62日目 異世界

「おい、本当にいいんだな?」

「うん、頼むよ」


僕は朝からショーンに修行を頼んだ。

冒険者たちは、今日それぞれの街へ帰る。

だから、今回のクエストではここで解散だ。


それでこのままじゃ勿体ないと思い、ショーンのスキルをくらってみることにした。


「水属性の技は一番弱いので【流突き(るづき)】。

それでもいつもの突きの数倍は攻撃力があんぞ?」

「おぉ!

すごい!」


「お前怖くないわけ?」

「いや、怖いよ!」


「……それ怖がってるテンションじゃねぇだろ。

お前セリフと表情が合ってねぇぞ」

「【ガード】いつでも発動できるよ!」


「じゃぁいくぞ!

【流突き(るづき)】!」


ダッ!

ショーンが踏み込む瞬間に【ガード】を発動する。


ドガッ!


凄まじい威力だ。

いつもの鋭さに加えて、重みがある。


僕の身体が吹っ飛ぶ。


ガッガッガッ!


地面を転がり続ける。




カチャリ




意識はあるので、転がりながら【ヒール】を使う。


なんつー威力だ……


ズザァー!


やっと止まった。


「おい!

大丈夫か?」


僕はとにかく【ヒール】を重ね打ちする。

【ガード】したのにHPの半分以上を持っていかれた。


「いてて……

まぁなんとか……」


僕は【ヒール】を使いながら立ち上がる。

地面を転がり続けたせいで、泥だらけだ。


「んで、どうだった?」

「凄かったよ!」


「いや、そうじゃねぇだろ……

スキル出たかって聞いてんだよ」

「ぁ、そうだったね……って、すご!」


「何が出たんだ?」

「【盾戦士】のジョブと【水耐性】、それから【補助魔法】と【プロテクト】が出たよ!」


「は?

ジョブとスキル3つ?」

「そうだよ!

ありがとう!」


「さすがに一撃でジョブとスキル3つは聞いたことねぇぞ……

お前、化けるかもしれねぇな……」

「【プロテクト】は耐性が上がるのかな?

使ってみよう。

【プロテクト】!」


「……話聞いてねぇな、これ」


おぉ!

身体の周りに薄い膜ができたようだ。

魔素を目に集めればよく見える。


「よし!

これなら【プロテクト】と【ガード】を同時に使って、もう少し攻撃に耐えられるようになるよ」

「良かったな!」





「じゃ、こっちに来るときは顔出せよ」

「うん、また修行頼むよ」


僕たちは軽く挨拶をして、解散をする。

ノーツさんパーティと僕たちの街、アインバウムへ戻る。










道中は手強い魔物も出るはずもなく、シングルヘッドも出ない。


……はずだった。


「おい!

どうなってんだ!

シングルヘッドの数がおかしい、来るときより増えてねぇか!」

オルランドさんが大きな声で言う。


確かにおかしい。

最初はシングルヘッドが1匹いただけだ。


そいつを倒している間に、他の魔物が湧き、さらにシングルヘッドが3匹も出た。


ノーツさんの話だと、去年はダブルヘッド討伐後、帰りにシングルヘッドは1匹もいなかったそうだ。


嫌な予感がする……


「まずいな……

とにかくさっさとシングルヘッドを討伐して、今日の合流地点まで戻るぞ!

おい、ラウール!」

「おぅ、まかせろ!

【円月斬】!」


ザシュッ!


ドサッ!


ラウールさんがシングルヘッドを1匹仕留める。


「おい見ろ!

シングルが更に湧いたぞ!」


カーシーさんの指差す方向にシングルヘッドが更に3匹、合計5匹だ。

まずい!

今のパーティは僕を含めて5人。


倒せるだろうが、これ以上湧くと対応できなくなる。


「ダメだ!

一旦引くぞ!」


僕とカーシーさんの後衛から、撤退をする。


魔物の注意は前衛にあるので、全力で走る。


「大丈夫だ!

お前らも早く来い!」


カーシーさんが叫ぶ。


「おい!

ダブルだ!

ダブルがいたぞ!

逃げろ!!」


ラウールさんが大声で叫ぶ。



なっ!

まだダブルヘッドを討伐しきれてなかったのか!?



5人でダブルは無理だ!

「急げ!

俺たち後衛がまずは逃げるんだ!」

カーシーさんが叫ぶ。


ノーツさん、オルランドさん、ラウールさんの前衛が注意を引いてくれたお陰で、だいぶ距離を取ることができた。

振り返って確認する。

ノーツさんたちも少し遅れてこちらに走ってくる。


おぉ、なんとか逃げ切れたようだ。

僕は視線を前に戻す。


!!

銀色の大きな影が目の前に現れる……


ダブルヘッド……


最悪だ……


目の前にはダブルヘッドが2匹いる……


「グガァッ!」

「【ガード】!」


ガギンッ!


僕は宙を舞う。

ダメだ、【ガード】でもふっ飛ばされる。


なっ!

目の前のダブルヘッドはもういない。


動きが速すぎる。


「ガァッ!」


【ガード】の効果が切れると同時に僕の意識は無くなった……














目を覚ますと、真っ暗で何も見えない。


僕は……


そうだ!

ダブルヘッドだ!


痛ッ!

なんだこれは!?


両肩と両太ももから痛みが走る。

四肢が折られているようだ。


一体どうなったんだ?

【ヒール】!


両肩が淡く光る。


!!

なっ!


光で周りが少し見えた。


ノーツさん!


ノーツさんが横に倒れている。

同じく四肢を折られ、気を失っているようだ。


【ヒール】!

僕は【マルチタスク】で自分とノーツさんに【ヒール】を使っていく。


くそ!

ここはどこだ?


わからないが、とにかくHPを回復させよう。


自分とノーツさんにひたすら【ヒール】を使っていく。


【ヒール】の光だけでは辺りはよくわからない。


真っ暗で酷く空気が淀よどんでいる。

洞窟の中だろうか。


嫌な匂いもする。

血の匂いだ……


最初は自分のものかと思ったが、そうじゃない……


僕とノーツさんを全快させる。



【炎魔法】


炎の明かりで辺りを確認してみる。


!!!


なんだこれは!


辺りには冒険者のものと思われる死体が転がっている……


それもバラバラに引き裂かれている。


まずい!

ここにいたら間違いなく殺される!


僕は【水魔法】を使ってノーツさんの顔に水をかける。


「うぅっ……

ここは……

狭間くんか」

「はい、気が付きましたか?」


ノーツさんは辺りを見渡し、自分の手足を確認する。


「そうか、狭間くんが治してくれたんだな?」

「はい、僕もノーツさんも肩と太ももを折られていたようです」


「一体何がおこってるんでしょうか」

「……………………」


暗くてよく見えないが、ノーツさんは考え事をしているようだ。


「まずいな……

そうか、ダブルヘッドに連れてこられたってわけか」

「どういうことですか?」


「ここはおそらく奴らの巣だ。

討伐しそびれたダブルヘッドのねぐらってわけだ」

「ねぐら……?

どうして、僕たちはここに?」


「……食料だよ。

そこに転がってる奴らはそういうことだ……」

「ぇ……それって……」


「そうだ、俺たちを食うために巣穴に持ち帰ったってことだ。

俺は気を失う前に四肢を折られた……」


「奴らは食料の鮮度を保つために、殺さず逃げられないようにして巣穴に持ち帰るんだ。

まさに今の俺達がその状況ってわけだな……」


なんてことだ……

殺されなかったのはそういうことか……


「とにかく脱出するぞ」

「はい、【プロテクト】をしておきますね」


僕は自分とノーツさんに【プロテクト】をしておく。


「ラウールたちもいるかもしれんが、脱出が優先だ。

生きて、脱出してもう一度騎士団と来るしか無い」

「……わかりました」


薄暗い洞窟の中を【炎魔法】の明かりを頼りに進む。

通路はシングルヘッドやダブルヘッドが通るのだろう。

人が通るには十分な幅だ。


「俺はそれほど強力な攻撃スキルを持ってないが、補助があればシングルくらいなら倒せる。

ダブルがいたら、一旦引くぞ。

回復を頼む」

「はい、わかりました」


少し進むと道幅が徐々に大きくなってくる。


「……何体かいるな。

シングルだけならいいが……」


「ガァッ!」


こちらの明かりに気づいたようだ。

一匹突進してくる。


ガギンッ!


ノーツさんが盾で受け止めると他のシングルヘッドも突進してくる。


僕は突進してくる方向に【エアブレード】を予め撃っておく。


ブシュッ!


ある程度効いているようだ。


「フンッ!」

ノーツさんが盾でシングルヘッドを吹っ飛ばす。


よし!

僕は吹っ飛んだ方向にまた【エアブレード】を撃つ。


ブシャァッ!


シングルヘッドの血が飛び散る。


やっぱりヤツらの突進や飛んで行く方向に合わせると威力が上がるな。


「【ガード】!」


ガギンッ!


大丈夫だ。

シングルの攻撃ならば、【プロテクト】と【ガード】で十分に対応できる。









「やるな、狭間くん。

攻撃魔法もそこそこ使えるのか」

「はい、ただタイミングを合わせないとあまりダメージが通りませんね」


時間はかかったが、僕たちはなんとかシングル2匹を倒した。


「MPは大丈夫か?

かなり使っていると思うが」

「はい、まだ半分以上あります」


「そうか、助かる。

もう少し先を行こう」

「はい……」


さらに道幅が広がっていく。


明かりだ。

出口が見えてきた。


!!


最悪だ。

出口にはダブルヘッド、シングルヘッドがごろごろいる。


「……ダメだ。

引き返すぞ」

「はい……」


僕とノーツさんは気付かれないようにゆっくりと来た道を引き返す。


「まずいな……

あれを突破するのは絶望的だ。

しかも、シングルを2匹やっちまってる。

俺たちが回復したことがバレるだろう」

「どうします?

他に道はありませんでしたよね」


「狭間くん、【土魔法】は使えるか?」

「はい」


「……そうか、レベルはいくつだ?」

「5です」


「厳しいな……

【土魔法】のレベルがあれば横穴を掘って脱出できる。

レベル5だと効率が悪い。

MPが尽きて終わりだろう」

「少しならできるかもしれません。

やってみます」


「……そうか」


僕は通路脇に手をあて【土魔法】を発動させる。

いつものように手から土を出すのではなく、目の前の土を消し去るようなイメージだ。


「……………………」


少しは土が減ったか?

これじゃダメだ。


今度は土を消すのではなく、移動させるようなイメージで【土魔法】を発動させる。


ズルズルと土が削れていく。


「このペースではやはり厳しいな」

「僕に考えがあります。

待ってください」


「そうか……」


僕は目の前に通路を作ろうと、【土魔法】を発動させ続ける。


「おい、あまりここにいると気づかれるぞ」

「もう少しです」


人二人分が入れるような穴をあける。

「奥に入ってください」

「わかった」


ノーツさんが奥に入ると、僕は空けた穴を【土魔法】で塞ぐ。

数カ所小さな穴をあけ、窒息しないようにする。


「なるほど……」


今度はそこからMPの限り通路を広げていく。

10mくらいは進んだだろうか。


「MPが尽きました。

明日また掘ります」

「わかった、狭間くんは休んでおいてくれ。

俺も剣で掘って進みたいが、音で見つかる可能性があるからな」


「ノーツさん、これを」

僕は毒を抜いた毒の実をノーツさんに渡す。

少しだけだが、【ストレージ】に入れておいた。

SPと【ストレージ】のスキルを上げるためだ。


「大丈夫です、毒は抜いてあります」

「ありがとう、いただくよ。

狭間君は?」


「僕はさっき食べました」

「そうか……」


本当は食べていない。

おそらくだが、僕は飲み食いしなくても死なない。


日本の病室で常に点滴を受けているからだ。


「美味いな……」

「これでノーツさんも毒喰らいですね」


「フッ……」

ノーツさんが小さく笑う。


なんとか生き延びなければ……


僕たちは【水魔法】で水分を補給し、その場で体力を温存するため動かずにいた。



狭間圏はざまけん

【聖職者:Lv18】

HP:172/172(↑+8)

MP:0/437(↑+1)【聖職者:+38】

SP:22/51(↑+3)

力:21

耐久:40(↑+3)

俊敏:37【聖職者:−2】

器用:14

魔力:29(↑+1)【聖職者:+30】

神聖:65(↑+2)【聖職者:+35】

【土魔法:Lv8(↑+3)】

【風魔法:Lv30 エアブレード:Lv9(↑+1)】

【盾:Lv12(↑+1) ガード:Lv8(↑+1)】

【水耐性:Lv0(New)】

【回復魔法:Lv28(↑+1) ヒール:Lv26(↑+1)】

【補助魔法:Lv1(New ↑+1) プロテクト:Lv1(New ↑+1)】

【etc.(17)】

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