チートAI&記憶喪失系美少女と作っていく、このクソみたいなサイバーパンク世界の百科事典。【ニュー・オオサカ・スカーレット】
雨有 数
第1項 備えあれば憂いなし。旧式コードがあればなお良し。
『無銘さん、聞こえていますか~? 大体ゲームだとこういうのって、通信悪くなるのがお約束なんですが――』
「通信状況に問題はない。視界は不良だ」
飼い主兼オペレーターのハッカーに返事をして、俺はゴミ山を下った。
眼前にそびえ立つ建物から漂う黒煙で視野が狭まるが、行動に支障はない。脚部にまとわりつく機械の線だの、骨だの、肉だのを踏み砕きながら……俺はもう一度ハッカーに通信を行った。
「第一目的地に到着した。解錠を頼む」
『はいはーい☆ では有線接続をお願いします』
脳内にキャンキャンとしたハッカーの声が響く。この頭を揺さぶられるような感覚は、何度聞いても慣れることはないだろう。
俺は大人しくハッカーの言葉に従って、接続できる箇所を探した。
周囲のガラクタたちと比べて、妙に小ぎれいな建物。ペタペタと光沢が残る建築物の表面に触れていく。
『そうですね。もう少し下でしょうか?』
ハッカーの言葉に従うように、視界に矢印が現れる。それにならって、下に視線を落とせば――あった。
接続口を発見。俺は手首の皮をめくって、血管を模したコードを引き伸ばした。それを扉の制御版に接続。見たこともない端子、ハッカーが事前に俺のコードを交換した理由が理解できた。
『接続確認☆ さて、ここのセキュリティはどうでしょうかねぇ~? ん~、レベル1のスライムですね。はい、解錠! 経験値もゴミみたなものでした~☆』
時間にしておよそ五秒。
プシューと音を立てて開いた扉を確認、俺はコードを引き抜いて手首に戻した。ハッカーは雑魚と言っているが、彼女の指標を信じてはならない。
その名前が示す通り、ことハッキングの腕前において彼女は神域に達している。彼女にとっては雑魚でも、他のサーファーには強敵ということも往々にしてあり得るのだ。
『所詮は数百年前のガラクタですね。セキュリティもこの程度でしたか』
「そんな遺跡に俺を送り込んで、何が目的なんだ?」
『ああー、もう言っても良いですかね。ふふふふ、聞いて驚かないでくださいね?』
「……」
勿体ぶるハッカーに俺は無言で返事をした。こういう時のハッカーは大抵カスみたいな理由なのだ。
ある意味で、驚かされる。真面目に取り合う方が馬鹿らしい。
『数百年前の施設ですよ!? あるじゃないかもしれないじゃないですか――萌え萌えキャッチャーみゆきちゃんが!!!!』
「聞いて損した。今から帰っても良いか?」
『何を言ってるんですか! 萌え萌えキャッチャーみゆきちゃんですよ!? はぁ~……これだから無銘さんみたいなサブカルチャーに理解のない陰キャは困っちゃいますね~。萌え萌えキャッチャーみゆきちゃんはですね、そのタイトルからは想像もできないでしょうけれど、とっても胸熱な展開と――』
ハッカーのボリュームをゼロに。これがハッカーの百ある悪癖の一つだ。ハッカーはオタク――という奴らしい。それが何かは知らないが、とにかくハッカーに好きな物を語らせると冗談抜きで1時間は止まらない。
彼女のオタク話を誘発してしまった自分の非を感じつつ、踏み入れた施設を眺めていく。この施設が稼働していたのは200年も前の話らしいが――内部はそう思わせない程に綺麗だった。
もちろん、経年劣化はあったがそれを加味しても普段俺たちが暮らしている“外”の方が余程に汚らしい。
『ぜーったい私の話を聞いてませんでしたよね? まぁ無銘さんみたいな低俗な人間にはこの高尚な作品の良さは伝わりませんか』
「そういうことにしておこう」
『さて、大抵の貴重品は奥にあるというものです!』
「そうか?」
『はい! RPGでも、目的のブツは手強いボスを突破して入手するものでしょう?』
RPGが何にせよ、ハッカーの知識は見当違いだ。今まで、こうした語り口でハッカーが正しいことを言ったことはない。信じるに値しない戯れ言だが、それでも俺は従わなければならない。
