【2019年5月14日】とある匿名掲示板のスレッドに投稿された死ぬ程洒落にならない怖い話

―——―――――――――――————————————————————————

0412 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:09:45.17 ID:p2c5T4Zb0


 みなさんは呪いというものが本当にあると思いますか?


 私は、あると信じています。というより、信じたいのです。

 私の親友だった、ユウナの為に。


 二か月ほど前、私の親友、ユウナが死にました。

 自殺でした。浴槽で、手首を切って、冷たい水の中で、血をたくさん流して死んでしまいました。

 遺書はありませんでした。

 だから、どうしてユウナが自ら命を絶ったのか、誰にも分かりませんでした。仲が良かった大学の友達も、バイト先の人間も、頻繁に連絡を取り合っていたという故郷の家族も、ユウナが自殺した理由が分かりませんでした。警察も分からなかったようで、ユウナの死は〝若者が思い悩んで突発的に命を絶ってしまったのだろう〟という普遍的なもので片付けられてしまいました。


 でも、私は真相を、ユウナが自殺した理由を知っています。


―——―――――――――――————————————————————————

0413 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:12:36.49 ID:p2c5T4Zb0


 私とユウナは、とある大学のサークルに所属していました。

 詳細は伏せますが、オカルト研究部といえば想像がつきやすいでしょうか。サークル名は違いましたが、活動は主にそういった方面のことをやっていました。


 とはいっても、私たちはあまり熱心にサークル活動を行ってはいませんでした。

 ただ部室に集まっては駄弁ったり、だらだらとホラー漫画を読み耽ったり、ホラー映画を観に行ったり、心霊スポットにドライブに行ったりするくらいで、オカルトを研究するだとか、理解を深めるだとか、考察するだとか、そういった崇高な目的を持ってはいませんでした。

 普通の人より、ちょっとだけホラーが好きな人の集まり。私たちのサークルは、そんな感じでした。部員は数人ほどしかいませんでしたが、楽しくやっていた方だと思います。

 先輩後輩などの人間関係も良い意味で緩く、誰と誰の組み合わせでもそれなりに楽しくやれて、痴情のもつれなども無い、仲が良くて馬が合うというだけの集まり。


 そう思っていました。

 あの音声ログを聴くまでは。


―——―――――――――――————————————————————————

0414 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:16:51.22 ID:p2c5T4Zb0


 親友であるユウナの死後、私はこれまでの人生に無かった未経験の悲しみに襲われて、ずっと塞ぎ込んでいました。ユウナのお葬式から帰って以降、アパートの部屋から一歩も出ることなく、毛布の中で緩やかに腐っていくような日々を過ごしていました。

 やっていたことといえば、スマホに保存していた写真を眺めてユウナとの思い出を反芻するか、たまにインスタント食品をモソモソと食べるくらいで、まともな生活というものを送っていませんでした。サークルの人たちや知り合いから〝大丈夫?〟という旨のLINEが届いていましたが、既読を付けるだけで、返信もせずに、ずっと引き籠っていました。


 そんな日が二週間ほど続いた頃のことでした。ユウナのお母さんが訪ねて来たのは。


 とにかく人に会いたくなかった為、ずっと無視していましたが、何度も鳴らされるインターホンに辟易して、身なりも整えずに渋々ドアを開けると、どこかで見た覚えのある女の人が立っていました。

「ユウナの母です」

 そう言われた瞬間、ユウナのお葬式に行った時のことを思い出しました。

 そうだ。この人は、ユウナが横たわっている棺桶の傍で、ずっと口元にハンカチを当てて泣いていた人だ。ユウナの父親だという男の人に、肩を抱かれていた人だ。

 誰だか分かった瞬間に、私は目に涙が滲みました。ユウナが度々、楽しそうに自分の家族の話をしていたのを思い出したからです。

「あの、〇〇さん……ですよね?」

 ユウナのお母さんは、私の名前を知っていました。お葬式では私もユウナのお母さんもまともに会話をできる状態ではなかった為、ほとんど初対面のような感じでした。後から分かったことですが、どうやらサークルの人たちに住所を聞いて、訪ねて来てくれたみたいでした。


「これを、届けに来ました」


 そう言って、ユウナのお母さんが取り出したのは、チャッキー人形のキーホルダーが取り付けられたボイスレコーダーでした。


―——―――――――――――————————————————————————

0415 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:19:48.31 ID:p2c5T4Zb0


 それは、ユウナが常に肌身離さず持ち歩いていた物でした。

 ユウナは、友人との何気ない日常会話を録音するという、ちょっと変わった趣味を持っていました。別に、特別なことがあったわけでもない、普段の生活の色々な場面で「日常を記録するよ」と言っては、ボイスレコーダーを回すのです。

 思い出として残すのなら、スマホで動画を回せばよくない?

