123 不適切にもほどがある
「これは、我が社商品開発史上初の大ヒット間違いなし!」
プロジェクトリーダーの岡田は、そう豪語して新商品の発表会に臨んだ。壇上に立つ彼の顔は、自信と誇らしさで輝いている。社員たちも胸を張り、取材陣が埋め尽くす会場にざわめきが広がった。
「皆様、本日ご紹介するのは、画期的なアイテム『すべて適切リモコン』です!」
拍手が湧き起こる。彼は勢いよく続けた。
「このリモコンは、私たちの日常に潜む『不適切』な行動や発言を自動的に検知し、それを適切に修正します! 例えば……」
岡田はリモコンを操作し、目の前のモニターにリアルタイムで試験用AIロボットを映し出した。ロボットは何やら独り言をつぶやいている。
「えー、社長の髪型、マジでダサくね?」
瞬間、リモコンがピピッと音を立て、ロボットの声が改変された。
「えー、社長の髪型、すごく個性的で素敵ですね!」
会場に笑いが広がる。岡田は得意げに説明を続けた。
「これで家庭でも職場でも、言葉の失敗を恐れる必要がなくなります。さらに!」
彼はボタンを押し、リモコンを会場全体に向けた。すると、誰かが小声でつぶやいた声が拡大される。
「プレゼン長いな……」
再びピピッと音がし、声が修正される。
「プレゼン、非常に充実していて興味深い!」
「すごい……」
観客が感嘆の声を上げた瞬間、ひとりの記者が手を挙げた。
「素晴らしいアイデアですが、適切すぎると個性が消えませんか?」
岡田は慌てず、にっこりと笑った。
「いい質問ですね。実は、このリモコンには『適切の範囲を自由に調整できる』機能も備えています。例えば、政治的に適切な範囲から、ブラックジョークが許される範囲まで設定可能です!」
記者たちはメモを取りつつうなずいた。しかし、その瞬間、リモコンが突然誤作動を起こした。会場の声が次々と拾われ、全て「不適切」の範囲に分類されていく。
「こんな商品、クレーム必至だろうが!」
「岡田の鼻毛見えてるぞ!」
「このプロジェクト、予算無駄だったな!」
岡田の顔が青ざめる中、リモコンは最後に会場全体に向けて冷静にこうアナウンスした。
「現在、この場で最も不適切な存在は……開発者です。」
会場は静まり返った後、大爆笑に包まれた。
結局、「すべて適切リモコン」は正式発売されることなく姿を消した。
不適切にもほどがあるとの理由からだった。
もしジョーク商品としてなら、成功していただろうことは言うまでもない。
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