今も動いているらしい精密機器たちを横目に、俺はハッカーの言葉通り施設の奥を目指す。
『あ、その前に地図や施設の制御権が欲しいので管理室を探して貰えますか?』
「手がかりは?」
『さぁ? それが分かれば、今頃無銘さんの視界に映していると思いますケド?』
「……」
ため息を吐いて、俺は周囲をつぶさに観察した。大抵、こういう施設にはフロアマップがある筈だ。しかも、この施設は不特定多数の人間を収容するためのもの。ならばマップはあってしかるべきだが――。
「あった」
壁に掲示されているのは褪せた地図。「地図のデータを送る」俺はハッカーにそう告げて、パシャリと右目に仕込まれたカメラを作動させた。
『なるほど、ここがこうなってあそこがこうで――ふむふむ。はい、不完全ですが管理室までのルートが想定できました。案内を視界に表示しますね☆』
「助かる」
視界――より正確には視覚機能に投影されたホログラムだが……ともかく、俺の目には矢印のネオンサインがチカチカと点滅して行く道を指し示していた。これもハッカーの特技だった。
俺と一部の感覚を共有し、その感覚にこうした小細工ができる。一流のサーファーが企業のオペレーターとして重宝される理由の一つである。優秀な兵士が優秀なオペレーターと力を合わせれば、実力は足し算ではなくかけ算だ。
俺自身の実力はともかく、ハッカーは間違いなくニュー・オオサカでも指折りのサーファーだった。性格はこの街に相応しいカスみたいな奴だが。
「ついたぞ。管理室だ」
階段をのぼって、扉を開ければずらりとコンピューターが並ぶ部屋にたどり着いた。目につくのは乾いた血だまりの跡。そして、その上で伏す死体。人数にして二人、どちらも白衣を纏っていた。
『おや、殺された形跡がありますね。こんな閉鎖空間で一体何に殺されたんでしょうか』
「そんなことよりも、このシェルターはいつからあるんだ」
俺はさっきと同じように手首から伸びるコードを機械に接続。疑問点をハッカーに聞いた。『そうですね。シェルター012が完成したのはグレート・リセットよりも更に27年前です』「つまり?」グレート・リセットが何年前かも覚えていないのに、そこから更に何年前だと言われても分かるはずがない。
俺の返事を鼻で笑って、ハッカーは小馬鹿にするように答えた。
『241年前です。グレート・リセットの年数くらいは覚えておきましょうよ。近代史の常識ですよ?』
「教育を受けてると思うのか? 仮に受けていたとして、自分のことも覚えてないような奴が覚えてるわけもない」
『それで、どうしてそんなことを?』
「死体だ。200年前以上のヴィンテージ品には見えない。つまり、ある程度までこの施設は稼働していたこととなる」
『それが私たちの目的に繋がるのであれば名推理ですね☆』
俺は頷く。言外の意味を察し、俺はコードを引き抜いて戻す。
つまらない推理ごっこを俺が嗜んでいる間に、ハッカーは自分の仕事を終えたらしかった。新しいネオンサインが俺の視界に現れる。
『では、最奥に向かいましょう☆』
「すぐに見つかればいいんだがな」
まぁ、本なんてあるわけがない。あったとしても死体か、機械か、その程度だろう。とはいえ、それを言ったところでハッカーが諦めるわけもなかった。自分の目で確かめさせて、潔く諦めて貰おう。
矢印の動きに従って、俺は自動的に開いていく扉をくぐっていく。ハッカーが手を加えているのだろう。彼女の献身的なサポートを受けつつ、無機質な壁に囲まれながら俺は黙々と歩いて行った。
行けども行けども景色は変わらない。
経年劣化で灰色になった壁と、汚れが溜まった床。時折部屋はあれど、中は大体同じ。人の死体があるかないかぐらいしか変わらなかった。
「これがシェルターか」
『何か思うところでもあるんですか?』
「どうせ閉じ込められるなら、楽しげな場所の方が良かったと思ってな」