 そう言うと、ユウナは、

「写真とか動画は、特別な時にしか撮らないでしょ?私は、こういう何気ない日常の一場面を記録しておきたいの。誰も記録しないような、みんながいずれ忘れちゃうような会話こそ、将来聴いた時にエモくなると思うの」

 と答えました。カメラが趣味だった私は、

「じゃあ、写真と動画で特別な思い出を記録するのは私の担当だね」

 と言って、二人で笑い合いました。

 今となっては、その思い出は、私の記憶の中にしか残されていません。


―——―――――――――――————————————————————————

0416 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:24:19.46 ID:p2c5T4Zb0


 話を戻します。

 ユウナのお母さんは、

「これが、あの子の部屋にありました。再生してみたら、あなたとの会話がたくさん録音されてました。どうしようか迷いましたが、これはあなたが持っていた方が良いと思って、渡しに来ました。どうか、受け取ってください」

 そう言って、ボイスレコーダーを差し出しました。思い出記録係としてお揃いの物を付けようと言って買った、チャッキー人形のキーホルダーが揺れていました。私のカメラポーチに付いているのと同じ、二人とも共通して好きだったホラー映画『チャイルド・プレイ』のシリーズに登場するチャッキー人形のキーホルダーが。

 私は、ユウナの遺品はユウナの家族が持っているべきだと思って断りましたが、ユウナのお母さんは頑なにボイスレコーダーを差し出してきました。「これは、ユウナとあなたの思い出だから、あなたに持っていてほしい」と言って。

 結局、魂の抜けきったようなお母さんの申し出を断り続けるのが心苦しくなって、私はユウナのボイスレコーダーを受け取りました。帰り際に、

「ユウナと友達でいてくれて、ありがとうね」

 と言い残して、トボトボと去っていったユウナのお母さんの背中は、今にも消え入ってしまいそうなほど、弱々しく見えました。


―——―――――――――――————————————————————————

0417 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:29:56.48 ID:p2c5T4Zb0


 それから、私は毛布の中でひとしきり泣いた後、ノートパソコンを立ち上げてユウナのボイスレコーダーに保存されていたデータを検めることにしました。ユウナが遺した思い出を大切にとっておかなければと思い、バックアップの準備も万全にして。

 確認してみると、中には膨大な量の音声ログが入っていました。定期的に吸い出していたのか、一番古い日付は三カ月ほど前のものでした。

 膨大なデータを、ひとつひとつ再生しては悲しみに暮れました。どの音声ログも一分から三分ほどの長さで、普段の何気ない日常会話が録音されているばかりでしたが、それが反って私の心を揺さぶりました。

 本当だったら、何年も経った後、二人でこれを聴いて、懐かしいねと笑い合っていたはずなのに。


 そんな風に、ぐずぐずと思い出を反芻し続けていた時でした。

 あの忌まわしい音声が、再生されたのは。


―——―――――――――――————————————————————————

0418 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:34:12.54 ID:p2c5T4Zb0


 その音声ログは、ユウナが死ぬ一週間ほど前の、時間帯でいうと真夜中に記録されたものでした。

 最初の方は、衣擦れのようなザリザリとしたノイズから始まり、それが止んだと思ったら、洟を啜っているような音が小さく聴こえてきて、それは次第に、啜り泣きの声に変わっていき……ユウナの涙声になりました。

 膨大な音声ログの中には、たまに独り言を録音しているものもありましたが、そのどれもがちょっとした愚痴や、些細な出来事の報告、楽しそうな鼻歌などであり、泣き声を録音しているログというのは無かった為、私は思わず身構えました。

 まさか、これは、ユウナの死に関係しているログなのでは。

 そんな、恐ろしいような、後ろめたいような、言い様の無い心持になりながら、私はその音声ログを聴き入りました。







 ごめんね、ユウナ。

 なんで、言ってくれなかったの。

 どうして、気付いてあげられなかったんだろう。


―——―――――――――――————————————————————————

0419 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:38:34.06 ID:p2c5T4Zb0


 何でも話せる仲だったのに。

 相談してくれたら、きっと。

 でも、あんなこと話せないよね。

 怖くて、相談なんかできないよね。

 辛かったよね。苦しかったよね。

 ごめんね、ごめんね。


―——―――――――――――————————————————————————

0420 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:40:19.58 ID:p2c5T4Zb0


 なぜ、気付くことができなかったのか。

 今も、死ぬほど後悔しています。

 その後に記録されていた、私とユウナの日常会話のログを聴けば尚更。

 ユウナは、平然を装っていたのです。

 まるで、自身に降りかかった悪夢のような出来事など、無かったかのように。

 いや、こう思いたかったのかもしれません。

 あれは、悪い夢だったんだと。

 あんなこと、現実には起きていないのだと。

 でも。

 逃れられなかったんでしょう。

 受け止めきれなかったんでしょう。

 だから―――。




 許せない。

 絶対に、許さない。

 ユウナを傷つけた奴を。

 いや。

 ユウナを死に追いやった、あなたを。


―——―――――――――――————————————————————————

0421 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:42:46.37 ID:p2c5T4Zb0


 ログの音質は悪かったけれど、声で分かりました。

 あれは、あなたですね。

 よくも、ユウナを。

 よくも、あんなことを。

 絶対に、許さない。

 仲間だと思っていたのに。

 優しくて、頼りがいのある先輩だと思っていたのに。

 許さない、許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない


―——――――――――――————————————————————————

0422 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:45:02.54 ID:p2c5T4Zb0


 でも、私も同罪なのかもしれません。

 私がユウナの異変に、気持ちに、気付いてあげられていれば、寄り添ってあげられていれば、きっとユウナは死ななかったでしょうから。

 だから、ちょうど良いのかもしれませんね。

 私がこれからやろうとしている事の結果を考えれば。




 人を呪わば穴二つ、といいますから。


―——――――――――――————————————————————————

0423 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:47:36.18 ID:p2c5T4Zb0


 警察に行くことも考えました。

 でも、あの音声ログが決定的な証拠になるとは思えません。

 それに、仮に立件できたとして、逮捕することができたとして、きっと重い罪に問われることはないでしょう。せいぜい、数年ほど刑務所の中に放り込まれるだけで、終わりだと思います。

 一人の人間の尊厳を踏みにじった末に、命を奪っているというのに。


 だったら、私がやればいい。

 いや。

 私とユウナで一緒にやればいい。


―——――――――――――————————————————————————

0424 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:51:43.22 ID:p2c5T4Zb0


 この方法は、サークルで気まぐれに、人を呪う方法について調べていた時に偶然知りました。あなたとは別の先輩が部室に持ってきていた、古めかしい民俗学についての本に載っていたものです。

 効くかどうかは分かりません。

 ただ、信憑性は大いにあります。

 だから、やるだけ、やってみます。

 安心してください。

 直接、手は下しません。

 夜道でいきなり襲うとか、駅でホームから突き落とすとか、そういったことはしません。

 あなたには、長い間、じわじわと苦しんでもらいたいから。


―——――――――――――————————————————————————

0425 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:57:56.30 ID:p2c5T4Zb0


 今日は、ユウナの四十九日です。

 ユウナがまだ、この世に霊として存在しているかもしれません。

 視えないだけで、私の傍にいるのかもしれません。

 見ててね、ユウナ。

 恨みを晴らしてあげるから。

 あなたの声を、世界に届けよう。

 届かなかった、あなたの助けを求める声を。

 呪詛を。

 広まれば広まるほど、ユウナの呪は力を強めるはずです。多くの人間から恐怖という信仰を得て、より深く、より黒く、より濃いモノになっていくはずです。

 そして、最後には、あなたに届いて、ユウナの呪は、きっと成就するでしょう。

 私には、それを見届けることは叶わないかもしれませんが、

 ね、

 ユウナ、

 約束したもんね、

 ずっと一緒だよって、

 だから、、、、、


―——――――――――――————————————————————————

0426 りんね◆Ftk3Skwg6PE

2019/05/14(火) 23:59:21.47 ID:p2c5T4Zb0


 http://twitter.com/yuuna_noroi/status/☓☓☓☓☓……


―——―――――――――――————————————————————————

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る