeに無断で転載されていたら?

 それも、いくら権利元として訴えようと、あまりに数が多すぎて削除が追いつかないほど、溢れていたとしたら?

 公式として過去の番組の配信をしても、それすらコピーされて違法アップロードされていたら?

 腸が煮えくり返ることでしょう。許せない。違法と分かっていながらアップした奴も、違法と分かっていながら見た奴も――と。

 そして、中にはこういう風に思う者もいたかもしれません。

 そいつらを、酷い目に遭わせてやろう。違法アップロードした奴は、警察に頼めば捕まえられる。罰せられる。でも、見た奴はどうしようもない。罰せられない。どうすればいいだろうか。

 ああ、そうだ。


 ひとつ、都市伝説めいた話でも創作して、怖がらせてやろうじゃないか。


 分かりましたか?

 つまり、この『ミルナの怪』は、違法アップロードに嘆くテレビ番組制作者が創作した話なんですねえ。

 え?創作と決めつけるのか?そういったものを肯定すべき、オカルト系のライターなのに?

 そんな風に思われた方もいるかもしれません。でもね、奈落沢はこう考えているんですよ。

 好きだからこそ、真剣に向き合っているからこそ、いろんな角度から疑ってみて、穿ってみて、隠されている真実を、真の恐怖とは何かを追及するべきだ。

 アハハ、つい熱くなっちゃいました。反省反省。そんな真剣に受け取らないでください。奈落沢の信条も、考察も。

 それに、これはあくまで、奈落沢の仮説です。真実は誰にも分かりません。

 ただ……。

 奈落沢は、こう考えてもいます。

 仮に、この『ミルナの怪』が誰かの創作した話ではなく、現実に起きた話だったとするならば。

 読み解いてみるに、ミルナという怪異の目的は、より多くの人々を覗き見ること。即ち、自身の存在を多くの人間に周知させ、伝播していくことなのでしょう。

 ……奈落沢は当初、この洒落怖スレに投稿された怪談を考察してみるシリーズの第四弾として、『リョウメンスクナ』を取り上げるつもりでした。第一弾から有名どころを取り上げてきた流れに沿って、今回も有名どころで固めようと。

 ところが、記事を書く寸前に調べものをしていて、偶然にもこの『ミルナの怪』を発見し、これを第四弾にしようと思い立ったのです。

 なぜか……それは、自分でも分かりません。なぜ、あまりにもマイナーな話を取り上げようと思い立ったのか。それも、ごくごく最近、洒落怖スレに投稿されていて、そのスレでも、どこのまとめサイトでも、大した反応を得ていない、誰の語り草にもなっていなかった話を。

 ……それは、もしかしたら。


 奈落沢は、既に『ミルナの怪』に取り憑かれてしまっているからなのではないか?


 つまり、『ミルナの怪』は本当にあった話で、ミルナという怪異は実在していて、その存在をより多くの人間に周知させる為に、奈落沢を傀儡として操っているのではないか?

 奈落沢は今、この記事を、震える手で書いています。

 公開するべきか、ちょっと迷っています。

 でも、なぜか、キーボードを叩く手を止められません。

 だから、みなさん、お願いです。この記事を読んでも、どうか拡散しないでください。

 もし、存在が伝播してしまったら、ミルナはより多くの人を画面の向こうから覗き見ることになるでしょう。

 そして、心の隙に付け込み、最後には書き込み主のように―――。

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