右、左、右と分かれ道を進みつつ、俺は暇を潰すように話した。『そんな余裕がある世相ではなかったんですよ』応じるハッカーの声も落ち着いて聞こえる。そんなものか、そう返事。
『はい、そんなものです。日本国民全ての保護を名目として建設予定だったシェルター群――ですが、その大半が首都だった東京と大阪に建てられたんです』
「人口が多いからだろう。不思議なことではない」
『はい☆ ですが、この時の都会優遇政策はグレート・リセット後も続くこととなり……結果として日本の内乱を引き起こすこととなるのでした~☆』
ハッカーちゃんの可愛いミニ授業コーナーでした、なんて言って彼女はこの会話を締めくくる。旧時代の日本がどのような世界だったか、それはもう分からないが少なくとも今よりはマシに違いない。
今よりも豊かで、人もいて、平和だった時代。
そんな時代でも、余裕がないのだとしたら……きっと今の世界はただの地獄だ。
「さて、そろそろ最奥だぞ」
『ええ、そのようですね』
階段を降りて、地下へ地下へと進んでいけば。無限に続くわけもないので、いずれは深部へ到達する。やや施設の雰囲気が変わった。さっきまでは最低限の体裁を保っていたが――ここはむき出し。
何かのコードやら機械やらパイプやらが、そのままの姿で放り出されている。階段を降りきって、周囲を確認。
目に入るのは巨大な兵器だ。二足歩行ロボット――シェルターの外ではお目にかかれない、いかにも旧時代らしいデザインのそれ。ずらりと並んだロボットは、計10機。
嫌でも身構えてしまう。
『もう動くことはないと思われますのでご安心を☆』
「だといいが」
『何年前だと思ってるんですか~? こんな骨董品、動くわけないですよ~! あ、これはフラグですかね?』
「知らん」
ハッカーのオタトークとやらにはついて行けない。ともかく、その言葉を信じてロボットたちの前を通過。
透明なケースに入れられたロボットたちは、ピクリとも動かない。大人しく、ケースの中で息絶えていたようだった。『警備用ロボットですね。動かなくて命拾いしました』視界にハッカーが送信した、ロボットのスペックが表示される。
「性能は高いな。UWシリーズの中級<ブシ>相当か」
『今の装備では無銘さんでも苦戦は必至でしたね』
「だな」
ハッカーに同意。そのままロボットたちの歓迎を受けながら、俺は最奥を仕切る扉の前に立つ。厳重な扉は、強固なロックがかけられているようだが……この施設の中枢を乗っ取ったハッカーにとっては障害になり得ないらしい。
『このシェルターで最も厳重なエリアです。絶対、ここに萌え萌えキャッチャーみゆきちゃんがありますよ~!』
「……」
絶対ないだろ、そう思ったが口には出さない。
プシューと音を立てて開く扉をくぐって、俺は中へと足を踏み入れた。
「……なんだ、ここは」
久しぶりに、度肝を抜かれた。
扉の先に待っていたのは……ずらりと並ぶ棺桶。より正確には、人が入った何らかの装置。それが四列に渡ってずっしりと一面に敷き詰められていた。
それぞれの列の間は人一人が通れるくらいしかなく、それぞれの装置はまだ稼働しているらしく白い冷気を漂わせている。明らかに異様な光景。こんな場所にハッカーのお目当てが置いているわけもない。
ただ、今はそんなことよりも装置が気になった。
一番手近な装置に近づいて、備え付けられた窓を覗く。中にいるのは凍った人。
今じゃお目にかかれない生身の人間だ。「ハッカー」俺の視界を通じて見ているであろうハッカーに声をかける。
『これは……コールドスリープ。こんな技術まで確立していたなんて、少し驚きですね』
「冷凍保存技術か。つまり、ここにいる全員が生きているっていうのか?」
『いえ、そうではないようです。幸か不幸か……コールドスリープという技術は、やはり旧時代の人々には先進的過ぎたようですね。何らかの原因で温度調整機能が破綻して、皆さん仲良く皆殺しだったみたいですね☆』
