【2023年9月28日】鈴木美咲のPCに『原点 約束 思い出』というファイル名で保存されていた音声ログ
「……ジジッ……
で、話って何なの?
うん、なんて言ったらいいのかな、その……。
もー、もったいぶって何?あっ、恋愛相談とか?
えっ、なんで分かったの?
ふふっ、分かるよ。親友だもん。
……うー。やっぱり美咲には隠し事なんかできないね。
で、で、相手は誰なの?
えっとね……戌亥先輩。
えっ?
美咲?どうしたの?
あ……いや、意外だなって思って。
そう?だって、かっこよくない?それに、雰囲気はちょっと軽い感じだけど、凄く優しいし。
うん、確かに。でも、すっごいモテてそうじゃない?彼女いないのかな?
それがね、いないらしいの。
誰情報?
えっとね、ほら、あの、凄く無口な……菊名さんだったっけ。
ああ、あの子ね。へー、あんな感じだけど、情報通なんだ。
それこそ意外だよね。見た目に寄らないというか。
で、どうするの?告白するの?
……うん。でも、どうしたらいいか……あれ?これ回ってる?
うん、さっきから回してるよ。
うそぉ!ちょっと、やだぁ!やめてよ!止めて!
ふふふっ、ダメダメ。
ちょっとぉ!私のなんだから返してっ、美咲っ!
あははは!ダーメッ、ちゃんと記録しておかなきゃ。それに結奈、いつも言ってるでしょ?なんでもない日常を記録するのが何よりエモいって。
それは……そうだけど……。
じゃあ記録しなきゃ。この、ふふっ、恋バナも。
……分かった。
で、どういう風に告白するの?
それが分かんないからこうして相談してるの。私が、その……そういうこととかしたことないの、知ってるでしょ?
それが一番意外だよね。結奈、めちゃくちゃ可愛いのに、彼氏いたことないとか。
もう、からかわないでよ。
からかってなんかないって。ていうか、普通に告白しちゃえばいいじゃん。結奈の告白を断る男なんて絶対いないよ。
でも……。
それか、いきなり告白するんじゃなくて、ちょっとずつアプローチかけてみたら?二人っきりの時とかにさ。
二人っきりの時とかそんなタイミングないじゃん。今こうして私と美咲だけで部室にいるのも奇跡的でしょ?いつも誰かしらいるし。さっきの菊名さんとか、あと、あのOBのオタクの人とか。
ああ、木嶋さんね。確かに、あの人よくいるよね。もう社会人なのに、何してるんだろ。働いてないのかな?
知らない。集まりにもしょっちゅう来るし、なんか変な本とかどっさり置いていくから、正直迷惑だよね。ほら、これも木嶋さんが置いていったの。
何これ?古っ。民俗学?なんか、呪いとか書いてあるよ。
ちょっと読んでみたけど、なんか気持ち悪かったぁ。
でも、あの人こそ結奈のこと好きだと思うけどねえ。
えーっ、何それ。そんなこと言ってたの?
言ってないけど、目線とか雰囲気でなんとなく分かんない?ちなみに木嶋さんはどうなの?
無理無理!あの人、色々と終わってるんだもん。LINEの語尾がだゾ~とか、なんか自分で必死にキャラ付けしようとしてる感じとかが無理。鬱陶しがられてるって気付いてなさそうだし。
あははは!ひどーい毒舌。
もー、美咲が言わせたんじゃない。
ふふふ。それより、どうやって戌亥先輩にアプローチかけよっか。あ、あの人ラーメンブログやってるから、いいお店知ってますとか言って誘ってみたら?
いきなり?変って思われないかな?
その辺は察するでしょ。あの人、ノリは軽いけど根っこは紳士って感じだからね。女の子の扱いはきっと心得てるって。
……傷付かないかな?
結奈、失恋するのが怖いの?
うん……。私ね、ちょっとしたことでくよくよしちゃうから……傷付くのが怖いから、これまで恋愛してこなかったの。
……大丈夫。あの戌亥先輩だよ?どう転がったって、傷付いたりしないよ、きっと。
でも、気まずくなってサークルにいられなくなったりしないかな?
そんなこと気にしなくていいって。それに、戌亥先輩ってそもそもあんまり部室とか集まりに来ないじゃん。幽霊部員気味だから、大丈夫。
でも、バイト先に来たりしたら……。
そんなこと気にしてたらキリがないでしょ。
でも――。
はい!でもでもだってはそこまで!ごちゃごちゃ考えたってしょうがないんだから。ほら、結奈の好きな何とかってバンドも命短し恋せよ乙女~って歌ってたでしょ?
……うん。
ね、だから……頑張って。応援するから。
じゃあ、美咲。もし失恋したら、一緒にやけ酒付き合ってよ?
もー、そんなこと考えないの。っていうか、これいつまで回すの?時間とか大丈夫?
大丈夫だけど……うわー、これ絶対に黒歴史確定じゃん。
あははは!おあいこでしょ?結奈だって、この前私が趣味で書いてた小説勝手に読んだじゃない。
あ、あれはパソコンが開きっぱなしになってたから……。
まあ、結奈なら別にいいけど。
……美咲、ありがとうね。こんな私と、親友でいてくれて。
ふふ、ちょっと、急に何?
いや、どうせ黒歴史になるなら、普段言えないような恥ずかしいことも言っておこうって思って……。
あははは!何それ。このログが流出したりして、王様の耳はロバの耳みたいなことになったらどうするの?
美咲が誰にも言わない限り、そんなことになるわけないじゃん。
……ふふふ。
あ!ちょっと!絶対に言わないでよ!内緒の話なんだからね!
ふふっ、分かってる、分かってるってば。
ほんとに?
約束する。絶対に誰にも言わないから。
ほんとの約束だよ!ノリとかじゃなくて、真剣な、親友としての約束だからね!
うん。絶対に、誰にも言わないから。
もし言ったら、えっと、その……ひ、酷い目に遭わせるから!
ふふっ、酷い目って、どんな?
えっと……えっと……ずっと一緒にいてもらう刑とか……。
あははっ!何それ!何にも酷くないじゃん!
だ、だって私、美咲みたいに色んな人と仲良くできないから、美咲以外に仲のいい友達とかいないから……ずっと一緒にいてくれれば、美咲は迷惑かもしれないけど、私は……。
あははははっ!もう、そういう真面目なのか天然なのか分かんないふわふわしてるところが可愛いんだから。
うーっ!からかわないでよっ!
からかってなんかないって――あっ!
いい加減に止めるよ!黒歴史はこれまで!
取り返されちゃった。じゃあ、以上、〝結奈、恋愛相談をするの巻〟でした~。
もー!これ何年経っても、聴いたら顔真っ赤になるよ!
その時は隣で一緒に聴いててあげるから、大丈夫。ふふっ、
ふふ、ふふふっ、
あははっ、
あははははははははっ……、
……ジジッ……ブツン…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます