69 アンケートは忘れられた

ある静かな町に、不思議なアンケートが出回り始めた。それはただ一つの質問から成り立っていた。

「もし、あなたが一つだけ願いを叶えることができるとしたら、何を願いますか?」


町の人々は、この質問に夢中になり、様々な答えを書き込んだ。

愛、富、健康、平和... 人々の願いは多岐にわたった。


しかし、このアンケートには奇妙な噂があった。答えを書き込んだ人々は、次第にその願いを忘れていくというのだ。

最初は誰も信じなかったが、やがて町の人々は自分たちの願いが何だったのか思い出せなくなった。


アンケートを配っていたのは、町のはずれに住む老婆だった。彼女は町の人々が願いを忘れるたびに、若返っていくように見えた。


町の図書館司書であるカズオは、この謎を解明するために調査を始めた。

彼は、アンケートの裏に隠された小さな文字を発見した。「真の願いは、忘れられた時にのみ叶う」と書かれていた。


カズオは、町の人々が本当に願っていたことは、物質的なものや表面的な幸福ではなく、心の平和と自己の忘却だったと気づいた。彼らは、日々の悩みや欲望から解放されたかったのだ。


老婆は、実は善い魔女であり、人々の真の願いを叶えるためにアンケートを使っていた。

カズオがこの真実を理解した時、町は突然明るい光に包まれ、人々は心の平和を取り戻した。


そして、カズオ自身も、自分が何を願っていたのかを忘れた。

彼はただ、この美しい町で、新たな一日を迎える準備をしていた。

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