その原因とやらは、恐らく経年劣化だろう。数百年も経って、ロクに手入れもされないまま放置されてしまえば、どんなテクノロジーもいずれ破綻する。『運が良かったのは、誰も彼もが意識を取り戻す間もなく死ねたことでしょうか』そう締めくくって、ハッカーは大きなため息を吐いた。
『はぁ~~。空振りですか……まさか、苦労して掘り返したシェルターが冷凍死体の山だったとは』
「最初からそうだろうと思ってたがな」
『やれやれ系なんて今さら流行りませんよ~?』
ハッカーの小言を聞き流す。もうこんな場所に用はない。踵を返して帰ろうとしたところ――。
『あーっ!!!』
「……なんだ、ハッカー」
脳内でハッカーの声が突き抜けていった。
足を止めて、俺はうんざりしながらハッカーの様子を伺う。姦しい奴だが、好きなこと以外で声を荒げるのも珍しい。
『一つ、稼働しているものがあります……!』
「何?」
『だーかーらー! まだ稼働しているものがあるんですって! 解除します。無銘さん、今すぐにリンクを繋いでください』
「……分かった」
稼働しているものがあるとして、中にいる人間が生きているちう保証はない。いや、200年以上も前の人間が生きているとすれば、それは奇跡だろう。それと同時に、奇跡的な面倒事を引き込むということを意味しているはずだ。
けれど、ハッカーに逆らうという選択肢は用意されていない。
俺はうんざりしつつも、ハッカーがホログラムで示すポッドの前に立って挿入口を探す。今日のためにハッカーが用意した旧時代向けのプラグが、こうも役に立つとは思わなかった。
接続。
様々な情報が視界に広がっていくが、俺が見ても意味は分からない。それらの理解・解析はハッカーに任せて、俺はただ待つ。
数秒もすれば、ピコンという軽快な電子音と共にハッカーが声を荒げた。『生体反応――あります! 信じられませんが……この人、生きてます!』ハッカーの言葉に、流石の俺も腰を抜かしたのは言うまでもない。
『解凍処置を行います。無銘さん電力供給をお願いします』
「……分かった」
さらに驚いたのは、ハッカーが解凍――つまりハイテク古代人を現代に蘇らせようとしていることだった。これがロクなことにならないのは分かりきっている。それでも、俺はハッカーに従わなければならない。
視界に現れるポップアップに同意して、電力の供給を開始。まぁ、この施設の電力を賄うことはもちろんできない。ただ、俺が動力源代わりとなって本来の動力源をたたき起こすという寸法らしかった。
『さて、ここをこうして――さらに配線を変更。動力の流れを絞れば……』
周囲の電力が消失。
その言葉通り、施設のエネルギーをこの冷凍装置に集中させたようだった。『低電力モードに移行していたことが、長生きの秘訣だったみたいですね☆』なんて、俺の耳には意味のない解説を宣いながら、着実に作業を進めていくハッカー。
装置に吸い上げられる電力を感じつつ、俺は再度待つ。待つことおよそ数十秒。聞きなじみしかない軽快な音と共に、ポッドが開いた。
装置から零れていく霜。
地面を這うように広がっていき、胡散。
「ん――」
『驚きました。身体機能オールクリーン。旧時代の技術は時すらも限定的に克服していましたか――』
「数百年前の人間が、冷凍保存されていたっていうのに問題がないだと? 冗談もほどほどにして欲しいな」
思わず俺はため息を吐いた。
ハイテク古代人が生きていただけで驚きだというのに、何の問題もないときた。全く、旧時代というのはさぞかし恵まれた時代だったらしい。
「ここは……貴方たちは?」
ポッドを覗き込んだ俺。
パチリと目を開けたのは少女。今じゃ絶対に見ることはできない、全身リアルスキンの人間。長く伸びた茶髪の髪に黒い瞳、一切の混じりっけのない端正な顔立ち。なるほど、旧時代の人間というのは嘘ではないらしい。
「……俺は無銘だ」
「無銘……? 私は――」
『無銘さん! 緊急事態です! 少し不味いことに……』
少女の言葉を遮るようにしてハッカーの声が被さった。そして、そんなハッカーの言葉を遮るのは――「ガガガガ!」けたたましい嘶きと、入り口が吹き飛ばされる爆発音。
