第9話 コラボ配信・教えてステラ先生!① イントロ
「はい、というわけでぬるっと始まりましたコラボ配信! 今日のゲストはこちらの方です!」
「いえーい、皆様ご機嫌よう! ご紹介に預かりましたはわたくし、完璧で清楚なお嬢様ことステラでございますわ~~~~~~!! 皆様、今日はよろしくお願いいたしますわね!!!!」
ソラがライバー事務所『アンサンブラーズ』の協力を取り付けてから数日。
ワイバーン事件において彼が救出した事務所に所属するライバーたち、すなわちヒナ、リリ、ハルカとコラボ配信という形でダンジョン探索をするということが決まったのはいいものの、いきなり一緒にダンジョンに侵入するのもいかがなものかという話になった結果、その前に一度顔合わせをしようということになった。
そしてどうせ顔合わせするならばそれも配信してしまおう、ということになって今現在。彼は、ヒナたち三人組と一緒に彼女らの事務所にてとある企画配信を始めることと相成っていた。
その配信とはすなわち。
「というわけで今日の企画は配信タイトルにも書いた通りなんですけど、教えてステラ先生ということでこちらのステラさんに探索者の基礎とかそういうことを教えてもらおうって企画になりまーす! よろしくおねがいします~~~~!!!!!」
そういうことだった。
そう、ステラは明確に高位の探索者であるというのがその実力からも明らかであったため、それならステラの自己紹介や実力の紹介であるとかも兼ねて新人である彼女ら三人に、探索者のことをいろいろと教える企画をしようということになったのである。
『おおー!』
『こないだのチンピラお嬢様キター!』
『え、だれこの人』
『やったぜ。』
『ワイバーンの時に助けてくれた人だよ』
『コラボ感謝』
『なるほど勉強企画か、この人明らかに強かったもんな』
『正直俺も色々探索のことで聞いてみたいことはある』
配信部屋に備え付けられたモニターにコメントが流れる。
当然の話ではあるが今回はダンジョン探索配信ではないので、タブレット型端末ではなく据え置きのモニターの方でコメントを確認しているのだ。ちなみに今の同時接続数は五桁に入るか入らないかといったところ。
そのコメントや同時接続人数を確認する用のモニターの方にステラが気を取られていると、横から「てかさ」という声が聞こえる。
「ウチ、この人が来たとき? って気絶しとったからあんま知らんねんけど。後でアーカイブでは見ぃはしたけど話したことはないしなぁ」
そう言ったのは藍色がメインカラーの制服を着た少女、ハルカだった。
言われてみれば彼女はステラが助けに入ったときにはすでに意識がなかった上に、先日のマネージャーとの話し合いの時は彼女たち三人とも大事を取って病院に行っていたため今日このときまでステラと顔を合わせる機会がが無かったのである。
「そういやそうですね。私とリリちゃんは帰り道にちょっとお話させてもらいましたけど、ハルカちゃんは初対面でしたっけ」
「そ、そうだね……あと、視聴者の人も、っていうか私たちもあんまりステラさんのこと詳しく知らないし、自己紹介してもらえたら嬉しいな、って……その、いいですか?」
「ええ、もちろんよろしいですわよ」
話の流れで出た二人からの提案に、ステラは笑顔で快諾した。というか、元々自己紹介の類は必要なのだから承諾する以外の選択肢がないと言えば、それはそうであるが。
コホンと一つ咳払い。そして懐から何やらカードのようなものを出しながら、ステラは口を開く。
「えー、最初にも言いました通りわたくしの名はステラと言います。個人ライバーとして配信している……というか、前回のあの件の時にデビュー配信いたしておりました、女装お嬢様系Aランク探索者兼新人ダンジョンライバーですわ! 以後お見知りおきを!」
そして一息にそういうと、これぞドヤ顔と言わんばかりに自信満々の笑みを顔に浮かべた。
「わー、ありがとうございまちょっと待って????」
「あれ、今なんやおかしいこと言わんかったかこの人?」
「じょ、女装……? Aランク……???」
そんなステラの言葉に、目を丸くしてピシリと固まる三人組。
コメントの方も『待って待って情報量が多い』『今なんて????』『女装!!? この顔で!?!??』『この格好で? Aランク???(宇宙猫)』『なんでゴブネスにいたんだ(困惑)』などと阿鼻叫喚である。
そしてこの状況になるようなことを言ったステラはと言うと、相も変わらず「やってやったぜ」と言わんばかりのドヤ顔を続けていた。
そこに、いち早く復帰したハルカが「いやいやいやいや」と口を挟みにいく。
「ちょいちょいちょい、お姉さん……お兄さんか? どっちや? とりあえずステラさん、まず一つ目なんやけど、なんでそんなドヤ顔してはるん……?」
「いや、言ったら皆様驚いてくれるだろうなって思っておりましたたけど思ったよりいいリアクションがもらえたので、とりあえず今日のノルマは達成かな、と」
「うわめちゃめちゃわざとやんこの人ぉ!」
とてもいい笑顔で質問に答えるステラに、ハルカが引いたような表情でツッコミを入れる。
その顔を見て満足そうに頷いたステラは、「ちなみにAランクの方の証拠はこちらですわね」と言いながら先ほど取り出したカードを視聴者にも見えるようにカメラの前に差し出す。
それは、ステラの探索者証であった。
『うわマジでAランクじゃん……』
『うっそだろ』
『Aランクってめちゃめちゃ少ないはずなんだけどなんでこんなところで女装してるんだ……?』
『えぇ……(困惑)』
「あ、私にも見せてくださ、マジでAランクじゃないですか!?」
「ほ、ほんとだ……! すごい……!」
ようやく先ほどのショックから回復して動くようになった二人が、ひったくるように配信のカメラに向けていたステラの探索者証を見て再度驚く。
