【2023年9月16日】怪談作家兼オカルト系インフルエンサー輪廻Qの個人サイトに寄せられた一通のメール

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kijima-yusuke0829@☓☓☓☓☓jp <kijima-yusuke0829@☓☓☓☓☓jp>

2023/9/16 19:02

宛先:rinne9question@☓☓☓☓☓jp


 輪廻Q様へ

 TwitterのDMで返事を頂けなかったのでこちらにもメールさせて頂きました。

 私の勘違いならばスルーして頂いて構いませんが、もしあなたが柳下大学の文学部、ひいてはオカルトサークル『猫又倶楽部』に所属していた鈴木美咲さんならば、必ずこのメールを最後まで読んでください。お願いです。




 僕は、木嶋雄介です。覚えていますか。柳下大学のオカルトサークル『猫又倶楽部』に、たまに顔を出していたOBです。

 瓶底メガネでボサボサ頭でいつもホラー映画のTシャツを着ていた陰気な男って言えば分かるかな。それとも、LINEの返信の語尾が「~だゾ」の鬱陶しいサークルOBの方が分かり易いかな。

 別に思い出してくれなくても構わないけど、僕は鈴木さん、君のことを覚えてる。もちろん、君の親友だった結奈のことも。

 というより、忘れることなんかできない。

 あんなことが、あったから。




 結奈が死んだのは2019年3月27日。まだコロナウイルスが蔓延していない時期のことだった。

 その頃、僕は既に大学を卒業して一年ほど経っていたけど、たまにサークルOBとして飲み会だの、心霊スポット巡りだのの集まりに、未練がましく顔を出していた。

 理由は、就職した会社で人間関係が上手くいかず、社会的に孤独になってしまって寂しかったからというのが大きかった。

 でも、他にも理由はあった。

 僕は、結奈のことが好きだったんだ。

 それを本人に伝えたことなんてない。身の程は弁えていたから。僕みたいな冴えない奴が結奈に手を出していいわけがなかったから。

 結奈は、誰に対しても分け隔てのない人間だった。だから、僕みたいな、きっと、みんなから内心煙たがられていたであろう鬱陶しいサークルOBにも優しく接してくれた。

 本当に、良い子だった。

 だから、結奈が自殺した時は本当にショックだった。後を追って自殺しようかと思ったくらいだった。

 結局、死ぬこともできずに惨めな抜け殻みたいな精神状態で過ごしていたんだけど、結奈の死がショックで、それ以来、僕は大好きだったホラーやオカルトといった類のものから離れていた。映画からも、小説からも、漫画からも、心霊映像からも、ホラーと名の付くものからは、すべて。

 僕が結奈と辛うじて繋がりを持てていたのは、オカルトサークルに所属していた、、、つまり、ホラーが好きという共通の趣味があったからだった。

 だから、ホラーに触れる=結奈の死に触れる、というように感じられてしまって、ある種、トラウマみたいになっていた。だから、そういったものが視界に入るのさえ避けていた。

 それが、最近になってようやく癒えてきたのか、少しずつホラーにまた触れていこうかという気持ちになった。

 それで、まずはリハビリ気分で人気のあるものから触れようと思って、時代の最先端を行く人気ホラー作家である輪廻Qの小説を読むことにした。

 そしたら、、、




 見覚えのある話が載っていた。悪夢かと思ったけど、現実だった。

 『ユウナの呪』は、鈴木さん。君が、結奈の身に降りかかった出来事を基にして書いたんだよね?

 ある程度の脚色はしてある。何もかもが、現実の通りじゃない。でも、ほとんど現実通りと言っても過言じゃない。

 君も知っていたんだね。オガミノ病院、、、柳下病院の廃墟で、あいつが結奈にやったことを。

 僕は、それを偶然知ったんだ。たまたま、居酒屋で泥酔していたあいつに居合わせて、会話に耳を傾けていたら、友人だか知り合いだかに自慢気に話してた。柳下病院の廃墟に後輩を連れ込んで、無理に事に及んだことがあるって。

 その時は、頭が真っ白になった。

 当時、僕は何の因果か、ふとした会話の拍子に結奈から聞かされていたんだ。

「気になってた先輩からデートに誘われたんですけど、初デートの場所が心霊スポット、それも柳下病院の廃墟って酷くないですか?」って。

 結奈は、あいつのことが好きだったんだ。その時も、頭が真っ白になったのを覚えてる。よりにもよってあいつなのかよって思ったことも。

 あいつは異性の前では紳士的に振舞ってたけど、裏では本当にクズのような奴だったから。

 でも、僕は結奈に何も言えなかった。死ぬほど悔しかったけど、僕にそんな資格は無かったから。

 だから、結奈が死んだ時も、薄っすらとあいつに何か酷いことをされたんじゃないかと思ってた。でも、証拠なんか無かったし、そもそも僕が介入する余地なんて無かったから、どうすることもできなかった。




 君が、どうやって結奈の身に起こったことを知ったのかは、やっぱり『ユウナの呪』の通りなんだろう。結奈の家族や警察に真実を知らせなかったことも。

 それは、かなりの葛藤があってのことだと思う。

 だから、君が結奈の死を『ユウナの呪』という作品として世界に発信したのは、決して軽薄な理由によるものではないんだろう。『ユウナの呪』を読めば、それは十二分に伝わった。

 親友だったからこそ、「こうなれば良かったのに」というIFストーリーを描き出し、それを世間に広めることで、報いたかったんだろう。

 結奈をズタボロにした末に、死に追いやった、あいつに。『ユウナの呪』という形で。

 『ユウナの呪』の結末は、あいつが苦しみ抜いた末に無残に焼け死ぬというものだった。ある意味、『ユウナの呪』は、そうなることを願うという、その名の通りの、そして本物の、呪いだったわけだ。

 それが、君なりの復讐だったのかもしれない。

 もし、そうだとするならば、、、




 それは、成就してる。

 もう知ってるかもしれないけど、あいつは大学を出た後、ラーメン専門のグルメライターとしてやっていこうとして揉め事を起こして、お笑い系のライター崩れになった後、また揉め事を起こして、オカルト系のライター崩れに鞍替えした末に、野垂れ死んでたよ。

 なんで知ってるかっていうと、僕は結奈の死があいつのせいだと知って以降、ネット上であいつのことを探し出して、ずっと観測してたんだ。ネットストーカーみたいに。

 情けない話だけど、ネット上であいつの悪い噂を吹聴して、炎上させようとしてた。ライターとして、活動できなくしてやろうと思って。君とはまた違った、凄くみみっちい方法で、あいつに復讐を試みてたんだ。そんなことをしなくても、所詮は人間性が最低のクズ野郎だから、あいつはライターとして大成なんかしてなかったけど。

 そういえば、君も知ってるんじゃないかな。Twitterで反応してただろ。ちょっと前にバズってた『ミルナの怪』っていうオカルト系の記事に。

 あれを書いた〝奈落沢タスク〟っていうオカルト系ライターが、あいつ、、、戌亥だったんだよ。

 戌亥が『ユウナの呪』を読んでいたのかは知らないけど、もしかして君は奈落沢タスクが戌亥だと知った上で反応してたのかな?関わることで、接触を図って、さらなる復讐をしようとしてたのかな?

 まあ、そんなことはもういいんだ。戌亥は死んだから。

 この間、Twitterの投稿が急に途絶えたのを不審に思って、過去にツイートしてた部屋の内装が写り込んでる画像とかから、どうにか住んでたアパートを割り出して、確認しに行ったんだ。

 その時、そこの住人に聞いた。

 あいつは、アパートの部屋で変死したらしい。本当かどうかは知らないけど、テレビに頭を突っ込んで死んでたんだって。

 だから、ある意味、復讐は成就してる。




 でも、、、




 本当に重要なのは、ここからだ。

 最初の方に、僕は、ホラーに触れる=結奈の死に触れる、というように感じてトラウマになったから、ホラーと名の付くものを避けていたと言ったね。

 あれは、そうであって、そうでないんだ。




 、、、、、結奈を殺したのは、僕かもしれない。


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