振り返って、正面を見据えれば――無人兵器。この施設を守っていたであろう守護者。停止していたはずなのに、どういうわけか起動している。
まぁ、考えられる原因というのは一つしかないわけだが。
『どうやら、電力集中させた結果……眠れる獅子を起こしてしまったようですね☆』
「はぁ……破壊するしかないな」
肩を回してデカブツを眺める。
埃は被っているものの、そのボディは艶を失ってはいない。俺ほどはあろう大きな身体と、それを支えるには些か物足りないような二脚の足。そして肩と思わしき場所には二丁の銃。
本来ならば真正面での戦闘は避けたいところだが――。「……なんで私たちがワイルド・ベアに狙われるの!?」背後を確認。装置から身を乗り出した少女が、困惑した様子で声を荒げた。
下手に避けると彼女が死ぬ。
俺としては別に構わないのだが――ハッカーに文句を言われると面倒だ。それに、こんなところまで来て収穫無しで帰るのも癪に障る。
俺は姿勢を落とす。
生憎と外装兵器はなし。
装着しているサイバーウェアでどうにかしなければならないわけだ。加えて、あれをこっちに寄せるのは不味い。巻き添えで少女が死ぬ可能性がある。ならば、俺が取れる選択肢は一つ。
間合いを詰めて接近戦で討ち取る。
脚部――膝から足裏までに仕込んだウェア“炸裂腱”を起動。地面を踏み抜いて急加速。およそ、3mほど離れた距離を瞬く間に詰めてやる。そのまま、速度の全てを乗せて左脚部に仕込んだブレードを展開。
回し蹴りの要領で――斬。
甲高い金属音が耳を打つ『堅いですね、斬れていません!』「チッ!」ハッカーの言葉を聞いて、着地後即サイドステップ。俺が立っていた場所に銃弾が降り注ぐ。間合いを維持したまま、銃口を向けられないよう位置を調整し続ける。
「挿入口は?」
『もう、待ってくださいね……背面中央です!』
「必要秒数は!」
『3秒もあれば余裕です☆』
ならば、と俺は停止。
無人兵器に搭載された二つの銃口が一斉に俺へと向けられる。「さて……」俺はもう一度脚部に力を込め――爆ぜる。
一気に股下をくぐり抜けた俺はそのまま両手で兵器の背中を掴んでやった。目的の挿入口がホログラムにより強調表示。俺は自身の手首からコードを引っ張りだして兵器に突き刺した。
真っ赤なウインドウが表示。現在の状況を示すバーが着々と積み上げられていく。
『3……2……1。はぁ、余裕過ぎてつまらないですね。はい、ショート☆』
ハッカーがそう言えば、身体中から黒い煙を吐き出して兵器はその場に倒れ込んだ。火花を散らして、電流が機械の身体を巡っている。
こっちにも被害がこないよう、コードを抜いて俺は兵器から離れた。
「メタル・ベアを一人で……? 一体あなたは……」
俺の元へ駆け寄ってきた少女、困惑した表情でそう零していた。
「一人というわけでも――っ!」
返事をした瞬間。
背後から駆動音が響けば――諦めの悪い無人兵器がその銃口を少女に向けていた。不味い――!
迷わず加速。
少女の前に立って、代わりに弾丸を受け止める。
ダダダダン!
およそ5発。最後の力を振り絞った射撃が俺の身体を揺らした。
「そ、そんな……! 私を庇って……?」
「じゃないと、俺のツレがうるさいもんでな」
「え、生きてる?」
なんともないように振り返った俺を見て、少女は眼をぱちくりとさせて驚いた。「まぁな」銃弾を受けてか、俺の身体を覆っていたローブが落ちてしまう。
「その身体は――」
「俺は無銘。怪物とよく言われているが……こう見えても人間だ」
さらに驚いた表情を見せる。
無理もない。俺の身体はそのほとんどが機械に置き換わっていたのだから。
「わ、私は――イオリ。桐原イオリです」
驚いて戸惑っているであろうに、俺には彼女の名乗りが毅然としたものに聞こえたのは……恐らく気のせいではなかった。
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