それも当然と言えば当然のリアクションだ。なにせAランクは探索者のランクとしては最高位。なので当然コメントでも書かれていた通りAランク探索者というのは非常に少なく、一国につき100人いるかいないか程度の数しかいないのだから。
それがこんなところに、しかも女装していたのならばそれはもう驚いても当然だろう。
「というか、女装って言いましたけど本当は男性なんですか……?」
そこで、そういえばとヒナが質問をする。
恐る恐るといった様子の彼女の顔には、わかりやすく猜疑の色が浮かんでいた。横にいるリリとハルカも同様である。
その言葉に、ステラは不思議そうな顔をした。
「ええ。見ればおわかりになるでしょう?」
「いやわからないから聞いてるんですけど???」
そして当たり前のようにそう言ったステラの言葉に、憮然とした表情でヒナが返す。その横ではリリとハルカもうんうんと頷いていたし、何ならコメントも『わからんが???』『何言ってんだこいつ』などとった言葉が多数流れてきている。
まあ、口ではああは言ったもののステラも内心は「そうだろうな」と彼女らに同意しているのである。元々の素質か、あるいは技術が卓越しているのか、それほどまでに彼の……というより、リクトの友人がステラに対して施した女装の完成度は高い。
「ちなみに声の方はこちらのチョーカーが変声機になっておりますわよ。あ、というか、マネージャーさんはわたくしの素顔見てますし女装するところも見学していらっしゃったので、わたくしが実際は男であるというのは彼女が証明してくださるのではないかしら」
そんな内心はおくびにも出さず、彼は「ねえ?」と横で配信している様子を確認しているアスカに視線を送る。ちなみに本日のメイクは、彼女が学校まで迎えに来た時に少し待ってもらって、その場に友人を呼んで行ったものであったりする。
そんな突然話を振られた彼女は、突き刺さる三人からの視線に顔を引きつらせると手に持ったホワイトボードに「本当ですよ」と書いて出す。それを見た三人は表情を無にしてカメラへと向き直った。
「どうやら
「嘘やろ……ぜんっぜんわからへん……」
「私、ちょっと自信なくしちゃうかもしれない……」
その表情のままそう言った彼女たちは、どこか遠くを見るような目で虚空を見つめる。
とりあえず固まったその三人はいったん置いておいて、コメントの方にステラが目を通してみると『マジかよ……』や『こんな美人なのに男……?』と驚きを隠さないもの、『さ、三人も可愛いよ!』『リリちゃん自信もって! 可愛いから!』というような三人を(なぜか)励ますもの、そして『それはそれで』『こんな可愛い子が女の子なわけがない』『変声機通さない方が嬉しいから変声機止めてみて』というちょっと性癖のゆがんだ第三勢力、この三つにおおむね分かれていた。
そんな全員が混乱している状況に、ステラは苦笑をこぼす。とりあえず思った通りに良い反応はもらえたものの、ちょっと予想外に驚かれてなんとなくもやもやしているのは内緒である。
しかし配信でいつまでもこうしているわけにもいかないだろう。ステラは「それにしても」と話題を変えるべく口を開く。
「三人とも、あんな事件があった直後なのによくこのコラボ配信をしてくれた……というか、探索者を続けるつもりになりましたわよね。ちょっと驚きましたわ」
そして出たその言葉。そう言ったステラに対し、ヒナは少し不思議そうな顔をした。
「えっと、それってどういう意味ですか?」
「ああいえ、ええと、どう言えばよろしいかしら、そうですわね……」
ヒナの言葉に、ステラは少し考えてもう一度口を開く。
「実際のところ。様々な理由から探索者になりたいと思う人は多いですし、それを行動に移す……つまり、探索者証を取ってダンジョンに潜る人もそれなり以上にいますわ。そして初めての探索が順調にいけばそのまま続けることを悩みもしないでしょう。しかし──」
そこで一拍。言葉を選ぶように間を取った彼は、そのまま話を続ける。
「──最初の探索で失敗した者。その中でも特に、あなたたちのように戦闘で大きな被害を受けた人は、その多くが探索者を続けようという気持ちを失くし、早々にやめていってしまいますわ。
そしてその最たる理由は、恐怖なのです」
「自信の喪失や金銭的理由でやめる人もそれなり以上にいますがね」とそこに付け加えたステラは、しかしそこでまた一度呼吸を置いて三人の顔を一度確認した。
三人とも、神妙な顔をしている。心当たりがあったのだろう。当然だ、彼女たちはそういう経験をしているのだから。
「ワイバーンに襲われた。それも初心者用のダンジョンで、出るはずのないモンスターだったそれに、です。その恐怖は、それはもう非常に大きいものだったでしょう。ですが、貴女方はまだこうして探索を続ける。そのつもりでこの配信に臨んでいますわ。
その勇気は、賞賛に値します」
そこでもう一度言葉を切るステラ。
彼に褒められたのだとわかり嬉しかったか、あるいは照れ臭くなったか。「いやぁ」などと言って頬を赤くする彼女らに、ステラは相好を崩して言葉を続ける。この際、『なるほどってなるんだけど温度差が』『さっきまでと今とで話の温度違いすぎて風邪ひく』などと言っているコメントたちは無視である。
「ですから、この度いろいろと教えることになりましたけれども。その前に、その勇気の源泉……すなわち、貴女方が探索者になろうと思ったその理由を教えていただけませんこと?
単純に興味本位で、わたくし、その話を聞いてみたいのです」
「無論嫌だというのなら無理強いは致しませんが」とそう締めくくった彼に、三人は目を見合わせる。
そして小さく頷き合った後、「そ、それじゃあまずは私が」と手を上げたのは、白が基調の少女、リリであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます